最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音

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冒険者編

第7話 ついでに頭も痛い

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 いやー稼いだ稼いだ。

 計画が上手くいった満足感から私はニコニコ笑顔で腕を組んだ。

「チップたんまり!」

 そう、これはチップ計画。お昼時だけどあまり昼飯の文化がないこの世界。お昼時に宿に食べに来るか賭けだったけど、誰かが宣伝してくれたみたいで沢山来てくれた。お陰様で塵も積もれば山となるどころか金貨数枚分の稼ぎになったんじゃないだろうか!

 ようやく落ち着いた宿で、1人もそもそとご飯を食べているライアーが呆れたような目で私を見ていた。

「おい無一文」
「ど失礼ですぞ!?」

 失礼な。
 いくら事実でもその呼び方はどうかと思う。

「宿代位はあったのか?」
「銅貨1枚も無きですたけど」

 昨晩、慌てて帰ってきて。
 収穫物も何も無い、魔石も無い、多分うさぎは食べられた。

 無一文の絶望御三家だった。

 でもよく考えれば宿のお金は後払い。
 そこで女将さんに交渉したのだ。支払いを昼飯終わるタイミングまで待って欲しい、と。

「はぁ、可愛きは罪ぞ」

 私ったら天才。
 チップたぁんまり貰っちゃった。

 そもそもの交渉が上手くいかなかったら? その時はおっさんの部屋に入り込んでロリコンの罪着せて財布を頂戴する。ただそれだけの話だ。

 頬に手を当ててウットリしているとおっさんは私のチップが入った袋を漁り始めた。おいコラ。

「1……3……7……。嘘だろ金貨3枚分!?」
「女将さんこれ約束の銀貨1枚ー!」
「はい確かに」

 女将さんは食器の片付けに戻っていった。

 銅貨が数枚に、あと銀貨がたんまり。
 ある程度の資金になった。

 いやー! 小さくて可愛い子供ってだけで勝負はこっちのもんよ!

 予想以上に上手くいったと思う。

「お前……普通に狩りに行くより金稼いでるじゃねぇか」
「そうです?」

 3万円分。日当と考えると多いけど、冒険者活動よりは少ない。

 金貨3枚分だったら狩りと採取でもっと効率よく稼げると思う。特に昨日持って帰りそびれた夕暮れの果実。あれは1つ銀貨5枚したみたいだし。

 多分Fランクでも普通に金貨5枚位は稼げると思うな。

「金額としては確かに普通に狩りをする方が多いな。だが利益で考えろ」
「利益率。にゃるほど、必要です経費!」
「……なんで必要にですって付けた」

 え、付けるもんじゃないの?
 訂正しておこう。覚えておけるかはさておき。

「つーか必要経費って言葉に繋げれる頭があるのになんで言語はポンコツなんだよ…」

 ボソリと呟かれた。殴るぞ。

「冒険活動には何かと金がかかる。武器、防具、靴。その3つが最重要だとは言え、持ち運び様の袋や食料、血抜きに必要なロープやスコップ。魔法が使えるならスコップも水も必要ねぇが他はそうはいかねぇ。予備の武器、解体道具。色々あるぜ」

 う、無一文スタートがどれだけ無謀なものなのか分かってくる。パパ上厳し過ぎるよ。
 そりゃ薬草や街中の依頼を中心にするんだったら初期費用はかからないけど。それにしたって厳し過ぎる。悪魔とか鬼とか邪悪な存在に例えても許されると思うんだ。

 それにFランクって冒険者始めたばかりのランクだから初期費用かかりまくるね。消耗も激しいだろうし。

「手にした獲物も全て回収出来るわけじゃない。売値が高い部位を優先して持って帰る」
「うぬ……。そう言うされると」
「武器のメンテナンスも必要と考えると……。精々利益は3割だな」
「夢ぞ無き!」

 あまりにも現実的。今日私が稼いだ金貨3枚分を稼ぐには金貨10枚分の収入がないと利益にならないんだ。
 しかも実力を見誤ると大赤字。うーん。もっとファンタジーな夢を見せて欲しかった。

 私にとってこの世界が小説でも漫画でもアニメでもなく現実だと否応がナシに突きつけてくる。

「その点、お前のこの金貨3枚分はどうだ」
「……?」
「お前が消費したものはあるか?」

 作物を採取するならナイフや袋。
 動物を討伐するなら武器や道具。

 私のこの稼ぎの中で消費したもの……。

「時間とぶりっ子?」
「ぶりっ子って消耗品なのかよ」

 消耗品です。
 私のぶりっ子ライフはそろそろ3割切るから。

「まぁ、それはさておき。お前が金額以上に手に入れたものは?」

 ふむ。

「お昼ご飯の代金分と」
「そう」
「伝手と」
「そうだな」
「弱味と」
「そうそ………………ん??」
「脅迫材料と」
「まてまてまてまて」

 待ってみる。

 おっさんはストップと言いたげに手のひらを見せ、頑張って私の言葉を噛み砕いていた。

「善良な市民に何をした」
「ギルド職員の汚職の証言」
「ほんとに何をした?????」
「お酒イッキ! お膝にちょこんと乗るして体重預けるすたなれば完璧!」

 手札は多いに越したことはない。
 私の口調が口調だからね、物もわからぬ少女を演じれば『隠したい! でもひとりじゃ抱えられない! 誰かに話したい!』って人は簡単に口を開いてくれる。特に悪行に酔っている人はね。

 言語不自由という短所も上手く扱えば武器になる。


 あ、すぐ使うつもりは無いよ?
 だって私に不利益ないから。

 ただし私に不利益が被った場合は速攻カードを切る。

 悪は殺さず利用しろ。敵は迷わず遠慮なく。手を下すのが嫌なら自ら死ぬように仕向ければいいじゃない。

 こんな危険溢れる世界で生きるか弱い私のためのモットーを掲げて。それでは聞いてください。

「──多分私どこでも生命活動ぞ可能」
「全くな」

 いやほんと。
 美醜が第一印象を決めるとは言えど、自我成立が早過ぎたから人生イージーがすぎる。今めっちゃハードだけど。


 前世の業によって生まれるのが天国が地獄かってのが堕天使の話だったけど、辺境伯の第三女に産まれた今世、もしかしなくても天国モードでしょ。
 この生が地獄モードなら何も信じられない。

「あーーもうお前と話すとすげぇ話が逸れる」
「不思議ぞね」
「お前がな?」

 私が不思議なのは言葉だけだよ。

「とにかく、普通の冒険者のその日暮らしの生活に余裕なんてものは無い」
「ののののっ」
「……お前の相槌は一体何語だ」
「この国ぞ言語ではあるですけど」

 いやねぇよ、と言っておっさんは骨付きのお肉にがぶりついた。骨付き肉って言うより手羽元とか手羽先に近い感じだなあ。今度食べよ。お客さんの。

 じっと見ていたらやらねぇよと言わんばかりに食べ物を私から遠ざけた。このいやしんぼちゃんめ。おなかいっぱいだし要らないよ。
 でも普通に腹は立った。後で殴る。

「冒険者には2種類いる。まともな職種に就けなかったあぶれ者か、英雄譚を夢見る馬鹿」

 うんうん、つまりろくな人間が居ないってことね。
 考えていることがバレたのかおっさんから非難するような目で見られた。

「ライアーはどっち?」
「……。」

 ライアーは骨付き肉をしゃぶっていた手を止めて数秒考える。そして肘をついて面白がるような表情を作った。

「──どっちだと思う?」

 その眼光にぞわりと背筋が警報を鳴らした。
 そう、これは。



「……ロリコンの香り──!」
「なんの含みもなくただただ腹立つな」
「いだだだだだだだだ!」

 顔面を! 掴むな!
 私の顔面はスクイーズでもスライムでもないんだけどね!? 

「はぁ、お前のせいで時間食った。今日はもう街の外出たくねぇな」
「え、働かぬの?」

 おっさんは馬鹿だなと呟いながら頭をかいた。

「俺が生真面目に働くとでも思ってんのか」
「馬鹿かと思うしたがただのクソ野郎ですたっ!」

 全く見えない。

 そりゃ移動時間を考えれば安全的に懸命な判断だと思うけど、ただライアーが言うだけで普通にサボりに聞こえる不思議。世の中不思議に溢れている。

「あっ」
「(不穏な気配を察知って顔)」

「じゃあライアー、私に付き合うすて!」

 道案内、よろしく!
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