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ダクア編

第41話 冒険者ギルドの実力

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 なんで。

「……何故こうなるしたのですっけ」
「知るか」

 ライアーの辛辣なツッコミに現状を見る。

 私は今、ギルドの訓練場でダクア支部ギルドマスターのバックスさんとダクア支部サブギルドマスターのリリーフィアさんと対峙しています。


 ……なんでこうなった!!!!


 ==========



 月組で起こった魔導具解析の後、すぐにリリーフィアさんに聞くべきと判断した私達はクズ魔石の利用法を聞きにギルドへカチコミに向かった。
 ちなみにペインは用事で別行動だ。

「こんにちはエルフのお姉さん!」
「………………何企んでるんですか」

 『無』の表情で初っ端そう言い放ったリリーフィアさんは野生の勘が鋭いと思います。
 ただ、企むなんて人聞きの悪い。

 私はグリーン子爵の紋章入りの剣を見つけた時の様にリリーフィアさんの耳を強請った。その既視感にリリーフィアさんの表情が歪む。私はカウンター越しに背伸びをしてリリーフィアさんにこう問いかけた。

「クズ魔石は空間魔法に使用可?」

 単刀直入に言えば数秒黙り込んだ後、ふぅ……とため息を吐き出し、こう言い放った。

「庶民なのに空間魔法使えるの卑怯過ぎません?」

 非常に遠い目をしていらっしゃる。

「なにゆえ」
「そもそも、貴女師匠に何も教わって来なかったのですか?」
「実戦しか」

 どちらかと言うと。『魔法の細かいことや魔法の歴史はまだ必要無いから教えてもらっていない』が、正解。
 いつかは教えてくれるらしいし、知る機会も出てくるようだけど。

「……。頭も回って、そして空間魔法も使えてしまう。そんな貴女相手に誤魔化しは効かないので正直に言いますと──あの魔石は危険なので使ってはならない」

 口ぶりから察するにクズ魔石には正式名称がある模様。
 そしてハッキリと口にしてはくれないが、空間魔法にも使えることは理解した。

「危険?」
「死にます」
「しぬます」

 わぁ、それは危険だなー。
 なんでも聞けば答えが帰ってくるので便利だなと思いつつ、そして分かったこと。

「ペインがギルドに預けるすた魔導具あるですぞね?」
「……あぁなるほど。それで答えを求めていたのですね」

 どうやら察してくれた模様。
 そう、魔導具に使われている明らかに使用済みのクズ魔石。消去法でも、使用用途を考えても空間魔法の可能性が高いということ。

「はーー。頭の回転が早いのも考え物ですね。そもそも空間魔法ってエルフが独自で使っていた魔法で──」
「あ、そこは知るすてます」
「えっ」
「えっ」

 冒険者ペインが知っている情報だったのに。
 私が知っていたら驚くの? それとも普通は知らないこと? ちょっとエルフの感性よく分かんないです。

「とにかく、貴女はまだ若い。空間魔法も元々人が使う魔法では無いので、下手をすると寿命を縮ま……──ちょっと待ってください」

 リリーフィアさんは私を上から下までジロジロと見ると「失礼」と呟きながら私の心臓の上辺りに手をおいた。

「……リィンさんもしかしなくても今、死にかけてます?」
「はぁ?」

 魔法をメインとした話だったから黙り込んでいた実は居たライアーが思わずといった様子で驚愕の声を上げる。
 2人の視線を受けて、私は思わず笑ってしまった。

「えへっ」
「な、何やってるんですか!? しかもこれ、無理矢理でかなり酷い状態……! 魔力回復させますからちょっと待ってください!」

 エルフ語で呪文を唱えたリリーフィアさんから届く魔力。身体の内側がゆっくりと治されていく感覚。

「──〝リペア〟」

 ……!

 思わず目を見開く。
 私の師匠も使っていた魔法と同じだった。

 確か肉体ではなく魔力の回復魔法。呪文自体は初めて聞いたが、エルフにはよくある魔法なのかもしれない。

「……とりあえず魔力は全部回復させておきました」
「ひぇ……」

 嘘でしょ全回復……?
 怯えた目で見ていると、私の手を握って状態を確認しているのかリリーフィアさんが目を伏せて口を開いた。

「回復職ですよ、こう見えて」

 なるほど。
 うん、でも、魔法使える感じはする。絶好調だ。

「本当に無茶しましたね……。これ普通の魔力切れとは違いますよね。無理矢理魔力の器を削って魔力を生み出しているというか……」
「アハハ。師匠にも怒るされるやつです」
「これ、出来れば二度としないでください。寿命削るだけですよ。さっきまでのリィンさんの状態は……。そうですね、例えるならヒビの入ったすっからかんの魔石みたいなものです」

 砕ける寸前の、と付け足して叱る。
 でしょうね。無理矢理魔力作り出したんだもん。

「──ところで」

 ギュッ。
 手を握る力が強くなった。

「魔力限界まで削って修復に時間がかかっていたからゴブリン退治を逃げ出した理由の1つにしたは分かりました」
「あばよリィン生きて会おうぜ!」
「危機察知能力ーッ!」

 嫌な予感を察知した瞬間ライアーがギルドから飛び出す。
 その危機察知能力と瞬発力と何も考えずに私を犠牲にする合理的で自分本位な所、今はとても欲しくない。

「──と、言うわけで。お前らの実力試験も兼ねて。戦闘訓練でもしような!」

 どこに隠れていたのか、入口で待ち構えていたギルドマスターにライアーが捕まった瞬間だった。



 ==========



「回想終了」
「なんだよ突然」

 思わず目が死んでしまうのも仕方ないと言える。

 ギルドマスターのバックスさんは金属の鎧は着けてないが、筋肉という天然物の鎧を纏い、身丈ほどある巨大な両手剣を武器に携えていた。世界でも滅ぼすんか?

「お前らの戦闘スタイルは1度きちんと見てみたいと思っていたからな」

 バックスさんは地獄みたいな重量を持つ武器を地面にドンと置いて絶望を掻き集めた。要らないすごく要らない。

「チームワークもどうせダメだろうお前ら」

 否定出来ない。
 否定出来ないけど現状は絶対的に否定します。絶対やらなくていいって。

 大人しくゴブリン退治しとくんだった。こんな絶望との対峙望んでない。望まねーーーーよ誰も。

「わっ、私病む上がるすたばかりなのですけど」
「ご安心を。魔力は全回復させたと言ったばかりでしょう? 後遺症も恐らく無いですし、病み上がりは精神面だけですよ」

 医者が目の前にいるのに仮病使えるわけがないよね!!!!

「……ぶっちゃけ書類ばっかでストレス溜まってたんだよな」
「それじゃあ試合開始します。勝利条件も敗北条件もないので胸を借りるつもりで頑張ってください」
「おいなんか聞こえたぞバックス!」
「それでは開始です」

 その言葉でライアーはバッと駆け出した。私も急いで魔力を練り上げる。
 殺られる前に殺れ! 格上と戦う上での鉄則!

 〝ファイアボール〟!

 手始めに魔法を無詠唱杖無しで。
 ライアーが辿り着くより先にバックスさんへ突進した炎の塊は……。


「──フンッ!」

「えっ」

 …………。
 冷や汗がダラりと流れる。

 今、バックスさん。
 魔法を殴り消したよね……?


「あっちーな」
「熱い所の話じゃねぇだろ化け物が!」

「──突風、彼の者を押し込め! 〝ブラスト〟」

 リリーフィアさんの短縮された呪文から解き放たれたのは私が使うのを諦めた風圧系の魔法。

 目の前を横切る形でライアーですらふき飛ばされる風圧。そんな中、私に向かって一直線に突っ込んで来たのはバックスさんだった。

 速……っ!

 〝ロックウォール〟!

「脆い! 俺を止めたきゃ鉄の壁でも作ることだな!」

 私の立っていた・・・・・位置の目の前にボコッと生えた土の壁を大剣で容易く崩れさせた。

 〝瞬間移動魔法〟

 上空に転移! 武器を振り下ろした状態のバックスさんを上から見下ろす。
 視界良好……!

 〝瞬間移動魔法〟

 再び背後に転移して、武器さえ触れることが出来ればと手を伸ば……。

「新たな命で彼の者を拘束せよ。〝ニューライブ〟」

 ガクンと足が動かなくなる。
 新たに生成された植物が、私の足を絡めとっていた。

 リリーフィアさんの魔法……!
 ということはライアーは自由! ライアーが戻るまで持ち堪える!

 〝サイコキネシス〟!

「う、お!」

 私が生み出した土の壁がサイコキネシスによってバックスさんの元へブンブン飛んでいく。
 
 殴られるような感覚であまりダメージ自体は無いだろう。けど、攻撃を阻害することなら……!

「残念ですけど、私もライアーさんくらいなら阻害出来ますよ」

 その声に後ろを振り向けばリリーフィアさんが手を広げていた。

「〝アイテムボックス〟」

 植物を生み出したまま。いや、生み出し終わった状態? 維持に魔法はいらないのか?
 グルグルと謎が頭を支配する中で。

 リリーフィアさんは弓を何も無いところから取り出した。

「うそ……アイテムボックス……」

「〝ウインドアロー〟」

 弓に魔石が付いている……!
 リリーフィアさんは本物の矢に魔法の矢を重ねた。

 ぶわりと風が強くなる。
 その視界の先でライアーは風の中に紛れた小石で出来た裂傷を押さえながら蛇行して走っている。

「〝4連〟」

 持っていた弓は1本ではなく4本だった。ギョッとする。

「余所見するとは余裕だな」
「ッ!」

 〝瞬間移動魔法〟

 バックスさんを視界に入れ直すと、その後ろに向かって魔法を発動し……──。

──トトトト……バァンッ!

「〝起爆〟」

 小さな矢が地面に刺さる音と、そこから激しくなる風の爆発。

「──読めてるぜ」

 転移した先でバックスさんの大きな手が私の首を掴んでいた。

「……ッ、ぐ、」
「ッあ」

 風で吹き飛ばされたライアーの唸り声と、少しでも魔法を使ったら首を折られる私。

「はっはっはっ! コンビ組むならコンビネーションを捨てるなFランク共!」


 圧倒的な、世界の壁の大きさを知った。
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