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ダクア編

第40話 そして男は黙り込んだ

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「お邪魔するまーす!」
「お邪魔します、な」
「お邪魔しますな!」
「……。邪魔するぜ」
「お前ら実はめちゃくちゃ面白いよな」

 挨拶をしながら入る。
 そんな私とライアー、そしてついでにペイン。

「おう……? いらっしゃい?」

 疑問符を浮かべながら出迎えたのは冒険者。
 そう、ここはダクア唯一のクラン。──月組。

「ここなんて名前?」
「月組だろ」
「月組ぞ」
「ザ・ムーン! ですから!」

 月組の誰かが必死な声を上げるので思わず笑いが込み上げてくる。
 本当に普段から正式名称呼ばれてないんだなぁ。

「つーかなんでライアーいんだよ。俺たちの天エンジェ……リィンちゃん置いて帰れ。顔のいい冒険者も要らん!」

 シッシッと厄介払いされるライアーとペイン。愉快だな。
 後、月組の人、さっき何言いかけた……?

「場所がねぇんだ空間と机貸せ」
「そーだそーだ! 貸せ貸せー!」
「キィッ! なんなのよあんた達ィ! リーベお姉様に言いつけるわよォ!」
「おいやめろ(低音ボイス)」

 今の声ガチ中のガチだったな。
 ちなみに月組にオカマは居ない。普通にライアーを馬鹿にしただけ。

 戯れている古参ダクアの連中を後目に、私は机を勝手に借りて地図を広げる。
 さっきまでライアーの腰巾着していたペインがぴょこっと地図を覗いた。

「何やってんだー?」
「例の魔導具の場所の確認……? あれから4つライアーぞ見つけるすたので」

 地図上に書かれた5つの場所。気味の悪いほど均等だ。これを人災と言わずしてなんになる。

「5つあるですから、4つくらい分解すても平気ですぞね」

 どれもこれも同じ形をしているようだし。
 ゴッテゴテした魔導具をとりあえず分かるところから外し始めた。

 この世界には存在しないかもしれないけど、たとえるならルービックキューブ。外そうとしても何かが引っかかってはずしきれない。はめ込んだり外したり、あっちが外れたと思えばこっちが外れなくなる。素直に腹立つ。

「……。もう1つ」

 とりあえず失敗した魔導具は外せるところまで外して置いておき、数パターン分解した状態を作ればいいと思って次を手に取った。

「リィン、それ多分右が外れる」
「んぇ……あ、まことに」
「んで、ねじ込んで上にスライド」
「わっ、え、本当に分解可能」
「多分そこでクズ魔石外せば」
「お、おー? 何故外れる?」

 ペインの指示に従ったら綺麗に分解出来ているので思わず疑問でいっぱいになる。
 月組からいじられ終わったのかライアーが近寄ってきて、そして手元を見てギョッとした。だよね。

「は……あ……? 魔導具慣れしてない奴らが、なんで分解出来て……?」

 見るからにドン引きしてますといった表情。
 それに対して全く気にする様子もなくペインは唇を尖らせて考え込んでいる。

「これ多分構造的にもう1つ魔石が入るな」

 なんで分かるの???????
 ライアーと同じようにドン引きしてしまった。

「オレ、魔導具分解するの趣味なんだよなァ~」

 趣味が悪いね?
 とんでもなく失礼な事を思っているが、ペインは魔導具を見ながら呟いた。

「特に外せないタイプの魔導具。──めちゃくちゃ分解したんだよな」

 ……なんだろう。これ以上触れない方が私的にいいかも知れない。
 目が、ガチだった。本気と書いてガチって読む方の本気ガチ

「あ、でもなんでクズ魔石使ってんだろーな。邪魔なだけじゃん」

 そう言いながらヒビ割れた魔石を見るペイン。

「ライアーどう思う?」
「俺に聞くな。魔法職でも専門家でもなんでもねぇんだ。知らねェし分からねェに決まってんだろ」

 ですよねー。
 私は分解された魔石を手に取る。

 冒険者になって初めて知ったが、魔石は魔法の補助になる使い捨ての消耗品。魔物の種族によって違う属性の魔石が採れる。
 スライムなら水属性。普段使う魔法が簡単にワンランク上の威力となった。

 なら『クズ魔石』と呼ばれる使えないハズレの魔石は、どんな種族から採れて何のためにあるんだろう。
 ギルドが銅貨1枚で買い取ってくれる、って話は聞いたから多分そこら辺に落ちてある可能性もあるけど。

 属性に応じた色の着いている普通の魔石は宝石みたいな主張感があるのに。
 クズ魔石は無色透明で、まるで硝子玉だ。

 何も無い、色。
 そもそも色という『概念』が無い。

「リィン?」

 ポトリ、と魔石を落としてしまう。
 固まってしまった私を見ながら、ペインは魔石を拾った。


「……──ペイン魔法と魔石の関係詳しき?」
「えっ。えー、オレCランク冒険者だけど、一般常識くらいしか知らないぜ?」

 どこまで情報を求めているのか分からないのだろう。漠然とした質問にペインが首を傾げる。

「それにオレ、魔法職じゃねェし」
「補助魔法とか防御魔法、対応する魔石ぞ何?」
「話聞かねーな! 複合魔石だよ!」

 初耳。
 複合魔石とかあるんだ。

 これならもしかすると無いかもしれないけど……。うーん。でも……。いや……。

「厳密に言うと2つ魔石を使うってだけなんだけど」

 そう言ってペインは懐から魔石が仕込まれているアクセサリーを取り出した。4つの指輪だ。

「あ、これ最小魔石で1回だけしか使えねーやつね。オレの杖代わり。いざって時に使うやつ」

 手の内漏らしていいの?
 心配に思ったけど他に仲間がいるなら1人封じられても大丈夫か。

「攻撃魔法はそれぞれの属性1つ使うだろ。んで、防御魔法は地属性と水属性。補助魔法は火属性と風属性。生活魔法は地属性と火属性。回復魔法は水属性と風属性。こんな感じに2つの魔石を経由して魔法を使えば、補助してくれるってわけ」

 えーっと。

 防御……地水
 補助……火風
 生活……地火
 回復……水風

 ってことかな。

「組み合わせは覚えりゃ早いけどなー。……えっ、ちょっとまて、複合魔石の使い方知らなかったってことは魔石補助なしで俺の魔法防御したのか……?」

 驚くペインを無視する。
 話の中に出てない、私の主力とも言える魔法を問いかけた。

「空間魔法は?」
「無いよ。だから特別なんじゃん」

 確かに。
 いや、補助魔法や回復魔法も難しいとは思うけどな。最終的に習得出来なかったし。

 攻撃魔法ならまだ分かるが、『概念』でしかない魔法はとても難しい。
 私は攻撃魔法、防御魔法、それと空間魔法が使える。

 防御魔法はグッと固めればいいだけだし、比較的わかったけど。空間魔法は本当に分からなかった! 特に師匠が擬音語でしか教えないから! 泣いてないです。

「空間魔法ってさー。覚えるのめっちゃ大変で。大体、元々エルフが使う魔法なのに人間が使おうとした段階でやべーよな」
「えっ、エルフ魔法なのです?」
「知らねー? ……ごめんやっぱなしで。普通知らねーわ」

 ねぇ魔法職じゃないって本当???? 絶対魔法バリバリ使えるタイプだよね????
 世間知らずとはいえ、魔法職と名乗っている私ですら知らないことを平気で語れて。少なくとも4属性の魔石を持ってるお前が魔法職じゃないってわけあるか。

「でもこれで確率ぞ高くなるすたです」
「え?」

 少なくとも分かること。

 ・クズ魔石に使用形跡がある
 ・空間魔法は長寿閉塞的なエルフ族が使う
 ・空間魔法の使い手が少ない



 ──もしかして、空間魔法の補助に使える魔石なんじゃないか?

 確証の無い予想を立てて、私は割れた魔石を握り締めた。

 その仮説なら、この魔道具はスタンピードを引き寄せる『概念』的な装置なのだと、納得出来る。

 ……リリーフィアさん、エルフだったよねぇ?

 尋問の覚悟は出来たか?
 私の知識欲を満たす事と事件解決に尽力する為であって、嵌められたことを恨んでいるとかそう言うのは一切無い。無いったら無い。
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