最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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ダクア編

第45話 スタジオの冒険者と中継の冒険者

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「お前ら遊ぶなよ……」

 子爵邸の横に存在する私兵団のゲストルームでCランクパーティーが顔を突き合わせていた。

 それを見守るのは私兵団の団長、ローバスト・ヴェルデ。見守る、と言うよりは監視している、という方が正しい。


 ペインは目を閉じ、ブツブツと文句を呟く。
 情報漏洩を防ぐために何も知らされず、コイツらの良いように使わされている状況が読めない団長がただ立っている。


 実はローバストという男。子爵がカチコミ事件~冒険者ギルドで起こった胃痛案件~で護衛をしていた男だ。
 数日前、その時に依頼をしたリィンという少女と共に、ペインという少年も私兵団におままごとみたいな内部調査で訪れたことがある為、無下にも出来ず把握も出来ずと結構大変な立場だった。


 サーチがペインの手をそっと取って手のひらに文字を書く。

『何があったん?』

 ペインの耳に、今室内の音は聞こえていない。
 いや、一応聞こえるのだが意図的に聞かないようにしている。

「ようやく執事の男と合流したが、何故かリィンがファイアボールをぶつけた」
「えっ、なんで戦闘体勢なん!?」

 急いで行かな、とサーチが腰を浮かすがそれを察したペインがガっと腕を掴んで座らせる。仲間のしそうな行動など耳を塞ぎ目を塞いでいても分かるものだ。

「ちなみにリィンがライアーに向かって放った」
「なんでや!」


──コンコン


「失礼します。──どうぞヴァルム様」
「あぁ」

 副団長セイフ・アフダルが連れてきたのは領主、ヴァルム・グリーン。
 一介の冒険者の元に領主がわざわざ足を運んだ。それの証明だった。

「ローバスト、これは一体どういうことだ?」

 それは私も聞きたいです。
 そう言いたかったが、立場的に無理なので経緯を説明する他なかった。

「私が説明させていただくわ。私はCランク冒険者のリーヴル。こちら──同じくCランク冒険者のペインのパーティーメンバー、ですの」

 庶民にしては綺麗な礼だ。それに続くように少年以外のパーティーメンバーが頭をぺこりと軽く下げた。
 そう思いながらヴァルムは言葉が続けられるのを待つ。

「領主様が、リィンちゃんに何かを依頼したようですね。今回はその件でお邪魔させてもらっていますわ。……まぁその依頼内容はリィンちゃん達と、そこのペインだけしか知らないのだけど」

 ペイン、と呼ばれた少年は未だに目を閉じて眉間に皺を寄せている。


「彼ら曰く、『私兵団の調査は終わった。残るは家長か領主本人だ』」

 リーヴルのその言葉に、ヴァルムと、そして団長副団長が揃って目を見開いた。

「方法はとりあえず置いておき、彼がそう言ったのなら間違いはないの。それで、今リィンちゃんとライアー君が家長の執事さん? を尋問中。それをペインが魔法で視て、聞いている状態」


 ペインには『ウソを見抜くオリジナル魔法』と、大雑把に言うと『五感を共有する魔法』がある。
 現在、ペインは視覚と聴覚をリィンとリンクさせている。リィン本人には影響なく、ペインが一方的にリィンの視覚と聴覚を体感しているだけだ。

 ただ、ペイン自身の視覚と聴覚も機能しているため、目を閉じて自分の視界を封じ、なるべく周囲の声を聞かないようにしている。


「なるほど、な……。その言葉を信じるならばその通りだ。つまり、ヴァイス。アイツが白だと分かった瞬間、裏切り者が私になるということか」
「えっ、なに、領主様裏切り者やってん? そりゃあかんわー」
「……サーチ。静かに」
「ごめんて!」

 パーティーメンバーの男がサーチを静かに叱る。てへっと舌を出しながら軽い様子で笑った。

「…………。そうか」

 ヴァルムは静かに目を閉じた。

 もしも執事が『白』だと冒険者が判断を下した場合。消去法でヴァルムが『黒』ということになる。
 ただ、そこはヴァルム本人。そんなことは一切有り得ない!
 そうなった場合、自分が頼る相手を間違えたということになる。頓珍漢な結論を出した冒険者──依頼をしたリィンを。

 例え冒険者の判断を信じたとして、そうなると真相が読めなくなる。子爵邸の組織の中に裏切り者が居ないということと同じだ。


 そして、……そして。

 因果関係は逆説だ。
 自分自身であるヴァルムが『白』だと確定している。

 ならば。消去法で…──


「は!? 執事がゲロった!?」
「なんだって?」

 どんな展開が起こったのか分からないが、ずっと目を閉じていたペインがギョッと目を見開く程度にはやばかったらしい。

 二重に見える景色にクラっと頭を回して直ぐに目を閉じたが。





『貴方の目的はグリーン領に混乱を招く事。……違う?』

 というリィンの質問に目を見開いたあと、執事が答えるところだった。
 ペインは嘘か本当かをジャッジするために視ていた。

『そうですよ』

 いや本当に本当なんかい。

 実際嘘ではなかったし、セリフ的に嘘吐いても意味が無い。
 つまり何も小細工無しで普通に暴露したわけだ。


「あーあー、説明する。リィンが『混乱を招いたのはお前か』と聞いたら執事が『そうですよ』って答えた。ウソには見えねーし、意味ねーし。というわけで裏切り者は執事、そんで場所は中庭」

 ペインの『ウソには見えない』は『ウソでは無い』と全く同じである。


 ペインの視界と聴覚に情報が届いた。
 ライアーの呆れた表情と、リィンの『うるせー黙るしろ今それどころじゃなき!』という叫び声。


「執事が可哀想だろ」


 そういうペースはどうかと思う。


 ==========




 軌道修正が効かずにピーピー騒いでいたが、ライアーが睨みながら「余計な口を叩くなよ」と言い放ったことで元のシリアスっぽい空気に戻った。

「執事さん」

 私は彼と目を合わせる。

 実はペインが持っていた〝感覚リンク(仮)〟という魔法があるのだが、どうやら五感のどれかを強制的に自分と繋げる、という魔法らしい。強すぎないかなって思う。使い勝手がいい。痛みとかも共有させれるってことだしね。私視点だと彼の魔法がどう言ったものなのかよく分からない。そして多分、手の内を晒さないだろうから探るしか無いだろう。

 ともかく、目を合わせると発動するであろうペインのオリジナル魔法(名称不明)を今、私の視界を通してジャッジしてくれている。

 証拠がね、本当に無いんだよ。
 というか証拠を探れないんだよ。

 証拠がないなら作ればいいじゃない。

「おやまぁ。そんなに見られると照れてしまいますな。その碧い瞳は海の様で……──リィンさんの瞳ってその色でしたかな?」

 いえ、違います。バカ正直に答えるのもどうかと思ったから無視した。
 ライアーに指摘されて気付いたんだけど、どうやらペインが視界をリンクさせるとペインの瞳の色である碧眼になるらしい。

 金髪碧眼ツインテール美少女とか属性固めすぎだよね。逆ハーレム築いちゃう。

 ちなみにライアーに『今の私最強に美少女?』って聞いたら『中身でマイナス』とか言いやがった。酷い。心の醜さが顔面にまで滲み出てやがる。

「嘘を吐くんじゃねぇよ」
「嘘はつきませんとも」

 ライアーの殺気混じりの警告に執事は飄々と答えた。

「貴方は指揮系統を混乱するぞ目的として、子爵邸にいるすた?」
「えぇそうですよ」

 おそらく嘘なく答える。

 というかなんで素直に応えているんだ?

「私が答えるのは不思議ですかな」
「もちろん」

 なんか、敵が素直だと何を企んでいるのか分からなくなる。こちらを混乱させるのが目的、なのだろうか。

「ほほっ、簡単なお話です。私が、貴女を気に入っているからですよ」
「……私を?」

 私、執事とあまり関わってない。
 ぶっちゃけ気に入られる要素、なんて家柄くらいだと思う。

「つまらない奴らばかり見ていますとな。へんてこりんで妙ちきりんな小娘を見るのがそれはもう愉快で愉快で」

 趣味悪いですね。

 私は一つ仮説を立てた。
 証拠も根拠も無い、現状から見て最も可能性の高いってだけの仮説を。

「……スタンピードも、盗賊も。貴様が?」

 クズ魔石が使われた魔導具。等間隔に置かれたソレはまるで何かを示していた。……置いたのは恐らく地理に慣れた者。
 それがもし魔物を引き寄せる物だとするならば。スタンピードは意図的に起こされたもので間違いない。

 そして盗賊を殺すことが出来たタイミング。奴隷魔導具の解放の情報が届いたのは私とライアーと、執事。……建物の間取りを見たのも同じく3人だ。

 盗賊行為の隠蔽は子爵邸の内部で。盗賊をなんのために使っていたのか分からないが、通商破壊も出来ただろう。……トリアングロ式の奴隷盗賊に指示出来るのは恐らくトリアングロの者。

 そもそも、指揮系統を混乱させて得するのも。敵国、トリアングロ。

「……はは」

 執事は笑った。

「アーッハッハッハッハッ! これは愉快極まりない! んッふふ、はははウェッゲホゲホッ」

 いや大爆笑していた。
 えっ、ちょっと笑いすぎじゃない? 噎せてますけど大丈夫? 紳士に有るまじき醜態晒してるけど?

えェ勿論・・・・。──全て私が裏工作しました」

 やはり素直だ。
 素直過ぎて気味が悪い。

「この領地にずぅっとおりました。停戦するより前からずぅっと」

 『停戦』

 その言葉に一体この男が何者であるのか、がハッキリ見えた。

「改めまして。私、トリアングロ王国の陸軍幹部。〝白蛇〟の称号を頂いております。シュランゲ家、当主──」

 嫌味ったらしいほど恭しい礼と共に、細めた目がキロッと鋭く私を見る。

「──ヴィズダム・シュランゲと申します」
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