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冒険者編

第20話 パトラッシュ迎えに来てよ

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「お疲れ様です! いやぁ良かった。リーベさん見つけることが出来て!」

 げっそりと疲れ果てた私の姿に、イキイキとした笑顔でリリーフィアさんが言った。
 ギルドのフリースペースの机に額を付けて疲れ果てたライアーもいる。

「あの人、なに」

 道中を思い返す。

 リーベさんと会った後、ひたすらに絡まれながら敵を1箇所にまとめて捕縛。その間、なんかフラッと2階に上がり古びた床を踏み抜いたリーベさんが下にいたライアーにきっちりおケツアタック食らわせていた。私じゃなくて良かった。心からそう思った。同情しない。

 盗賊の強奪品を物置で見つけたので重いそれをせっせと運び出す。内容はとりあえず省略しよう。
 リーベさんの乗っていた馬車は普通に外に隠されていた様なので強奪品せんりひんを乗せた。腰が死ぬかと思った。ライアーはひたすらに距離を取ってた。途中逃げ出そうとしたけど私のロックウォールとリーベさんの愛ある抱擁の前には敵わなかった。1人だけ逃がしてたまるか道連れだ。

 その後道を切り開きながら(リーベさんが、ドミニク斧で)街道までショートカットして出る。魔法職なら魔法使えよと思った。私のウインドスラッシュは草は切れても木は切れないので。あれ、私ほんとに転生者かな。魔法のレベルがしょぼい気がする。
 リーベさんの斧使いを見ながらそう思った。実は筋肉って魔法だったのではないだろうか。

 そして月組の2人を放置した街道に出ると、そこには何人かの月組が居た。どうやら見張りをしながらグレンさんとリックさんを回収していた様だった。
 グレンさんがギルドで月組に向けて伝言というか報告を依頼していたとは言え、本当にリックさん探しに月組が動いてるとは思わないじゃん。リーベさん探しじゃなくてリックさん探しなのが笑える。嘘だ笑えない。ほんとに何者だこの人。

 そうして永遠とリーベさんに絡まれながらギルドに戻ってきたというわけだ。このとっぷりと日が暮れた中。


「──ちゅっ、疲れる、した………!」

 心からの気持ちを吐き出す。
 本当に! ほんっっとーーーに! 疲れた!
 何が1番疲れたって魔法を使うこととか盗賊相手に立ち回るとかそういう真面目な事以上にリーベさんきんにくだるまの相手をするのがクッソ程疲れた!

 延々と絡んでくるし。聞いてくるし。
 秘密が多い私はほんとにえへえへあははと愛想笑いするしかなかった。

 まぁ、リーベさんのお気に入りがライアーっぽくって。
 それで抱きついたりなんだかんだしてたから私は楽だったのかもしれない。いや比較したくない。私も疲れた。しんどかった。

「ふふ、でしょうね」

 でしょうね、じゃないんだよこのスットコドッコイエルフ。テメェのエルフ耳、荒砥石で削るぞ。

「さてと、リィンさん盗賊退治は初めてですよね」
「そうそう存在すてはおかしいですよね?」

 始めても何も、ぶっちゃけその初めてですら普通は有り得ないと思うんだけどな!

 私がそんなことを考えているとリリーフィアさんは書類を取り出した。

「盗賊が所持していた盗品は全て回収者の物となります。つまり今回のケースで言えばリィンさんとライアーさんと、それと月……、ザ・ムーンのお2人と、リーベさん。リーベさん? えぇ、多分リーベさんも……いえやはり違うような……」

 そうだよね。
 あの人は被害者と言い難いもんね。

 ブツブツ悩むも答えが出なかったのかリリーフィアさんはごほんと咳き込んだ。

「持ち帰った物はそのまま。盗賊のアジトを騎士団が確認した時に残っている物があれば、その時点で貴女の物ではありませんのでお気をつけて。ちなみにギルドに荷物の運搬依頼を出せば、手間賃はかかりますが回収し切れますよ」

 つまり、とリリーフィアさんは簡潔な言葉にする。

「貴女達の私物にして頂いて構いません。──ですが」

 ただし真剣な顔をしてそこで区切った。

「盗品、と難癖つけられてもギルドは庇えません。それに追随するトラブルは冒険者個人で解決して頂きます」
「では、どうすれば良きなのです?」

 元はと言えば盗られた物。
 たとえ被害者があの牢屋で死んでいたとしても、トラブルの元になるのは避けられない。

「ギルドに取得物を提出するんです。細かく言うと、一覧表ですね」
「……ほう?」
「リィンさん達には盗品を一定期間ギルドに貸し出して貰って、ギルドはその一覧を公開します。元の持ち主やそれに縁のある方。つまり回収しなければならない人達はその期間のみ、買い取り交渉が出来ます。この場合交渉するのは買取人とリィンさん達の誰かということになりますが」

 なるほどね。
 盗品をギルドに売りつけ、そしてそれを買い取るということにすれば盗品にならないのか。もちろん実際売れるわけじゃないだろうけど。

「……まぁ、リィンさんならお気づきかと思いますが。一定期間が終わればリィンさん達の物になるので公開されてる期間に持ち物がバレてしまうということになりますね。ちょっと便利な魔道具とか、貴女達の誰かが所持しているということが明白です」

 リリーフィアさんはハッキリ言ってないけど、個人所有しているのをバラしたくない取得物があれば一覧に出さなくてもいいというわけね。『ねこばばしてもまぁ見逃しますよ!』って副音声が付いているような気がする。
 なんせ自分が持ち帰った物と、騎士団が回収しきるまでにタイムラグが発生するから。

「……ややこしい」

 システムとしては完璧に縛るより多少穴があった方が騎士団も冒険者もギルドも動きやすいのはわかる。
 でもややこしい。

 これ、貴族教育受けてる私だから裏の意味がわかるけど、普通の冒険者は気付かないんじゃ?

「りーひゃさん」
「誰ですかそれ」
「耳ぞ貸すして」

 そう、実は。


 実は非常に不味いものを盗賊から寄付してもらったのだ。

「グリーン子爵の紋章ぞ付いた剣があります」

 リリーフィアさんが近付けた耳にバチくそ素直に告げた。
 あのね、『辺境伯爵の三女リアスティーン・ファルシュ令嬢』ならともかく『新米Fランク冒険者リィン』には荷が重すぎるんだなこれが。

「それ、どんな、かた、かたち、で」
「国花に麦」

 クアドラード王国の国花はカーネーションだ。母なる花。真っ白の華。それを守るように麦が2本交差する様に彫られてある。麦は領地の特色。

 もう、完全にグリーン領の紋章ですお疲れ様です。

 エルフの色白の肌が青白く変わった。

「いまっっっっすぐ! 報告するんで! 取得物一覧素直に提出してください! 今からまとめてください!」
「ちなみに荷物はギルドにて預かる可能で?」
「可能です!」

 リリーフィアさんは書類をバッサバッサ引っ張り出して勢いよく色々書き始めた。
 夜中だから他の冒険者もいないし別にいいけど。

「他のギルド職員は?」
「──いるとお思いですか?」

 ピリッ。
 あかん。これ地雷臭がする。

 他人の顔色伺って生きてきた(双子の言語教室※肉体言語含む)からヤバそうな瞬間は読める。空気がね。

「冒険者はここ近年月組以外は殆どケロッと姿を消しますしこんな田舎町じゃ冒険者稼業なんて成り立たないの分かりますけどそのおかげで難易度の高い依頼は滞りますしストゥール川のエレキアリゲーターだって緊急性がないから騎士団は後回しの処理ですしそのおかげで流通ルートが遠回りになってお金余計にかかりますしもぉーーーーーーー!!」

 バン! と勢いよく机を叩いたリリーフィアさん。私は思わず数歩下がっていた。
 ゼェゼェと肩で荒い息を吐いている。
 机で伏せっていたライアーですら思わず顔を上げて引き攣った顔面をしていた。

「ち、治安は良きですよね! ここ!」

 街中とか悪い人あまり見ない気がするな! 森とか少し物騒だけど! 草原とか街道とか魔物はスライムくらいしか見ない気がするな! ……ここ来て2日目だけど。えっ、ここ来て2日目なのにこんなにトラブルに巻き込まれてるんですか? 正気?

「………………ここ、グリーン領は農作物が盛んに収穫されていることはご存知ですか?」

 はい、知ってます。
 我が領ファルシュは領地が少ないから作物はグリーン領に頼りきりなのは知ってます。代わりに魔物の素材とか肥料とかを輸出してるけど。

 グリーン領はクアドラード王国の食料庫、だもんね。

「今のファルシュ領主が成人の儀をあげた頃、グリーン領の高ランク推奨魔物をほぼ全て壊滅させました」
「えっ」

 パパ上なにやってんの????

「高ランク推奨魔物は隣のファルシュ領と、反対隣コマース領に逃げ出しました。なので、この領地は初心者冒険者と、農家が多いのです。そして安全に作物を育てることが出来るのです」

 は、はぁー。なるほど。
 なるほどね。

 そういうカラクリがあったわけかー。


 ……いやパパ上なにやってんの???? (2回目)

「まぁ、いいんですよそんな事は。私の苦労なんて、4代目ギルド長に変わっても無くならないんですから」

 よよ落涙と言った感じに涙を拭うエルフ。
 これガチなのか演技なのか見分けづらい。無関係なので突っ込まないんですけど。

「それよりとっとと取得物まとめてくださいよ」
「あー、リリーフィアちゃんギルド長は?」

 ライアーが椅子に腰掛けたまま疑問を投げかける。私はリリーフィアさんに視線を戻した。

「ギルド長なら今頃ファルシュ領に向かってる最中ですよ」

 そろそろ着いたんじゃないですかね。
 そう言いかけたリリーフィアさんだったけど、言い終わる前にあのおっさんは逃げ出していた。

 私が一瞬視線をリリーフィアさんに向けた時に!

「おっさんなんか禿げちまえーーーーーーーッッッ!」

 1人でぐすんぐすん泣きながら一覧書き出す羽目になった。ドライアイ辛いわぁー。
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