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4章 魔王に付き従う者

32話 恥、生まれる傷

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「……はぁ、最悪だよ。よりにもよってベルに……」

「何じゃ?」

 ベルは不思議そうな顔で俺の顔からゆっくりと視線を下ろしていく。

「――な、な、何なのじゃ! そ、その股間に付いとるグロテスクな物体は!?」

「み、見るなよ!」

 ベルは顔を赤くして目を手で覆い隠した。

 俺も素早く手で股間を隠す。

 さらにこの状況を悪化させるかのようにリーズが俺の部屋を尋ねてきたのだ。

「ねえ、リヒトいる?」

 リーズは目にしてしまったのだ。

 真っ赤な顔をしながら手で目を覆っているベル。

 そして手で下半身を隠す俺の姿を……。

 一瞬でその場の空気が凍りついたかのようだった。

「ねえ、リヒト何してるの?」

 そう俺に尋ねるリーズの顔は鬼の形相でとても恐ろしかった。

「い、いやそ、その……」

「その、何?」

「えっと……寝室で服を着てきます」

「まだ、状況説明してないよね!」

 俺が寝室に行こうとすると、リーズは刀に手をかけた。

「ま、待て! 仕方ないじゃないか! 悪いのは突然入ってきたベルだ。俺じゃない」

「そんなもの見せつけて……自分は悪くないと」

「そ、そうだよ!」

 そんな言い訳で許してくれるはずもなく、このあと長時間説教をされたのだ。

           *

 そして翌日、あの件以降ベルが俺と顔を合わせようとしないのだ。
 話しかければ逃げるし、確かに気まずいのはわかるけど逃げるほどでもないような……。

 ふっふっふ! だけど今日は嫌でも俺と対面することになるのだ。

 それは今日から本格的に軍の編成が行われるからだ。

 俺は急ぎ足で二階にある会議室へと向かった。
 そして扉を開けると広々とした空間の中心には大円形の机、それを囲むような形で席が設けられている。今、席に着いているのはリーズ、そしてなぜか仮面をつけたベル、それに首なし騎士――デュラハンだ。

 もう全員きているみたいだ……ということは俺が最後か。

「みんなすまない。待たせたな」

 俺はみんなに声をかけるが、誰も返答してくれない。それに対して色々と言いたいこともあるが、ひとまず席に着いた。
 席の右隣にはデュラハン、正面には仮面をつけたベル、そして左隣にはリーズという配置になっている。

 デュラハンが手に抱えている顔が俺を凝視してくるが、何か用でもあるのか?

「あのー、俺の顔に何かついてます?」

「あ、あなたがリヒト様ですか? お目に掛かれて光栄です。私は〝デュラハン〟のルルです」

「あ、どうも」

 見た目は分厚い漆黒の鎧を身にまとい、背中には巨大な鎌を背負っている。そして頭と首の繋ぎ目には魔法陣が描かれていた。圧倒的な強者の風格を漂わせているが、内面はものすごくいい子そうだった。

「あ、あのリヒト様!」

「どうした? ルル」

「もしよろしければ……その、私の頭を持っていただけませんか?」

「ああ、別に構わないけど……」

 俺はルルの身体から頭を受け取り、優しく抱きかかえた。
 しかし身体のほうが何やら騒がしい。
 手を上下に振ったり、足をバタバタさせたりと不思議な光景だ。

「ルル、身体が……?」

「す、すみません。リヒト様に頭を持っていただき光栄で!」

「そうか、ならいいんだが」

 ルルのことは心配なさそうだ。

 だが一番の問題は仮面をつけているベルのほうだ。その仮面は年寄のように長い髭を生やし奇妙な顔をしている。

 まさか、そこまでして顔を合わせたくないとは……。

「なあ、ベル。いつまで顔を合わせないつもりだ?」

「リーズよ、そろそろ本題に入るのじゃ」

 ベルは俺の言葉を無視した。
 それに腹を立てた俺は、

「おい! ベル。いい加減にしろよ」

「何じゃ? やかましいのじゃ」

 さすがに我慢の限界だ。

 俺はルルの頭を持ったまま席を立ち、ベルの元へと向かう。ベルの側まできた俺は無理矢理仮面を剥ぎ取った。仮面を取られたベルは少女のように身体をモジモジさせながら顔を赤くした。
 何やら落ち着かない様子だった。

「何だよ。その反応?」

「あ、あんなもの見せられたのじゃ。余も女性じゃ。……恥ずかしくもなるのじゃ」

「じゃあ、今まで避けてたのは……恥ずかしかったからなのか?」

「そうじゃ! 何度も言わせるでない」

「俺が悪かったよ。ベル、ごめん」

 俺は深々と頭を下げ謝罪した。
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