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冒険者編
第11話 災厄は避けようと思っても避けられない
しおりを挟む「お願いします、お父さんを探してください!」
防具屋の扉を開けると開口一番目にそれだった。
逃げよう。(即決)
──ガシッ
踵を返した私の腕を思いっきり掴まれた。
「……逃がしませんよ」
ギリギリと骨が軋む音が私の右手から聞こえてくる。待って馬鹿力すごい。
「お姉さん絶対強い人ですよね……! 防具屋の娘の目は誤魔化せま……──」
下から上、右から左。
恐らく私の肉付きを確認していた女の子は右手に携えてた箒をみて体の動きをピタリと止めた。
私より5歳は年齢が低いであろうその少女は茶髪のくせっ毛を跳ねさせて私と目を合わせた。ピコピコとその頭の上に付いた耳が動く。
「なんで箒?」
「何故耳?」
理解出来ない現象に遭遇して思考回路が止まる。多分お互いに。数秒見つめ合い、少女はハッとなって手を離した。
「私、獣人族のウルです。そういえばこの国では獣人族は珍しいんでしたね」
なるほど獣人族。
私は書物だけだった知識に色が付いた事を実感した。
このクアドラード王国に栄えているの文明は魔法だ。
そして純粋な魔法を使える種族は3つ。
・人間族
・エルフ族
・魔族
この中で特に魔法に秀でているのは魔族なのだけど。この国には多分居ないだろう。魔族は忌み嫌われている種族だから。
ともかく、クアドラード王国は種族差別も意識も比較的少なく、そして魔法をメインに据えている所から人間族とエルフ族が一緒に暮らしている。らしい。非魔法族は逆に生きづらい。
というかこの世界、国によって特色すごく違うからな。
我が国は魔法国家だけど隣のトリアングロは軍事国家だし。
話が逸れた。
つまりこの国に獣人族はひっじょーーーに珍しいというわけ。
ちなみにファルシュ家は国の中で唯一の国境ということもあり、魔法と言うよりは武力寄りの為、獣人が住みやすいとは言われている。
まぁレーン島に渡ってくる獣人族なんて居ないだろうけど。
「本題です」
「帰るます」
「逃がしませんっっ!」
獣人の腕力で食い止められる。
待って、私の関節はそっちに曲がらない!
「ふふふ、前衛職に必要な腕を折られたらどう思います……?」
獣人の少女が物騒極まりない脅しをかけてくる。
少なくとも父親助けてとか言ってる立場の人物が言っていい台詞じゃないよね!?
……ん?
「私、魔法職ですけど」
そう告げれば獣人の少女はギョッと目を見開いた。
「えっ」
目玉が零れ落ちるんじゃないかと思うほど。
すると少女は持ち得た肺活量を使って盛大な音を発した。
「えええええええぇぇぇえ!?」
耳が痛いぃ!
すると少女はペタペタと私の体を触診し始めた。
なになになになに。
「この腕の筋肉……剣を使える付き方……それに手のひらにも微かにたこ……背筋……脚……二頭筋の付き方がしっかりしてるし……腹筋も割れてはないけどある……」
ブツブツ言いながら触り続ける獣人小娘。
正直目が飛んでて怖い。
「この筋肉で、前衛じゃないとか。鍛え方損してますよ!?」
「何事ぞ!?」
「だって、女性の剣士と同じなんです! この筋肉で魔法職!? やめてください筋肉が泣きます!」
濃っっっ。
いや濃い。濃すぎて噎せかえりそう。
もしかしてダクアにはキャラの濃いヤツしか存在しないの?
ダクアのキャラが濃いだけなのか、私が濃いヤツらを引き寄せてしまうのか。前者だと信じたい。
「絶対絶対絶対絶対っ、貴女は剣を使うべきです!」
入るんじゃなかった。この世は後悔ばかりだ。
あきらかに目がイッちゃってる獣少女。
……。これ、理性残ってる?
私は無言でチョップを頭に叩き込んだ。
「は……!」
どうやら精神分析は成功して、正気を取り戻したようだ。
私、何もやってないけど。
「すいません、私筋肉の話となると目がなくて」
「別に私筋肉ぞ話して無きですけどね?」
「ところで私の父親が1週間帰ってこないんです」
「話ぞ聞くしろ」
「お父さんは私の作った服や、防具屋から仕入れた防具に魔法耐性を付与させることを生業とする職人なんです」
こちらの意をガン無視して事情を淡々と詰め込んでくる……!
コイツ、逃がす気ないな!?
わかった。コイツ正気でも普通に狂ってる。正常こそが狂気。
「くすん。誰か助けてくれる冒険者様がいないかと1人留守番をしながら待っていたんです」
チラッチラッとこちらを見てくる。
あーーー、逃げよう。今すぐここから逃げよう。
厄介事しかない。胃が痛くなってきちゃった。
「この店は何故か人が寄り付かなくて」
「徹頭徹尾貴様のせいぞ!?」
「そこで運良くやってきたのがあなた!」
運、どこ行ったんだろうな。
家出したまま出てこない。
私という労働力を得ようと頑張る獣に私は逃げ出す機会を探す。さすがにキリキリとし始めた胃を押さえる。
絶対、嫌だ。コレと関わりたくない。
ダクアの民がここに近付かないのを常識としているのが分かってしまった。周囲の反応何も分からないのに。
……あのおっさん、絶対知ってて逃げたな。
「あのですね、そもそも私は魔法職です」
「でも剣士としての経験があるんでしょ?」
ぐっ、と息を詰まらせる。
貴族の心得その1。
『国のための盾となり、民のための剣となれ』
貴族当主はもちろん、その子供にも剣の稽古をさせる義務がある。大体男が剣を習うんだけど、ファルシュ家ではまぁ女もやる。特に私の上にいる双子の兄と姉は、魔法得意の兄と剣技得意の姉という形に納まっている。
もちろん、私も例に倣い剣の稽古をつけていた。
重いしダルいし汗かくし。
正直、前衛職も出来るかもとは思う。でもやりたくないね。絶対。
「仮に魔法が使えたとして」
「魔法職ですけどぉ?」
「前衛も出来る貴女なら多分私のお父さんも見つけられるはずです!」
グッ、と握りこぶしを固める獣耳っ娘。
「……。私、冒険者ランクはFなのです」
「えっ?」
「世間ぞ知らぬですし。常識も知らず。私、私この人間社会で生きる可能か不安。それに、まだこの街にぞ来るして数日」
私は目に涙を溜めた。
「大変申し訳ありません、です」
「なんで謝罪だけ流暢なんですか」
「私っ、今は誰かのこと気にかける余裕ないです」
本当は助けたいけど地形も常識も分からない私には無理なの!
そんな嘘くさい意味を込めて涙を流した。
「うぅ……。仕方ないですね。知り合いの冒険者に手紙を書きます」
ここまでするとようやく獣人の少女は折れてくれた。
「それなれば良かったです! 冒険者ギルドに届けるくらいはするですよ」
「ホントですか? じゃあ今から手紙を書くのでちょっと待っててください。宛先が……──」
手紙や荷物は冒険者ギルドが請け負っている。
それぞれの街への繋がりが1番強いからね。
ウンウン。これで一件落着……。
「──ファルシュ領の首都のイーラさんに!」
ギュルン。
胃が悲惨な声をあげた。
「いいいいいいい、い、いーら?」
「はい、イーラさんです。黒髪の素敵な女剣士さん!」
私の胃が爆走で痛み始めた。治り掛けていた瞬間に畳み掛けられる胃痛の圧。
ここで話は変わるが、私の兄姉の名前を紹介しよう。
長女のヴィクトリア。
長男のブライアン。
双子の次男ウィリアム。
そして同じく双子の次女、レイラ。
レイラ姉様。ダクアに屠り去るために私を絞め落とした躊躇の欠片も無い女。あれ、もしかして私妹じゃなかった? 実の妹に普通鬼みたいな仕打ちする?
そのレイラ姉様には冒険者として活動している時期があった。
はは、勘の鋭い人ならわかったでしょ。
私ことリアスティーンがリィンであるように。
レイラ姉様の冒険者名はイーラだ。
「父親探す、引き受けるしますぞウルさん!」
そう、手紙ではなく父親探しの方を!
「故に手紙は必要です皆無!」
「どっちですか」
レイラ姉様に知られたら絶対まずいことになる。
その勘を私は信じることにした。
応援ありがとうございます!
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