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王都編上
第64話 ギルド職員はキャラの濃さ採用
しおりを挟む「「はーーー」」
私とライアーが同時に息を吐き出した。
「……長かったな」
「長きですた……ッ!」
ようやく合同パーティーも解散され、慌ただしさから解放された私たち。
宿の部屋を取って(ペイン達と同じフロアだけども)ようやくだ。
王都の街中で疲れとストレスから開放された喜びに背伸びをした。
「さて、王都に来たはいいが何やるとか決まってないよな」
「そもそも私たちの活動も決まるすて無きですし」
「だよなぁ」
……。
…………。
やばい、やることが無い。
「ライアー希望してますたけど何かやること」
「俺のやることは夜が訪れないと出てこない」
「アッハイ」
早口で言われてしまった。
一応アイテムボックス持ちで要注意人物認定されてるっぽいからなー。
「冒険者ギルドにでも行くか?」
「そうですぞね」
何もやることないし。
「セントルムで目ぞ取り付けされた事も可能なら確認したきですね」
「……目をつけられた、な。いやでもギルドってホントに別嬪多いよなァ~。リリーフィアちゃんしかり、メルクリウス様しかり。はァ、なァんで俺のコンビがチビなんだか」
……?
「……なんだよ、不思議そうな顔して(てっきり『誰がチビだ』みたいな反応帰ってくると思っていたってのに……)」
私はライアーを見上げて言った。
「めりゅくりくりさん」
「メルクリウス」
「そうその人──彼、男ですぞ?」
「………………は!?」
仰天したライアーを置いてギルドっぽい建物目指して歩き始めた。
後ろから『またカマかよ!!!』といった悲鳴が聞こえた気がしたけど、多分気の所為だろうね。
==========
冒険者ギルドは時間帯がお昼時というのもあって、人はあまり多くはなかった。
人っ子一人居ないダクアの田舎ギルドに比べたら全然人が居るんだけど。
「お嬢さん1人かな?」
絡まれやすいけど。
あーーー。ダクアの田舎が恋しい。リリーフィアさんを除く。
「武器も持ってないみたいだけど、もしかして依頼かな? それならおじさんが案内してあげよう。あっちだよ」
普通に受付さされたから言い方は変質者でもまともな人っぽかった。
疑ってごめん。
「リィンッ!」
焦った声が聞こえて振り返ると、遅れてライアーが入ってきた。予想より速かったなぁ。
ライアーはそのまま私の肩を掴んで引き寄せる。
ポスッとライアーの体に私の体を預ける形になった。
ギュッとライアーの右手に抱き締められる感じになったし、ライアーが声を上げたせいでギルド内の視線が集まってくる。
「お前……コイツに変なことされてないか!?」
ライアーは必死にそう言った。
──目の前の男に向かって。
お前=おじさん
コイツ=私
完全に理解した。
「……えっ、逆じゃなくて?」
「くたばれッッ!」
下からライアーの股間に向かって思いっきり蹴りをぶち込んだ。
私からの攻撃に悶えるライアーが地面へと崩れる。ボディーブローでも良かったし、顎に掌底でも良かったけど、1番効いて記憶に新しい攻撃がこれだった。
「えぇ……逆じゃないか……?」
逆じゃなないかBOTになってしまったおじさんを無視して私は倒れ込んだライアーを踏みつける。
「ねぇ、アイボー。リィン、貴様にどう思うとされるすてるの? 可愛いリィンはとっても疑問だなぁ~」
「……ッ! ッ! 可愛いと自称する人間が……こんな容赦ない攻撃……入れるかよ……」
「え? もう1回って?」
「ギブギブギブギブ!」
ライアーはガタッと距離を離した。
周りの男共も距離も離した。
「お騒ぐしますたぁ」
「──本当になぁ」
笑顔でニッコリと愛想を振りまこうとすれば、背筋がゾッと寒気を感じた。
いつの間に、後ろに……!
「俺のギルドで騒いでるやつが誰かと確認に来たが──」
むぎゅっ。
………………ん?
「ふむ、いいケツしてんな」
私のお尻が揉みしだかれた。
「えっと、リィンとライアーだったな。待ってたぜ。メルクリウスから手紙で問題児が王都に来るって」
「成敗ッッッッッッ!!!!」
今度は鳩尾に決めた。
ギルド職員が『あぁ、またやらかした』みたいな顔してこの男を見ている。中には頭を抱えている職員もいるし、青い顔をして倒れた職員もいる。
「俺はここのギルマス、ゼウス。気軽にゼウス様って言っていいぜ」
……効いてねえな。これ。
「おいギルマス」
私に声をかけてくれたおじさんがチャキッと剣を向けていた。
「──お前またかよ! やいてめぇらこの女の子絶対守れ! この毒牙にかからせるな!」
「おうとも!」
「またギルマスに取られてたまっかよ!」
「くたばれギルマス!」
「花屋のイーファちゃんの怨み!」
「退職しろこの色ボケ!」
えぇ……。
なんだこれ。
ダクアが恋しい。とても恋しい。
セントルムではギルマス信者、王都ではギルマスアンチ。
ちょっと冒険者大丈夫かなって思っちゃう。そもそも『職業その他』に当たる冒険者ってまともな人間居ないんだろうけど。
私は冒険者達に守られるように囲われた。
ちやほやされるのはぶっちゃけ好きです。
「野郎共はどっか行けよ」
「お前には子供に手を出さないって脳みそはねーのか!」
「子供つったって月経迎えりゃ大概」
「おーーーーーーーいバカ! バカマス! イエスロリショタノータッチ! お前にゃ歳はあんま関係ないかもしんないが! こちとら大問題! なんだよ! くそ魔族!」
魔族?
私は人の隙間からひょこっと顔を出してギルマスのゼウスさんを見た。
黒いうねった髪に赤い瞳、
いかにも魔王ですみたいな顔した男。ただしにじみ出るのは色気。口元のホクロが似合っている。魔族と言っても見た目は人と変わらない。あぁ、でも若いな。20代と言われても不思議じゃない。
それに、これは……。
「──ライアーは比べものにならぬ……!」
「お前俺に喧嘩売ってどうするんだ?」
ようやく復活出来たライアーが私のそばに寄ってきた。
よ、煩悩の塊!
キャラ被りなのに同じ土俵に上がれない相棒さんチーッス。
「今すげぇそこはかとなくムカついた」
私もムカついてたからおあいこだね。
というか、私とライアーってなんでこんなに巻き込まれ体質なのか……。神様に問いただしたい。問い合わせフォームを出せ。
「サブマス! サブマスはどこだ! サブマスーー!」
「はいはいはいはい! ここっ、です!」
バビュンと勢いよくギルドの外から現れたのは、うん、すごく地味な感じのエルフだった。
「チッ、帰ってきやがった」
「またですかゼウスさん! 僕がせっせと大会に向けて設営の指示出してるって時に問題ばっかり起こして……ッ!」
暗い緑のショートカットのエルフ。ローブを着ていていかにもエルフみたいな感じがする。とてもファンタジー。
しっかし、このエルフがサブマスターか。ギルマスが暫定魔族でサブマスが確定エルフ族って、すごいよね。魔法国家王都の冒険者ギルドのトップ2。人外じゃん。
「この子! 保護! ギルマスに目ぇ付けれてる!」
「あーもう! あんたって人は……! って、え、Fランクのリィンさんとライアーさんでは……?」
「ねぇ何故そのようにしるされてるです?????」
本当にリリーフィアさんが何をしたのか分からないんだけど。
「サブマス!」
「はいはいなんでしょうか!」
「そのお嬢ちゃんに、ギルマスの注意点! 教えておいてくれ! 毒牙にかからせるな!」
「ギルマスの顔に惑わされずに攻撃した女の子は初めてなんだ……! この際歳はどうでもいいから女冒険者を保護せよ……!」
「うわぁ悲痛だな…………」
ライアーが阿鼻叫喚のギルド内にドン引きした。
まぁ、確かにゼウスさんの色気はすごいから魅了されるのも分からなくはない。
「……リィン、おいで」
「だーーーめだダメだダメだ!」
色っぽい声で呼ばれる。
あぁ、なるほど。理解した。
私はそのまま足を進めた。
「集中」
〝ウォーターボール〟ッ!〝六連〟!
水を一気に氷点下に下げる。ウォーターボールは穂先の様にとんがって凍った。水であればアレンジが効く。それは全て『イメージ』だ。明確なイメージを持てば、水は凍る。
ゼウスさんは目を見開くと、ヒュウ、と口笛を吹いた。
「無詠唱に上級水魔法……の、エリアアイスランスか」
「初級水魔法の水ぼーるですけど」
「えっ」
「えっ」
何を不思議がる? この歳の小娘だと上級魔法なんて使えないでしょうが。
「ふむ、なるほど。これが魔族」
魔法を使ってみてやっぱり確信した。
「……魔力ぞ吸収すてる?」
私がゼウスさんを見上げて首を傾げると、彼は『ふぅんおもしれー女顔』をした。
「魅了されねぇか。俺の吸収する魔力じゃ酔わねぇんだな」
「初めますて魔族さん、私の名前はリィン。魔族という種族には興味あるですけど」
じわじわと引き寄せられる、というより無理矢理奪われている。私は魔力感知及び操作が得意だから気付けたけど、これ普通の人は『魅了される』って感覚になるんだろうね。
魔法に関してはわけがわかりませんみたいな顔したライアーもいるし、後で問い詰める。そう、後で。
私はキッと睨みつけた。
「──とりあえずリリーフィアさんが何ぞ根回しすたか教えるして!」
それだけは切実に、お願いします。
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