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ダクア編
第34話 後の運命
しおりを挟む「本当にうちのお馬鹿ちゃんがごめんなさいね」
パーティーメンバーの、肘食らわせた女の人が頬に手を当てながら謝る。
「私はリーヴルよ、お馬鹿ちゃんが馬鹿やったらお姉さんにすぐに言いに来るのよ?」
「リーヴルさん、ねェ。さっきの会話で知ってるかも知れないが俺はライアーだ。こんな星が羨むような美人に会えるだなんて俺ってばついてんなァ!」
「ふんっ!」
「おりゃ!」
「い゛っでぇ!?」
私の箒アタックとペインの盾アタックが同時に炸裂した。
別にコイツが口説こうが何しようが私には関係ないしコイツの好みも性癖も微塵も興味無いけど、目の前でやられると素直に迷惑で腹が立つ。
この様子を見ると色ボケな割りに色仕掛けが出来るってわけじゃなさそうだから不快感を生む以外の生産性がない。つまり今後の友好関係に関わるから私の目の前でやるのやめて欲しいし、もしおっさんの苦情があったら私に来るってことになる。
「お前今めちゃくちゃ腹立つこと考えてるな?」
「ん?」
キョトンと首を傾げてみた。
ライアーはこちらをじろりと睨んだ後、諦めたのかため息を吐き出す。全く、失敬な。
「お馬鹿ちゃんきちんと謝りなさい」
「……うぐ、でもこれが俺の生き方で」
「バレなきゃセーフだけどバレたんだからアウトよ」
こちらもこちらで話しているが、向こうは向こうでコンコンと説教している。
内容はさておき、手綱はまともそうな人が握っているみたいだ。
「ご、ごめんなさい……」
叱られてしおしおと縮こまり頭を下げるペイン。
私と彼の身長が他と比べて近い、というより私の方が小さいせいか瞳が見える。
あー。全く反省してない顔。
多分ライアーからは見えないだろうなー。
コイツ、絶対性格ひねくれてる。しかも無邪気で弟キャラの猫を被れるタイプの。
私って結構人の好き嫌い激しいんだよね。
性格悪くてプライド高くて自分が天下だと思っているナチュラル上から目線の猫被り外道って好みじゃないどころか嫌い。
おっさんはプライド高くて猫被りだけど性格がクソなだけで悪くないからセーフ。
んで、ペインは多分性格悪くて自己保身的で猫被りなのは確実。
あぁ、猫だ。
コイツ、警戒心がとんでもなく高い猫だ。自分が泥の中で生きてる自覚がある下克上狙いの。
もし私がコイツの敵のポジションならあっという間に寝首かかれるだろう。
「無詠唱、凄きですね」
待って、コイツ絶対スラムとかの人間じゃない。
良く考えれば私が無詠唱の取得に掛けた時間は平民には得られない。
とんでもなく才能があったか、追い詰められる人生だったか、養って貰える時間があったか。
「……お前だって無詠唱で防いだだろ?」
顎をクイッと上げて煽って来る。
ええ、防がせていただきました。肝心な場所で防げなかったけど。
私はニッコリ口角を上げる。貼り付けた胡散臭い笑顔を。
「もちろん! あの程度、杖も必要なき」
「そうだろうな! あの程度、普通ならやられる前に気付くレベルだもんな!」
対抗してペインも笑顔を貼り付けた。
細く開いた瞳がお互いを見つめ合う。
魔力が漏れる。
「おい……」
お互いの連れがどうこの場を収めるか迷った瞬間。
「「ぶはっ」」
──私とペインが同時に吹き出した。
「ん、ふふふ。よく分かるした」
「あっはっはっはっ! やべー。ひっさしぶりだわ」
周囲は突然笑い始めた私たちに仰天する。
あー、お腹痛い。
腹を抱えて笑う。
「お前っ、ふはっ、本当に初めましてか?」
「残念ながら! んっ、ふふ、はじめますての初対面!」
久しぶりだ。
とても久しぶりに──互角を味わった。
こういうのを『ライバル』と呼べるのだろうか。私が『煽っているように見えない煽り』をきちんと『煽り』と認識して見せたし、煽り返した。
好印象な笑顔を浮かべながら、同レベルの喧嘩を売れる。
ストレスの溜まらない最高のコミュニケーションだ。
私の身分が身分なので同じ土俵とは言い難いけど。
「なあリィン、お前俺のパーティーに入らねぇ?」
「んー。迷うですね」
「は!? おまっ、俺とコンビ組んだばっかだろ!?」
激しい動揺の後、必死になって止めようとするおっさん。
「えぇー、何ぞおっさん。嫉妬?」
「プ! ラ! イ! ド!」
流石に速攻でフラれたくないおっさんが喚く。
わかるわかる。こんな有能で可愛くて便利なリィンちゃんを手放したくないよね。
うんうん、と頷いていたら頭蓋骨を思いっきり掴まれた。
……私はボールでも林檎でもないんだけどな。
「おじょーちゃん?」
「私ライアー、一筋ゾ」
「よろしい」
パッと手が離れる。
「──私、ペインの仲間にはならぬですね」
今んとこ。
心の中でそう付け足す。
「うーん、残念。俺たち相性いいと思ったんだけどなー」
「私も思うしたですよ」
同じ無詠唱仲間だし。後、悪人ではないけど絶対に善人じゃない。
初対面でここまで相性がいいと思える。多分これは運命。……でも、運命よりも先にライアーと出会った。だから運命は後回し。
「……ま、いいや」
後頭部で腕を組んでペインが気を抜く。
さて、話は終わりだ。
「話戻すけどさ」
「どこまで?」
「魔導具の所まで」
あ、そうだった。
めちゃくちゃ気になっていたんだった。
「ライアー魔導具ぅー!」
「あぁ、これな」
ペインが席に座り直して、私も座る。
立ったままでは話が終わらないと思ったのか他のメンツも円卓を囲む様に席に着いた。
取り上げていた魔導具を机の上に置く。
「どこで見つけるした?」
「街の近く。地図ある?」
「あるです」
ちょうど作戦会議で使っていたので円卓に広げる。
ダクア周辺の地図。まぁ、アジトの場所に丸がついてるけど。
「えーっと……」
ペインが地図をジロジロと見て場所や方角を確認している。
「ん、ここ」
そう言って指し示した。
ダクアは外壁が弧を描く様になっているため、地図上で見ると丸い。外壁の門は西と東の2つ。門と繋がる大通りが一直線、ダクアを両断していた。
魔導具が落ちてあったのはダクアから見て西。大体西だけど少し北側に逸れている。
「街の外……」
「なんだろうな、コレ」
勘が告げている。多分これ、盗賊かスタンピードのどちらかに関係ある。
「ウチが見つけた」
そろっと手を上げたのはペインのパーティーメンバーの女の人。歳は大人と子供の境目くらい。
「ウチはサーチ。斥候やねん。斥候つっても、植物とか見つけたりするのが得意なだけやけど」
出方を探っているのか少し大人しめだけど、口調に訛りが入っている。年齢層は若めで、ようやく大人の仲間入りした感じ。
じーっと観察していると目が合った。
「ウチの言葉気になる? つっても、あんた程じゃないけど」
サーチさんは手を絡めて肘を机に着ける。そして顔を伏せて真剣な顔で口を開く。
い、一体どんな秘密が……。
「──かっこ、ええやん?」
「なんでやねん!?」
椅子から滑り落ちた。
「うっはっは! ウチもな、キャラ付け大変やねん! だってこんな馬鹿がリーダーやで? 普通じゃおられへんって」
「俺頭いい方だけど!?」
「頭回るんと常識知らずはちゃうでぇ、お馬鹿」
ここまで来ると絶対名前も知らない残りの男2人もキャラ濃いじゃん。リィン分かる。
「あ、せや。この魔導具見つけた時、ちょっと気になることあってん」
「気にぞなること?」
「そ。この魔道具落ちてた場所な、燃えカスがあったんや」
燃えカス。
顎に手を置いて考える。
「この魔導具がちょうど熱を発した様に周辺の草が燃えとった。せやけど、この魔導具クズ魔石やん?」
ゴテゴテとなんの部品か分からない装飾が付いているからわかりにくいけど、拳の一回り小さいサイズの透明な魔石がヒビが入った状態で鎮座していた。
「この装飾……?」
「多分装飾じゃない。この国、魔法はともかく魔導具についてはからっきしだからな……知り合い当たっても望みが薄い……」
うーん。たしかに。
魔法は発達しているし、一般庶民でも基本的な魔法を使える人が殆ど。それに講習もある、と聞く。
本当に我らがクアドラード王国は魔法は優秀なのだ。ただ、魔導具に関しては、ぶっちゃけ話を聞かない。私も実家に使われている照明とかしか知らない。
「国て……。ペイン思考の規模がデカすぎるで」
「うるさいなー」
何か分かればいいんだけど。
現物がひとつしかないから分解するのもちょっと遠慮したい。
ライアーも考えている素振りを見せているが。
「考えても分からないことは仕方ねェ。それよりリリーフィアちゃん来たぜ」
考えるのを放棄しやがった。
まぁ、無駄に時間を取られるだけだし仕方ない。
「あれ、見ない顔ですね」
「リリーフィアちゃんこいつら通行記録だってよ」
「そうですか。代表者の方どなたですか?」
「はーい! オレオレー!」
一仕事終えたのかギルドの奥から顔を出したリリーフィアさんが問いかけると、ペインが元気よく返事をする。
「とりあえずこれ、ギルドに預かってもらっとくなー」
「分かるした」
「オレ、いらねーし。お前らの名前でも見せてもらえるようにしとくから」
「感謝ぞ~」
ペインは魔導具を持ってピューンと受け付けに飛んで行った。
にしても。
クズ魔石が魔導具、ね。
もしかしたら何か使い道があるのかもしれないな。
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