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道中編
第58話 胃痛案件断固拒否
しおりを挟むキラキラと輝く太陽。
とても爽やかな朝。
市場は朝にも関わらず人に溢れており、活気で溢れている。
クアドラード王国コマース領首都セントルム。
商売人が多く、クアドラードの市場とも呼ばれるこの街に。
「おえ……やっと着いた……」
「疲れた……」
「眠い……無理やて……」
「…………(無言で死んでる)」
「……あぁ……生き延びた……」
死屍累々の私たちが到着した。
正気の沙汰ではない男が道中激しくやらかしてくれたからもう大変。
プチスタンピードもどきを必死で潰して、逃げて。馬車に乗るとめちゃくちゃ酔うから魔力が減るのも承知で私は箒に乗った。いざと言う時私の魔法が生命線になるから。
でもその代わり私はめでたく徹夜。限界って時は幌馬車に戻って気絶させてもらって休んで、休憩無しで御者も交代して。
上機嫌なのは分かった。でも鼻歌歌いながらリスカをするな血で魔物が呼び寄せられる。
それでもマッド野郎は。いや、それすらも面白いらしいクソキチガイ狂人が手を叩きながら大爆笑。挙句貧血だからと気絶する結末。てめぇのケツくらいてめぇで拭けよ、と。何度言ったことやら。胃痛に重なる胃痛。もう私の胃は大変よ。
「とりあえずギルド行って……通行記録つけてもらわなきゃ……」
ペインがフラフラと向かう。
宿、取っとこうかと思ったけど思ってたより人多いからギルドで聞いた方が確実かな……。
ちなみに私は疲れてるけど到着する前に睡眠取らせて貰ってたから比較的平気。……まぁその前が地獄だったんだけども。
しばらく大通りを歩くとダクアよりも少々シンプルな建物が見えた。一際大きな建物。看板には『冒険者ギルド』と書かれてあり、目的地であることが伺えた。ダクアより規模が大きいな……。いやまぁ、ダクアが特別田舎なんだけど。サイズ的にはファルシュ領の首都メーディオと変わらなかったから大きく見える。
周囲の建物が距離を取るようにぽっかりとギルドの裏を開けている、ってことは地上に訓練場でもあるのだろうか。
ギィッ、と扉を開く。
ペインが受付に向かうのを見て、私とライアーはフロアの椅子に腰掛け安堵のため息を吐き出した。
あーーー。疲れた。生き延びた。
「すいませーん。通行記録つけて貰えませんかー?」
「はい、通行記録ですね。冒険者ギルド、セントルム支部へようこそ。ギルドカードの提示をお願いします」
「オレとー、後そこにいるパーティーの分も一緒に」
受け付け窓口の職員が分かりやすいように私たちコンビとペインパーティーは距離を置いている。
ペインの指さした先にはパーティーが4人居たので問題なく記録を付けれた様だ。
「はい、記録取れました。滞在はどれくらいか決まってますか?」
「通りかかっただけだから1日……って言いたいとこだけど。おーいリィンー、ライアー! お前らどんくらい滞在するー?」
「私1日休むあれば大丈夫ぞー!」
休めるならなるべく長いこと休みたいけどこの合同パーティーも王都まで。
早いとこ距離を稼いで鶴野郎とおさらばしたい。
私の気持ちが分かったのか苦笑いを浮かべたペインだったが、すぐに仮面を被り直した。
「お兄さんありがとな! へへっ」
あーーー(納得)
いつもそういう感じの仮面被るのか。
無邪気な少年タイプね。活発的で思わず兄姉がハラハラ心配しちゃうタイプ。んで、何かしらを強請りやすい感じね。うんうん把握した。
ペインの仮面はグリーン子爵の私兵団へ聞き込みに行った時見てたけど、もう少ししっかりした感じだったし。
子爵邸に近付くには今の仮面じゃ信用が不足してるってことか。
……多分素が旅路のペインなんだろうな。
「あいつ、静かだな」
ライアーの視線の先には深くフードを被った男。『トリアングロが扱いきれずに手放した混沌の主』と名高い(私の中で)男だった。
怖いくらい静かだ。
存在感を無くすスキルは正直純粋に強い技や魔法より厄介で危機感を抱かせてくる。
「お連れの方は依頼主ですかね?」
「あ、いや。アイツらも冒険者」
「通行記録お付けしましょうか?」
職員のお兄さんが親切にもカウンター越しに声をかけてくれた。
「いやいらねぇ」
「コンビ共々Fランクで指名ぞ無き故にへっちゃらます」
きょとん。
そんな顔をされた。
「リィン、お前が説明をすんなよ。いやおっさんがFランクですって説明すんのもどーかと思うけど」
職員のお兄さんが視線をキョロキョロ動かし、そして助けを求めるようにペインを見た。
「あの……なんて仰ってたか……」
「あのコンビ、Fランクだから指名依頼も無いし通行記録なくても平気ですよーって」
なんかごめん。
Fランクという義務なしランクのおっさんと言語不自由美少女はすぐに飲み込める情報量じゃないよね。ごめんね。
「つーか1日程度なのに通行記録取るのか」
「あー、まー。一応念の為な。Cランクパーティーは需要あるだろ。色んな場所に知り合いはいるからさ」
「ふぅん」
私はパパ上が知るだけだから別にいいかな。
というかそもそもの話だけど、私の見張りくらい放っているだろうし。ここで間違えてはならないのは護衛ではなく見張りってとこ。
……は! スタンピードの時1人で出ちゃったけど大丈夫かな!? 緊急事態だったし平気だよね!? 最終的にライアーが一緒に来てくれたし!
「そういうすれば」
「そういえば。……お前その言い方何回間違えるんだ? 使う頻度高いんだからいい加減定型文として覚えろよ」
「話題急速転換! Cランクパーティーって結局何?」
「……諦めたな?」
パーフェクト言語教室開催してもいいけど、セントルムは冒険者が多いので嫌です。
まぁ朝だからってのもあるかもしれない。ダクアのガラッガラギルド見てたから、ギルドにうじゃうじゃ人がいるの信じられないな。
「Cランクパーティーってのは、Cランクのみで構成されたパーティーってことだ。あの中でペインがBランクになったら、CBランクパーティーって感じで言われるな。Cランクの数の方が高いから」
「あ、じゃあ月組だと」
「FCクラン。Cランク4人、Fランク6人。分布的にDランクが1番多いみたいだがそこら辺は関係ねぇな」
「へぇ」
ギルドで構成されたパーティーとかってわけじゃないから、周りから言われるのはランクに依存するのか。
流石にギルドでパーティーを管理するのは大変そう。
ランク上げに必要な功績依頼がソロ限定なのって、討伐とかの管理がしやすいからなのかもしれない。
自分のギルドカードの裏面を見てみる。
スタンプカードの様に、ギルド支部の判子を押せる枠が10個。ランク管理をギルドカードでするなら、パーティーは計算と仕事が増える余計な物。寄生ランク上げが無いように、という配慮だろう。
寄生が無いならランクの実力は大体合ってるってことか。
旅路でペインにランク上げの条件聞いてみよ。上げるつもりは微塵もないけど。
「それにしても冒険者多くないか?」
「ん、あんたら知らないのか?」
ライアーの呟いた言葉に反応したのは近くで準備を整えていた冒険者だった。
「もう少し経ったら王都で『クアドラードアドベンチャートーナメント』があるじゃないか」
「クアドラード……あ、無理です噛む」
「クアドラードアドベンチャートーナメント。なんだそれ」
「通称、冒険者大会。上限4人までのパーティー組んで、クアドラード国内の冒険者同士戦う大会だよ。知らないのか?」
知らん。
だから私は首を傾げて上目遣いで聞いた。
「お兄ちゃん達も皆行くの、です?」
「ーーーー!」
今ライアーが『こいつまたぶりっ子消費してる』とか思った。ビビっと来たよね。
「そ、そうだぜ。俺たち冒険者が腕を競う大会だ。優勝者には名誉も金貨も貰える。こんな機会逃すだけ損だ」
それでかぁ。
「それに今回は第2王子も参加ご予定らしい」
「第2王子が?」
ライアーがピクリと反応を示した。
ふむ、第2王子か。名前、なんだっけ。貴族に有るまじきど忘れ。王族とか名前覚えてないや。
「第4王子と違って随分剣技が優れているらしい。噂では冒険者ランクがAなんだとよ」
「あ? だけど王族がそう簡単にランク上げ出来るもんか?」
「さぁな、そこまでは詳しく知らん。噂だ噂」
確か……第1王子が魔法に優れていて。どうやら大陸の方に留学しているとかなんとか。
1と3が王妃の子で、2が妾の子で。確か4が……。
「第4王子サマは比べられるほど出来が悪ぃのか?」
「メイドの子やねん」
王都出身冒険者であるサーチさんが横から口を挟んだ。
「第4王子はメイドの子。嫁さんらやのーて。だから民衆は皆馬鹿にすんねん。『流石は紛い物』ってな」
あー。そうだ。
たしか王位継承権が得られないって話してたな。いやまぁ、第4王子って言われる通り王位継承順位を名前だけは持っているんだけど、第1王子にお子が産まれたら継承順位がどんどん下がって行くのだとか。
「まー。オレも昔は馬鹿にしてたしなー」
手続きが終わったペインが後頭部に手を当ててフラフラ近寄ってくる。
「王都に行きゃ、嫌でも耳に入るぜ。なんせ雲の上の存在を合法的に馬鹿に出来るんだからよ。王族や貴族が嫌いな庶民はここぞとばかりに叩くぜー?」
「そうそう。ウチらも馬鹿にしとんな!」
「それなー」
「「アッハッハッ!」」
ペインとサーチさんが腰に手を当てて笑い合う。おお、背中の反り具合まで一緒だ。
「〝視界共鳴──俺からお前へ〟」
「うわあああやめ、やめいペイン! 酔うて! あああジャンプせぇへんといて!」
ペインの瞳がサーチさんの色に変わったってことはサーチさんにペインの視界を見せているってことか。
しかもめっちゃ飛び跳ねている。それは絶対酔うね。
──ザワッ!
突然ギルド内が沸いた。
「──ギルマス!」
「メルクリウス様!」
ギルドの2階から階段を降りてきた銀髪の人。
長い綺麗な髪を肩にかけて、眼鏡をかけている。知的といった言葉が似合う人だ。
「ヒュウ。スレンダーだがめっちゃエロい姉ちゃんがギルマスかよ。最高じゃねェかこの街」
ギルド内の冒険者の言葉から推理したライアーが口笛を吹く。
こいつ……。
「ん?」
パチリ。
目が合った。
「ん? え、ちょっと待って」
セントルムのギルドマスターは驚いた顔をすると民衆を掻き分けてカツカツとヒールを踏み鳴らしながらこちらに近付いてきた。
あ、見間違いじゃない感じ?
「あなた達、Fランクコンビのリィンとライアーじゃない!?」
「何故ご存知!?」
「ギルドの情報網舐めないで欲しいけど、驚くのも無理はないわ。あなた達のことはグリーン領のリリーフィアから聞いてるのよ」
「……は? リリーフィアちゃんが?」
「そうそう。盗賊退治だったかしら? Fランクとは思えない功績ね」
セントルムのギルマスがグイッとライアーに顔を近付けた。
「おっと、こっちじゃない。交渉系は貴女の方だったわね」
パッと見た目だけだとライアーに話が行きそうなのに、交渉事が私の仕事だとバレているのか、私に向き直った。
「それと、ランク上げを拒否するコンビとしても。聞いてるわ」
ゲェ。
思わず嫌そうな顔をして見上げる。
リリーフィアさんめ……。彼女がランク上げを拒否している、という判断を下したってことは『Eランクから発生する義務を拒否する冒険者』として伝わっているってことじゃないですかやだー!
……。
個人情報保護法を異世界召喚せぇ!!!!!!!!!!
「ギルド怖……」
思わずといった様子でライアーがドン引きしている。何、そんな名指しで情報共有されるくらい冒険者ギルド系列の問題児なの?
「それじゃ、祝福のキスを」
セントルムのギルマスは私とライアーの頬に流れるようなキスを送ると、周囲から悲鳴が上がった。
なんで?
「ここは情報と商人の街、セントルムよ。アタシはギルドマスターのメルクリウス。さっそく依頼したいんだけどいいかしら?」
「ダメです!!!!!」
「そんな大声で拒否しなくてもいいじゃない。ケチねぇ。厄介な子を片付けてくれるだけでいいのに」
義務が発生しないのでお断りさせていただきます!
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