最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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冒険者編

第18話 決め台詞は遮るもの

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 執務室の本棚が避けられ、堂々と隠し扉が口を開いている。
 盗賊が使う屋敷なら地下室への扉を隠す必要性ないもんね。

「王道な場所にぞあるですね。まぁ、1番安心可能な場所でもあるですけど」

 執務室に地下室の扉があるのは個人的にどうかと思う。私兵の出入りとかあるだろうし、地下牢に入れられる様な人間が屋敷の心臓部を経由して届けられるのも気分的には良くないだろう。

 まぁ、今私がそんなことを考えても意味の無いこと。
 可能性は低いが他の地下室があるかもしれない。この扉をくぐった先に……。

「保管庫がありゃいいけど」
「地下牢があれば良きですけど」

 ライアーと私の発言が被る。
 ん? と首を傾げた瞬間思い当たる。

「あ、私とグレンさん探し人ぞいるのご存知無きですっけ」
「探し人?」

 探し人がある・・としたら地下牢だろう。

 ライアーは眉を寄せて苦々しい顔をした。

「……まさかと思うが嬢ちゃん。その探し人生きてると思ってるのか」

 私は首を横に振った。

「可能性はほぼ0ですぞ。しかし、私探し人の特徴ぞご存知無いので身元判明可能な物があると良きですが」

 下手したら存在する死体全てをまさぐって手がかりを掴まないといけない、かもしれない。
 まぁ、うん、見つからなかったらギルドに場所を報告して探索してもらおう。そうしよう。

「んで、その探し人ってのは?」
「貴様が私ぞ見捨てるした店の店主」

 私が言い放った瞬間おっさんはピタリと動きを止めた。
 10秒、20秒。
 止まっていた時間はそれなりに長い。

 微かな震えでカタカタと左の篭手が音を立てていく。

「……………………まさか『ガイズ』のリーベか?」

 あの店の名前ガイズって言うんだ。
 それは知らなかったけど、名前がリーベさんな事に違いはない。私は普通に頷いた。

 瞬間、おっさんが踵を返した。

「逃がすなるかテメェ!」
「嫌だ! 俺は帰る! 離せ小娘!」

 おっさん私の事普段は『嬢ちゃん』って呼ぶけど冷静さを欠くと『小娘』って呼ぶよね!
 柄の悪さが透け透けだぞ!

 私はがっしりと服を掴んだままズルズルと引き摺られる。こうなったら裏技使うよ裏技。

 私はおっさんの腰のベルトに触れて目視よりも確実性を得た状態で魔法を発動した。

 〝サイコキネシス〟!!

「おわぁ!?」

 おっさんが腰を吊り下げられる形で空中に浮かぶ。
 私はニッコリ笑顔で宣言した。

「地獄まで付き合ってもらうぞ」
「お前の頭は最早犯罪者のソレなんだよ!」

 おっさんが泣き喚く声をBGMに私は隠し扉の先の地下室へ足を進めた。



 ==========



 サイコキネシスで吊り下げられたおっさんが未だにブツブツと文句を叫び続けているのを聞き流しながら私は我が魔法ながら便利だなと考えていた。

 サイコキネシス。
 本来ならば触れた無機物を浮かばせることが出来る魔法だ。呪文の詠唱はちなみにくそほど長い。最早覚えてない。師匠のくそエルフは魔法名は唱えど無詠唱派だったから座学で教えられる程度しか触れない。実戦では使ってない。

 ともかく、私はサイコキネシスをもっと便利にしたかった。だから。

 魔法の発動可能無機物を『過去、触れたことがある物を浮かばせれることが出来る』って言う定義にまで広げた。

 本来なら触れた物を浮かばせる。つまり浮かばせた後は触れてない。なら過去に触れたことがあるならいけるじゃん!

 って言う脳筋解決方法を生み出した。

 まぁ、理論を付けるのなら触れた瞬間魔力を送り込むってことで過去に触れたことはノーカウントになるはずだけど。
 そこは思い込みと想像よ。

 ウンウン。
 私の得意技は思い込みだからね。


 階段を降りきる。薄ぼんやりとした光が灯るジメジメとした地下空間。

「ハッ、ネズミが入り込んでやがったか」

 地下室では一際体格の優れた男が待ち構えていた。
 多分180cmはあるだろうライアーの、更に上。2mはゆうに越える。

 ……よく地下室入れたな。
 多分入口結構狭かったと思うよ。

「俺の名はドミニク。ここまで辿り着いた冒険者よ、名を問おう」
「断る」
「そこは雰囲気的に言ってやれよ」

 ライアーが正々堂々戦う騎士団みたいなこと言ってる。ふえぇん。

「相手の調子ぞ乗せるような事誰が言うですか?」
「……まぁ、それもそうだよな」

 左右の壁側にあるのは檻。
 中には虫の集った死体もある。よし、直視したくないので直視しないようにしよう。

 私は意識を全て大男に向ける。
 えっと、ドミニク、だっけ。

 ドミニクは持っていた大斧をブンと振り回した。

「少女、お前は魔法職だろう。……知らないだろうが俺は──」

 正直あまりイケてる声とは思えないけど、なんかカッコつけてるんだなって思う感じに敵さんが言い放つ。

 ブンブンと回転が酷くなる。
 次第に独楽が回るように斧の遠心力で回転し続けていた。

「箒ぞ武器の前衛職ですけど」
「えっ」
「えっ」

 あ、回転が止まった。
 その隙を突いて、駆け抜けたライアーが柄に入れたままの剣を下から顎に向かってゴンッと突き上げた。

「嬢ちゃん!」

 〝ファイアボール〟ッ!


「ぎゃあああああ!? ーーーーーーッ!!」

 炎での攻撃中に大きく叫び声をあげたら炎吸い込むと思うけど。そんなことを考えていたら普通に吸い込んた。多分喉まで火傷したんじゃないかな。南無。

「ったく、この狭い通路で武器ぶん回すやつがいるかよ」

 ライアーは仰向けに倒れたドミニクを見下ろしてそう吐く。
 顔を覆いバタバタと痛みに悶えている姿は害虫そっくり。そういえばカマキリの卵を屋敷で放置した時はメイド長に死ぬほど怒られたな。あれ以来逆らわないって決めた。

「おっさん武器貸すして」
「は?」

 パシッと片手剣を奪い去ると私は鞘から剣を引き抜いた。

「ドミニク、貴様ら盗賊が一体何人いるして、どこに会得物ぞ存在するのか吐け」
「だ、っ、誰が……!」

「じゃあお喋りぞするまでこれ聞くしてもらうです!」

 私は剣を牢屋の檻に当てた。

「りっすん!」

 〝サイレント〟

 ──ギギギギギギギギ!

「「ーーーーーーッッッ!?」」

 金属が金属を引っ掻く不愉快で最低な不協和音が、音漏れしない地下空間に響き渡った。


 空間魔法って万能だよね。
 耳栓魔法を使わせてもらったよ。自分に向けて。
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