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ダクア編
第42話 助走しないタイプの人生
しおりを挟む「ライアー、絶対てめぇの速度ですたら最初の風魔法避けるが可能ですたよね……」
「リィン、俺が狙う敵を先に攻撃すんじゃねぇ。1秒にも満たないが致命的に足が止まるだろ……。こちとら元より味方なしの戦い方してきたんだよ……」
「協調性皆無の言い訳……? 元々私が無詠唱で魔法の発動ターンぞ速きなのはご存知ですぞね……? それに何も打ち合わせぞすてなきですのに飛び出すです?」
「バックスはあの大剣でも速度があるから先手かける必要あるだろうが」
「私その様なる情報全く知りませぬけど?」
「それ本番でも言えんのか?」
「これをたかが訓練だと思うすてるの?」
「あぁ゛?」
「はぁ゛?」
ああ言えばこういう。
コンビネーションを完全に考えていなかったのは確かだけど、やっぱりこの人とコンビネーション取れない。
確かに強そうだ、とは思っていたけど。いくらなんでも引退した冒険者にギルドの受付に時間を取られるエルフ。
ブランクもあって圧倒的な敗北はまあ無いだろう、と。へぇここまで戦えるんですか、って驚かせたかった。
「ハハッ、まだまだだなぁ」
「実力はある程度分かりました。お2人共協調性が皆無なので今後組即興でパーティーを組む時の為にもう少し合わせることを学んでください」
「そうだな。ランクで言えばCランクと言っても過言じゃねぇが、コンビとしてはFランクだな。初心者冒険者の方がまだやる」
結果は子猫を相手にするような余裕な態度。
「初心者なのですけど……!」
私、冒険者登録して1ヶ月も満たない紛うことなき初心者なんだけど。その気持ちを口に出してぶすくれる。
上手く勝てなかったっていうのにイラついて。驕っていた自分にもイラつく。
私は一体何様のつもりだろう。
主人公だと言われて浮かれた? それとも女狐と呼ばれて浮かれた? 魔力の限界を超えて使えるから?
私は別に、『最強チート転生者』とか『異世界から召喚された者』みたいな肩書きは無いのに。
……いや『身分を隠してる辺境伯の令嬢』って肩書きも大概やばいな。
あーあ。これだから現実って。
「……。」
「……。」
「「(──やっ、やばかった……!)」」
「(ギルドの長として負けるのはまずいと思ったがコイツやばい……! なんてことない顔して無詠唱で魔法を連発しやがったし、攻撃魔法が効かないとわかった瞬間から攻撃魔法を目眩しに使っていた……!)」
「(無詠唱は言わずもがな、発動魔法の名前すら言わない初見殺し……。魔法の使い方が異色を放っている上に、ギルマスの攻撃を目の前にして怯まず魔法を使い続けられる度胸……)」
「(ライアーの方もまずかった……。あの時ファイアボールに驚かなけりゃ、確実に懐に入られてた……。しかもリリィがハンデで使わないと決めていた魔法を使わせるレベル……)」
「(魔法慣れしてないと思いましたけど、彼は思っていたより……。いえ、それだけではなくブラストに巻き込まれながらあの人、ずっとこちらを見続けていた。怪我も少ないみたいですし魔法に合わせるセンスがある)」
「(リィンの常識の穴を突く魔法と状況把握の速さ)」
「(ライアーさんの素早く身軽な攻撃と魔法に適応する速さ)」
「「(もしこれで2人が息を合わせ始めたら……!)」」
「なんであの2人笑ってんだ?」
「さぁ?」
私にはよく分からない。
「あ、そうぞサブマス」
「……名前を呼ぶことを完全に諦めましたね貴女」
「ギルド内の怪しき人、まとめる終わるますた」
「…………なんですって?」
ここまで持って来ていたメモは確か背負い鞄の中に……。
「……〝サイコキネシス〟かばん」
動くのがめんどくさかったんです。
サイコキネシスの正しい使い方(※私的)で鞄を持ってくると、私はその中から紙を取り出した。
「大概不正ぞすてる人は3人。と、言うより、書面上の数字の不備の担当者がこの3人ですた。苦労したですよ、下請け、会計、担当、そして利益。いくつもの書類と睨めっこですたから!」
提出されない書類を掻き集めて、計算不備を見つけて行ったんだから。
「……ちょっと待ってください。依頼してから一体何時間でやってのけたんです」
「一晩」
「ひとばん」
特に解体費。
これがまーためちゃくちゃ下がっていた。
最初は解体費が微量に減少傾向にあることから偶然の可能性も考えたし、1ヶ月単位で様子見ようと思っていたけど。
その日の晩、書類を掻き集めるだけ数字が無茶苦茶だった。
もう、不正した金額の計算すら面倒臭いのか最終的に提出される数字は『どっからどうしてそういう計算になった!?』と言われる様なもの。
「受付のサボりとかは考えて無きです。その給料泥棒はギルドで実行どうぞ」
そこまで面倒は見られない。
普通に仕事をサボっている人達はリリーフィアさんが把握してるでしょう。
そう思って証拠と共に名前を渡せばリリーフィアさんは私を拝んでいた。
「……苦節ウン十年」
「数百年の間違──ぐあッ!」
「苦節! 数年!」
あ、サバ読んだ。
「ようやく、よーーうやく。このギルドにも新しい日差しが……!」
嫌な予感がして思わずライアーの腕の下に隠れた。
「初代は真面目に狂って迷惑かけまくりましたし挙句の果てにろくな引き継ぎせずに寿退会! 下はてんやわんやでやり方もわからず時間もなく、しかも当時はダクア周辺は普通に治安悪い!」
「……リリーフィアちゃん?」
「2代目は初代の尻拭いをもうめーーーちゃくちゃ頑張ってくれましたがギルド職員は他のギルド支部が原因で総抜け! 真面目はギルマスは病んで退会! ふぅ! そして新しく入ってきたのは貴族の名前を振りかざす様なクズばっか!」
「おいバックス」
「無理だ」
「誰もやりたがらない中ようやく立候補してくれた他ギルドからの元ギルマス! ──でーもサボり文化を根付かせましたし海外に移動しましたし過去に他のギルドも潰しかけていましたし。しかも2回」
ダクア支部はどうしてそんなに苦労ばっかりなの?
「あ、というかこれ信ぴょう性ありますか? 例えば裏で誰かが糸引いている、とか」
「それは私も考えるしますたけど」
私は真顔で告げた。
「──一晩調査ぞすれば出てくる証拠ぞ残す馬鹿が誰かに罪を擦るなどという姑息な真似ぞ、出来ると思うですか?」
私の言葉に、ギルドの2人は無言でスっと目を逸らした。
正直もう少し細かく証拠とか探したりしたいけど、それよりももっと優先すべきことが見つかっているから。そう、スタンピードとそれに関係する魔導具。そして子爵の私兵団。
間違いなく奴隷の盗賊が関わっていると思うのに。
まぁ、だから解決自体はギルドの方を優先させる。時間をかけるという優先事項が違うから。
「リーベさんの護衛任務ぞ。あれの依頼料をちょろまかすした職員。そいつは徹底的に締めるすて」
「……はい?」
リーベさんの護衛依頼を受けた冒険者は盗賊だった。というのは分かっている。それを問いただす前に殺されたけど。
つまり護衛依頼を通したギルド職員が冒険者盗賊のことを何か知っているかもしれない。
「あ、それと」
「今度はなんですか!?」
リリーフィアさんが疲れ果てた顔で私の言葉を怯え待つ。
「アイテムボックス……教えるしてほしきです……」
貴族として生活していた時も思っていた。アイテムボックスがあればどれほど便利なものかと。サイコキネシスで代用したけど。
そして冒険者になって尚更思ったよね。
──いや必需品の多さ。
宿を借りてる状態だし、荷物置けないし、私物増やせないし、その代わり生活に必要な物は増えていくし……!
「リィンさん空間魔法使えるのにアイテムボックス習ってないんですか?」
不思議そうな顔で問いかけるリリーフィアさん。
どういう、こと?
「火魔法で言うファイアボールと同じ様に、空間魔法のアイテムボックスは完全に初級魔法なんですけど」
「えっ」
「えっ」
私は、私はてっきり。
くそエルフ師匠が教えてくれないのは難易度が高くて時間がかかるからだと……!
「リィンさん、本当に異世界転移とかじゃないんですか?」
「思わず自分の記憶ぞ疑う」
私なんで基礎的な所がすっぽ抜けているのか。とりあえずこんなヘンテコな教え方して苦労をぶちまけた師匠は1回と言わずに何度でも殴る。
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