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閑話
第24話 苦労の達人
しおりを挟むグリーン子爵邸。そこはシンプルでありながらも品のいい茶色と緑を基調とした屋敷である。緑豊かなグリーン領らしい装いだ。
そんな領主の屋敷に、ダクア支部のサブギルドマスターであるリリーフィアが朝にもならぬ時間帯に慌ててやって来た。
子爵とて、冒険者ギルドを無視することは出来ない。
ただならぬ様子に子爵はリリーフィアを招き入れた。
「盗賊団が捕縛されました」
開口一番に要件を伝えたリリーフィアに、子爵──ヴァルム・グリーン子爵はガタリと席を立つ。
「一体どこに……!」
「ダクアから2時間ほどの場所に、それも……先代グリーン子爵の別荘跡地に」
場所があまりにも悪すぎて思わずクラリと頭が揺れる。
領地内……しかも首都のすぐそば! そんな所に盗賊団の活動を許してしまったことも、そしてその拠点が領主に関係のある屋敷だということも。
外聞的にも悪すぎるし、もしかしたら盗賊団は一筋縄ではいかぬのかもしれない。
何か裏で手を引いている何かがいる可能性の方が高い。そうでなければ冒険者ギルドとグリーン子爵を欺けるものか。
「それに、ヴァルム子爵」
「……何かな。とても嫌な予感がするのだけれど」
「子爵の、私兵の、剣が見つかりました」
なるほどね。ウンウン。
ヴァルムは貴族らしく笑顔を浮かべて頷いた。ただ、頷く角度が段々小さく、そして視線が徐々に下がっている。
ついに机とにらめっこする形になった。
「……リリーフィアサブマスター」
「なんでしょう」
「それを見つけた冒険者に口止めはしたかな」
「明言はしてません。が、『裏』を読める方なので言いふらす事は無いでしょう」
空間魔法の使い手(仮)なので、それなりに知識の深い魔法の師匠がいたはずだ。ならば言葉の裏を読み解いても、なんらおかしくは無い。
うそだおかしい。
なんで言葉の裏を読み解けてるのに表の言葉が喋れないのだろうか。今後付きまとう永遠の謎にリリーフィアは直面した。
それはさておき、リィンは大丈夫だ。
リリーフィアは長年の勘でそう結論を出した。
問題は同じくパーティーを即席で組んだらしいライアーだが。
……武勇伝の様に話したとしても万年Fランクの冒険者の言葉を信じるわけが無い。大丈夫だろう。もし漏らしても事実が広がる前に情報操作すればいける。
「剣以外に何かありましたか」
「えぇあります。私物らしきペンダント、それとここに入るための身分証ですね。半分ほど燃やされてますけど」
リリーフィアがその2つと剣を渡すと、執事を経由してヴァルムの元へ届けられた。
「これは……確か2か月前実家に戻ると、報告があった者だな」
「……。」
リリーフィアの耳がぴくりと動いた。
『報告』に込められた意味を察した。
ヴァルムは直接聞いたわけではなく、第三者を経由して報告を受けただけなのだ。
つまり、子爵の紋章を着けたまま盗賊に襲われたのであれば。
「……そうか」
ヴァルムは酷くガッカリとした表情で顔を落とした。
──今回死亡した兵士の死を偽装した裏切り者が、内部にいるというわけだ。
「ヴァルム様……」
「子爵」
執事が心配そうに己の主に同情を寄せる。
リリーフィアも小さく呟いた。
いや、リリーフィアとて他人事ではない。もしかしたらギルド内部にも裏切り者がいるかもしれないのだ。なんせ、2時間ほどの距離に盗賊団を許してしまった。
己が激務だとは言え、全く気付かないとは。
それに、リーベの件もそうだ。毎回必ず護衛をギルドに依頼するにも関わらず、今回は依頼表がギルドになかった。
早くダクアに戻って確認しなければならない。
「リリーフィアサブマスター。今回は一筋縄ではいかない。細かい話を直接その冒険者に聞きたいのだが手配してくれるかな」
「応じてくれるか分かりませんが」
「何、キミの権限で私からの強制依頼にしてくれても構わない。強制依頼は確かEランクから発動できただろう」
ピシリ。
リリーフィアの動きが止まった。
その様子にヴァルムは訝しげな表情を浮かべる。
「…………今回の冒険者、主に担当したのが2人ともFランク、なんです」
「なんだって?」
おーけーおーけー。ヴァルムは手のひらを見せてストップをかける。
多分自分は聞き間違いをしたのだ。うん。
「もう1回言ってくれるかな」
「今回の冒険者、主に担当したのが2人ともFランク、なんです」
全く同じ文章を喋ったな。
執事が冷静に現状を把握した。
「……まあ貴族の命令に従わない平民が居ないと思いませんが」
「頼んだよリリーフィアサブマスター」
「出来る限り頑張ります」
決して『イエス』と言わない辺り長寿種のエルフだなと他人事に考えた。
その時。
ドドドドドド、と地盤が大きな振動を子爵邸に伝えた。
地震など早々起こらないレーン島だ。その衝撃に思考が止まる。
恐らく1分も経ってないだろう。地響きは鳴りを潜めた。
リリーフィアは領主を守る為に警戒心を高め、背を向ける。
バタバタと護衛の兵士が主の無事を確認するために飛び込んできた。
「一体何が……」
ひとまずの無事を確認し終え、ヴァルムが状況を聞くと一番若い兵士が興奮冷めぬまま答える。
「隕石です! 隕石が落ちてきました!」
「「……は?」」
執事はその職務上、目を大きく開くだけに留めた。
「失礼、ヴァルム子爵。私は現場に急いですぐに確認と現場の状況を調べます」
「あ、あぁ、頼んだよ」
不躾な退室ではあるが、ヴァルムは貴族としての行事より民の安全や平穏を優先する人間だ。それを幼い頃から把握しているリリーフィアはペコリと退出の礼をすると、即座に駆け出した。
リリーフィアには本当に苦労をかける。
冒険者ギルドのダクア支部が作られた当時からなんとか設営している、と自分の父親から話は聞いている。
ダクアは彼女無くして成り立たない。貴族の当主として嘆かわしい事実だと思いながらも、最善を選んだ。
まずは、内部調査からだ。
──バンッ!
「ごめんグリーン子爵! うちの末娘がおたくの領地にお邪魔してるよ!」
リリーフィア退出のわずか30分後の来訪だった。
その金髪に、嫌な顔を必死で押し込めた。
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