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冒険者編

第13話 交通マナーは守りましょう

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「──というわけなのです」
「なるほどな」

 私の説明にグレンさんは頷いた。



 ナチュラルに『大人と共に街の外に出る』をクリア出来たけど相手がグレンさんだったことに運がいいのか悪いのかちょっとよく分かんないリィンですこんにちは。

 日も傾きかけて、あと1時間もすれば空はオレンジに染る。日暮れまで2時間もないだろう。

 馬車で2日かける道程を2時間で探索出来るわけが無いが、リリーフィアさんの様子から見るに『冒険者が探索している』事実が必要なのかもしれない。
 同じ魔法職同士という相性の悪い私たちは、依頼内容でもあるリーベさんという防具屋の店主を探していた。


「しょういうば」
「なんて?」
「そう、言うならば! 冒険者の平均的な活動はどれくらいなのです?」
「……ん?」
「この時間からの活動、可? 可能? する場合?」

 なんて言うんだって。
 言葉を探して首を傾げているとグレンさんは頑張って解読していた。

「この、時間から活動、するのか、ってこと?」
「それですた!」

 ビシッと指さす。解読ありがとう! そういうこと!

「するよ。というか1日2往復はする」
「ぷぎゃ!?」

 え、そんなに働かないといけないの!?
 平均活動時間があまり分からないけど、ライアーが働かなさ過ぎるということはよく分かった。

 多分朝の鐘から夜の鐘まで活動して、その内のどこかのタイミングで1回素材を持ち帰ったり次の依頼を受けたりするんだろうな。……庶民働きすぎじゃない?
 我ながら言うのもなんだけど貴族も結構ガッツリ働いてるよ? でも私たちみたいな子供はどちらかと言うの未来のために教育をさせてもらっているというか。投資というか。

 リアル命の危機が間近にある冒険者活動で心身共に疲弊してなんもいい事はないと思うかな。

「リィン、今使える魔法は?」
「……」

 あのね、私魔法名噛むから言いたくないの。
 なんだったら魔法職の前で無詠唱とかすごく嫌だ。

 おっさんは魔法職じゃないから詳しくなくて良かったけど。私の中では普通だと思っている無詠唱、きっと庶民の中では普通じゃない。殆どの人が出来ないんじゃないかとすら思っている。

「地水火風ぞ基礎です」
「基礎? あぁ、火球系か」
「かきゅー?」

 随分と響きが堅い。

「ファイアボールのことだよ。俺の魔法の師匠はレーン島外で育ったから」

 そういえばそう。

 ──伝承魔法。
 魔法とは生み出すことが難しい。この世界は、はるか昔に魔法を創造した大賢者が残したものを名前を変えアレンジを加え派生させてきた。

 ファイアボールと言っても、他所では火炎玉とも言われる。同じ魔法でも名前はそれぞれ。
 私の使える魔法は、ファイアボールや瞬間移動魔法と言うように言語が違ったりする。これらはもう教えてくれる人によるとしか。

 私はエルフの師匠が居たから、沢山の魔法は知れた。空間魔法をメインで覚えざるを得なかったから(取得にかかる時間の長さのせいで)覚えた攻撃魔法の地水火風は実際基礎の4つだけ。

 ・ファイアボール
 ・ウォーターボール
 ・ロックウォール
 ・エアスラッシュ

 えぇ、これだけです。
 もっとバリエーションを増やすべきだった。でも瞬間移動魔法の習得は捨てられなかった! 今の私だと視界内の5回までだけど、あれは慣れて来ると遠距離も行けるらしい。


「とにかく探そう。街道から大きく逸れることはないだろうし、逸れたとしても馬車なら痕跡は残っているはずだ」

 グレンさんの言葉に頷く。
 索敵を怠ると前みたいにこんにちはワイバーンを再チャレンジする羽目になる。

 他人の手がかりではなく自分の安全性重視していこ! (真っ当な人間の思考回路)

「流石に街が見える範囲には手掛かりがないか……。時間が無いし早めに進む。ダクアの見えない範囲をメインで捜索する」
「了解です」

 心のうちはどんなことを考えようと自由。
 だけどそんなこと欠片も見せないように取り繕った。

 そもそも誰かの為にする行動って、どうなるだろう。
 私にはよく分からない。
 たった1回だけの人生なんだから自分勝手で自分本位に生きてもいいと思うんだけどな。

 誰かから徹底的に搾取してまでとかそういう考えは流石に無いとはいえど。
 私は偽善は好きだが善意が大っ嫌いなのだ。

 てくてく。

 ……。

 てくてくてくてく。

 くるっと振り返ってダクアの外壁を見る。あぁ、まだ大きい。
 10分は歩いたと思ったのに、距離はそこまで稼げて無い。

 探索目的地にたどり着くまでが一体どれくらいかかるのだろう。

 私は右手に持っていた箒を両手で握り締めてため息を吐いた。

「あ、」
「ん?」

 箒。

 私はいいことを思いついた。

「ちょっと待つしてグレンさん」

 私は箒に跨ってみる。
 これは空間魔法だけど、善人グレンさんなら漏らしても大丈夫でしょう。多分ね。

 〝サイコキネシス〟

 無機物限定のね。

「おわっっ」

 ゆらりと体のバランスが崩れる。んいいい。頑張れ私のバランス感覚。イメージと集中と思い込み! この天才的な転生者というイレギュラーにかかれば箒で飛んじゃうなんて極々普通の事。

「…………まじか」
「グレンさん、後ろ乗るして」
「いや、え、まじか。これは風魔法……?」

 そういえばこの箒には風の魔石と水の魔石がついてるんだった。
 ……そう、何故かブラシの中に。傍から見たら完全に箒だけど、果たして箒に見せていいのかという謎はある。

 私は堂々と嘘を言い放った。

「風でしゅっ!」

 噛んだ!

「確かに、この方が速そうだけど……。よし、男は度胸」

 グレンさんは恐る恐る乗り込む。
 私はバランスをとる事に必死だ。世の中の絵本の魔女は良くやるよ。箒とか不安定でたまらない。

 けど、すごく速く飛べる気がする。


「行くです!」

 ゴォ!

 風が耳を切る。想像通りのスピードで進んでいく。
 サイコキネシス。別名物質浮遊は私の得意な魔法の内の1つ。

 私は物質浮遊をひたすらに努力した。
 何故かって?

 ──ベッドから動きたくなかったから……ッ!

 街道に沿って道を進んでいく。

 すると道脇から影が飛び出した。
 ッッ!???!?


 ガクン、と箒を止めると慣性の法則により体が前に飛び出る。箒の上で踏ん張って、ぎゅっと閉じた目を開いた。



 箒の先端がおっさんの喉元ギリギリで止まっていた。

「…………。」
「……(バックバックバックバック)」

 心臓の音がここまで聞こえてきそう。おっさんは青い顔で冷や汗をだらりとかいていた。

「あっれぇ、グレートバリアリーフじゃん」
「誰がグレートバリアリーフだグレンだって何年言い続けてきたくそリック!」

 おっさんの後ろと私の後ろでそんな会話が交わされた。



「なんでここにいる!?」
「何故ここにいるぞ!?」

 そしてライアーと私も声を揃えた。
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