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1話 仮面令嬢
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「クレン君そろそろ朝食にしましょう」
貴族らしい大人三人は横になることができるであろう立派なベッドで横になっているのは、公爵令嬢ユリア・アルバレア。
白銀の髪に目元だけを隠すように作られた仮面。
その姿を見た他の貴族や領民からは仮面令嬢と呼ばれている。
その仮面の下を見たのは隣で寝ている婚約者のクレンだけ。
ユリアは生まれ持って権力という名の力を持ち、金銭面では困ることがない裕福な暮らしをしてきた。が彼は生まれ持った才もなければ特別な力もなにも持たないただの平民。
そんな格差がある二人が婚姻した理由、それはクレンの情熱的な愛の告白だった。
歳の差十歳。
本来なら年が離れ過ぎているとの理由で婚姻までありつけないことがほとんどだ。
しかし二人には邪魔をする者が誰一人としていない。
互いの両親はすでに他界しているからだ。
それに仮面で素顔を隠しているユリアに対して口出しできる者もいなかったのだ。
「早く起きなさい。もう仕方のない子ね」
「うん、でもまだ眠い……」
「そう、なら私がその眠気を吹き飛ばしてあげる」
ユリアはクレンの頬に軽くキスをした。
気づいた彼はすぐさまベッドから起き上がると、顔を真っ赤にして照れくさそうにし、慌てふためいている。
「どう? 目が覚めたかしら?」
「なんでいつも僕をからかって来るんですか!」
「あら、ごめんなさい。でも今日は本当にいい天気ね」
寝室の窓から外を眺めると雲一つない青空に大地を眩しく照らす太陽。
緑で覆われた平原に色とりどりの花。
鳥や虫のさえずり。
そんな自然豊かな辺境の地でいつも朝を迎えるのだ。
「は、話を反らした……そ、その――」
「なにかしら?」
クレンがなにを言わんとしているかは、おおよその予想はついている。
恐らくこの寝間着。
さっきまで寝ていたのもあってか肩に掛かっていたヒモは垂れ下がり、胸元は開けている状態。
それは思春期の男の子にしたら少し刺激が強かったかもしれない。
けど、寝間着はこういう物だから仕方がないのだ。
「早く着替えてください!」
「はいはい、わかったわよ」
彼がそう言うのなら仕方がないと思い、ベッド横に置かれている薄い青色のドレスに手を伸ばした。
寝間着を脱ぎ、下着姿になると彼は手で目を覆い隠す。
「だからなんで目の前で着替えるんですか!?」
「もともとここは私の部屋。その私がここで着替えてなにが悪いの?」
「……べ、別に悪いとは言ってませんよ」
「ふふ、やっぱりクレン君は可愛いわね」
「むっ! 男としては可愛いってあまり嬉しくないです。むしろかっこいいとか、たくましいとか言われたいです」
「ふーん、でもクレン君はすでにかっこいいじゃない。こんなにも醜い私に愛の告白をしてくれたんだもの」
ユリアは目元の仮面に触れながらそう告げた。
以前まで心の中では目に火傷跡が残る自分を否定し続けてきた。触れる度に思い起こされるあの頃の記憶。
燃え上がる屋敷の中で父と母が泣き叫ぶ声。
必死にユリアを逃がそうと身体に火傷を負いながらも阻んでいた障害物を押し退ける姿。なんとか屋敷を抜け出したものの、そこには父と母の姿はなかった。
残ったのは二人から誕生日にプレゼントされた人形と目元に負った大きな火傷だけ。
そこから一人、幼いながらも国に貢献し続けてきたユリア。
その才は父譲りだとよく言われたものだ。
だが、一人でなにもかもこなしていると当然それが当たり前になってくる。屋敷に数十人規模の侍女や料理長がいるものの、ユリアは決してどんな細かな仕事も任せようとはしなかった。
そんなことをしていると、自ずと皆は辞めていき、結局、屋敷に残ったのはユリアただ一人だけだけだった。
貴族らしい大人三人は横になることができるであろう立派なベッドで横になっているのは、公爵令嬢ユリア・アルバレア。
白銀の髪に目元だけを隠すように作られた仮面。
その姿を見た他の貴族や領民からは仮面令嬢と呼ばれている。
その仮面の下を見たのは隣で寝ている婚約者のクレンだけ。
ユリアは生まれ持って権力という名の力を持ち、金銭面では困ることがない裕福な暮らしをしてきた。が彼は生まれ持った才もなければ特別な力もなにも持たないただの平民。
そんな格差がある二人が婚姻した理由、それはクレンの情熱的な愛の告白だった。
歳の差十歳。
本来なら年が離れ過ぎているとの理由で婚姻までありつけないことがほとんどだ。
しかし二人には邪魔をする者が誰一人としていない。
互いの両親はすでに他界しているからだ。
それに仮面で素顔を隠しているユリアに対して口出しできる者もいなかったのだ。
「早く起きなさい。もう仕方のない子ね」
「うん、でもまだ眠い……」
「そう、なら私がその眠気を吹き飛ばしてあげる」
ユリアはクレンの頬に軽くキスをした。
気づいた彼はすぐさまベッドから起き上がると、顔を真っ赤にして照れくさそうにし、慌てふためいている。
「どう? 目が覚めたかしら?」
「なんでいつも僕をからかって来るんですか!」
「あら、ごめんなさい。でも今日は本当にいい天気ね」
寝室の窓から外を眺めると雲一つない青空に大地を眩しく照らす太陽。
緑で覆われた平原に色とりどりの花。
鳥や虫のさえずり。
そんな自然豊かな辺境の地でいつも朝を迎えるのだ。
「は、話を反らした……そ、その――」
「なにかしら?」
クレンがなにを言わんとしているかは、おおよその予想はついている。
恐らくこの寝間着。
さっきまで寝ていたのもあってか肩に掛かっていたヒモは垂れ下がり、胸元は開けている状態。
それは思春期の男の子にしたら少し刺激が強かったかもしれない。
けど、寝間着はこういう物だから仕方がないのだ。
「早く着替えてください!」
「はいはい、わかったわよ」
彼がそう言うのなら仕方がないと思い、ベッド横に置かれている薄い青色のドレスに手を伸ばした。
寝間着を脱ぎ、下着姿になると彼は手で目を覆い隠す。
「だからなんで目の前で着替えるんですか!?」
「もともとここは私の部屋。その私がここで着替えてなにが悪いの?」
「……べ、別に悪いとは言ってませんよ」
「ふふ、やっぱりクレン君は可愛いわね」
「むっ! 男としては可愛いってあまり嬉しくないです。むしろかっこいいとか、たくましいとか言われたいです」
「ふーん、でもクレン君はすでにかっこいいじゃない。こんなにも醜い私に愛の告白をしてくれたんだもの」
ユリアは目元の仮面に触れながらそう告げた。
以前まで心の中では目に火傷跡が残る自分を否定し続けてきた。触れる度に思い起こされるあの頃の記憶。
燃え上がる屋敷の中で父と母が泣き叫ぶ声。
必死にユリアを逃がそうと身体に火傷を負いながらも阻んでいた障害物を押し退ける姿。なんとか屋敷を抜け出したものの、そこには父と母の姿はなかった。
残ったのは二人から誕生日にプレゼントされた人形と目元に負った大きな火傷だけ。
そこから一人、幼いながらも国に貢献し続けてきたユリア。
その才は父譲りだとよく言われたものだ。
だが、一人でなにもかもこなしていると当然それが当たり前になってくる。屋敷に数十人規模の侍女や料理長がいるものの、ユリアは決してどんな細かな仕事も任せようとはしなかった。
そんなことをしていると、自ずと皆は辞めていき、結局、屋敷に残ったのはユリアただ一人だけだけだった。
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