上 下
5 / 9
第1章 異世界転生と魔の森

1-5 合法的モフリ方のススメ

しおりを挟む
 うん……?何かに包まれてる気がする。


 これはなかなかに良き抱き枕だ……。


 モフモフがたまりませんな……


 ………


 ん?


「え、ナニコレ?」

『おはようセレーネ!これすごいよね!』

 目が覚めてまず視界に飛び込んだのは、一面の黒。もふもふとした黒。
 どうやら俺はこの巨大な黒いモフモフを抱き枕状態らしい。

『この子、昨日会った精霊ちゃんだよ!』
「一晩で一体何があったっていうんだ!?」

 昨日は結構小さかったじゃん。確かこぶし大くらい。一夜で何をしたらここまで急成長するんだよ。
 想像以上に大きいな。ミニウサギって書いてあるのに全然ミニじゃないってくらいのスケール感だ。あ、飼う人は一応大きめのケージにしておいた方がいいよ。本当にでかくなるから。


『この子ね、やっぱりセレーネの魔力が大好きみたいなの。だから一晩中くっついて魔力を吸い続けてたら、こんなに成長しちゃったみたい!』
「そんなことがあるのね……。
 ん?つまり俺が魔力をもっとあげれば、合法的にこのモフモフを堪能できるってことか?」

 やばい。なんて魅力的なモフモフなんだ。俺好みのモフモフを育て上げようではないか。

「よし!精霊ちゃん!今日の夜また寝るときに、俺の抱き枕になってくれ!思う存分俺の魔力を吸っていいぞ!!」


 ふるふるふるっっ


 うん。言葉はしゃべれないが喜んでいるのが分かる。
 急に俺の周りで荒ぶりだしたもん。狂喜乱舞ってやつだ。
 かわいいやつめ。今夜は浴びるほど俺の魔力をくれてやろう。

 ちなみに、試しに俺が水魔法でつくった水を飲ませたら、身体ごと突っ込んでいった。流石に俺も心配になった。 飲み水のつもりが水浴びになっていたよ。


『せっかくだし、名前を付けてあげたら?』
「そうだな。といっても性別があればつけやすいんだけど……。おそらくだが女の子だよな?」
『うん。僕もそんな気がする。僕の精霊レーダーが女性だってビンビンいってる』

 なんか挙動だったり、纏っている雰囲気が男のそれではないんだよな。
 後、精霊レーダーには突っ込まないぞ俺は。
 ルクスはとても楽しいバトルを終えたばかりなのだろう。


「うーん。折角だから日本的な名前を付けてあげようか……。あとは黒を連想させる名前を……。
 よし!漆(うる)葉(は)ってどうだ?漆のような綺麗な黒色から連想したんだが……?
『おっ!なんかいい感じの名前だね!』

 個人的に結構しっくりきた名前だった。さっそくつけてみよう。

「精霊ちゃん。君の名前は今日から漆葉だ!よろしくな!」

 すると、まるで俺の魔力が抜き取られるような感覚がした。どうやら漆葉が、俺の魔力をさらに吸収したようだ。  これ、魔力をかなり持っていたな……。
 そんなに名前を喜んでくれたのか。

「なんか魔力もってかれたんだが?」
『結構吸っていったね。名前が気に入ったっていう証かな?』
「そういうことにしておくか。気に入ってくれて何よりだ」

 その後も、ルクスと普段通りに訓練に励んだ。
 その間に漆葉は、事前に大量に放出しておいた水で遊んだり、俺にくっついてきたりしていた。愛嬌があっていい感じ。
 
 もちろんその夜は、宣言通りに漆葉を抱き枕にして、モフモフを堪能しながらおやすみしたよ。






________________________________________






 うーーん。もふもふだ。


 でも……、すべすべもあるな。安心する。


 もう少し眠ろう……。このモフモフとともに。


 そういや、なんか…もふもふ以外の成分多いな。


 うん……?


 ……


 え、誰?


「おはようございます。ご主人様」
『おはようセレーネ!なかなかに刺激的な朝だね!』

 目の前にいたのは、綺麗な黒髪をした、顔の整った美女。え?俺は女性を抱きながら寝ていたのか?

「すまん!寝ぼけて抱き着いていてしまった!」

 即座に俺は彼女から離れる。

「いえ。好きなだけ私を堪能してくださいませ。私もご主人様の濃厚な魔力と香り、その他諸々を頂いております故」

 “その他諸々“がとても気になります。

「え、もしかして漆葉なのか!?」
「はい!漆葉でございます。素敵な名前を頂戴致しました!」
『すごいよね!気づいたら人になってたよ!』

 昨日の夜から抱き枕にしている最中に成長したらしい。ルクス曰く、俺と漆葉の間には、魔力やら何やらがつながっている状態のようだ。ルクスともつながっており、言葉漆葉に伝えることができる。
 ちなみに漆葉は「ルクス様」と呼んでいた。精霊にも序列みたいなのがあるのだろうか。
 その場合、ルクスは間違いなく高位に位置付けられると思う。世界樹と聖域を護り続けてきた存在なのだから。

 どうやら名付けによって精霊との契約のようなものの条件を満たし、主人である俺の形に寄せられた結果、ヒト型に進化したようだ。俺もルクスも常識がないから、とりあえず現実を飲み込んでいるだけだが。

 擬人化という異世界テンプレに出会うことができたよ。何で毎回擬人化するんだろうって思っていたけど、そのツッコミもできない立場になってしまった。


「嗚呼、私はご主人様と運命の出会いを致しました。夢見心地でございます……」

 漆葉はそう言って、俺にしな垂れ掛かってくる。というか体格が大人の女性のそれだから、とにかくやばい。やばちゃん。やばたにえん。


 うん。語彙力が崩壊してきた。耐えろセレーネ。


「お、おう……、喜んでくれて何よりだよ。ところで、どうやってこの聖域にやってきたんだ?ルクスが言うには一度も他の精霊がやってくることなんて無かったみたいなんだが」
「それはもちろん、ご主人様に導かれてでございます。ご主人様のその魔力ッッ!今までに感じたことのない、濃厚で力強い、芳醇なその魔力を、私は遠くからでも感知いたしました!」
「おおう。俺の魔力なのか。まあ、ルクスの予想通りだったな」
『そのようだね!
 ちなみに漆葉は人里からやってきたのかな?僕たちこの聖域からまだ出たことがないから、外の情報が何もないんだ』
「いいえ、ルクス様。私も生まれた時からこの周辺の森に住んでおります。人里はみかけたことがありません……」

 新住人も常識が無いのかッッ。

 マジで?ここ辺境にもほどがあるんじゃないか?探索を始めたとしても、森を抜けるのは年単位はかかってしまいそうだな。

『これはかなり準備して臨まないと、森は抜けられなさそうだね……!』
「本当にそうだな。
 漆葉も俺たちと一緒に戦ってもらうことになるかもしれないんだが、大丈夫か?」
「お任せください!ご主人様のお役に立つためなら、私はなんでも致します!」

 俺はここで、「ん?今何でもするって言った?」とかは言わないよ。紳士だから。
 



 その日以降、ルクスとの戦闘訓練や魔法研究に漆葉も加わり、いずれ来るであろう聖域外への探索の時に向けて、着々と力をつけていくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ
ファンタジー
 大学を卒業してサラリーマンとして働いていた田口エイタ。  彼は来る日も来る日も仕事仕事仕事と、社蓄人生真っ只中の自分に辟易していた。  そんな時、不慮の事故に巻き込まれてしまう。  目を覚ますとそこはまったく知らない異世界だった。  転生と同時に手に入れた最強のステータス。雑魚敵を圧倒的力で葬りさるその強力さに感動し、近頃流行の『異世界でスローライフ生活』を送れるものと思っていたエイタ。  しかし、そこには大きな罠が隠されていた。  ステータスは最強だが、HP上限はまさかのたった10。  それなのに、どんな攻撃を受けてもダメージの最低保証は1。  どれだけ最強でも、たった十回殴られただけで死ぬ謎のハードモードな世界であることが発覚する。おまけに、自分の命を狙ってくる少女まで現れて――。  それでも最強ステータスを活かして念願のスローライフ生活を送りたいエイタ。  果たして彼は、右も左もわからない異世界で、夢をかなえることができるのか。  可能な限りシリアスを排除した超コメディ異世界転移生活、はじまります。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

処理中です...