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後編

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 そして学校の正門を過ぎた辺りである男子生徒に声をかけられた。

 その正体は、烏丸君だった。

「おっはよう! 二人とも」

「おはよう」

 私はいつも通りのテンションで挨拶を返した。

「おはようございます。烏丸君」

 しかし美姫ちゃんは違った。

 何かいつもと少し雰囲気が違う。頬を赤く染め、烏丸君と目を合わせようとしない。

 そんな美姫ちゃんの対応を不思議に思ったのか、烏丸君は私の耳元で、

「なぁ、伊藤さんはどうしたんだ?」

「私が知る訳ないでしょ。まさか……あなた――」

「い、いや俺は何もやましいことはしてないからな」

 烏丸君はそう言いながら後ずさりをする。

「じゃあ、二人とも俺先に教室に行ってるからな」

 それだけを言い残し、烏丸君は校舎内に姿を消した。

 私はさっきの美姫ちゃんの態度に疑問を持った。

 何があったかは知らないけど、私で解決できることなら放課後までには解決してしまいたい。

 そうじゃないと間違いなく告白計画に支障をきたす。

「――っで、美姫ちゃん。今の烏丸君への態度どうしたの? 何かされたの?」

「ううん、別に何かされたわけじゃないけど…………少し恥ずかしくて」

「そ、そうなんだ。ふーん」

 何も言えない。特に大した理由もなければ、烏丸君が美姫ちゃんに何かしたわけでもない。

 これは、後で烏丸君に伝えて置かないとなぁ。気まずそうにしてたし。

 そして私達二人も教室に向かった。

 予鈴がなり、授業が始まる。

 ここまでは、朝のことがなければいつも通り。

 授業を受けていると時間が過ぎるのも早く感じる。

 女神が人間の授業を受けるなんて、本来ならありえない話だけど、人間について知識を得られるのなら損はない。

 
 そして、昼休憩。

 烏丸君に校舎の屋上へ呼び出されたが、朝の件だということは明きらかだった。

 そこで、烏丸君の話を聞いていると、やっぱり朝の件だった。

 烏丸君が心配していたのは、自分は嫌われているのでは、という心配だったようだ。

 だけど、その心配は無意味なことだ。

 だって、美姫ちゃんのほうは、烏丸君のことが好きで照れているだけの話だからだ。

 そこで、私は烏丸君にはっきりと伝えた。「あなたのことが気になっているからこそ、あのような態度を取ってしまう」のだと。

 そもそも女性なんてその人に興味がなければ、話かけるどころか挨拶も交わそうとしない。

 男性はそういった部分は本当に鈍感だ。

 まあ、でもすぐに気づけるなら、恋愛をしていてドキドキすることもないだろうし、異性が近くにいるからって意識することもないはず。

 そういった部分で人間という生き物は非常に興味深い。

 自らの感情だけで動く者が大半だからだ。


 そして、放課後まではあっという間だった。

 そろそろ待ちに待った時間。

 美姫ちゃんは校舎裏に待機させてある。

 私は体育倉庫でとある男子に告白する、という設定にしてある。

 美姫ちゃんはどうしても、私の告白の結果が知りたいと前々から言っていた。だから校舎裏で待機しておくように頼んだのだ。

 後は烏丸君がくるのを待つだけ。

 わくわくしながら、校舎裏の茂みに身を隠す私。

 そして姿を現したのは、烏丸君。

 どうやらかなり緊張しているみたいだ。

 一つ一つの身体の動きが滑らかではなく、まるで機械のようにカクカクしている。

「こ、これはまずいかも」

 私は茂みの中から一人でそうぼやいていた。

「あ、ああ、あの伊藤さん、いや、伊藤美姫さん! お、俺と付き合ってください!」

 烏丸君は美姫ちゃんに片手を差出し、頭を下げた。

 そんな烏丸君の様子を見て、美姫ちゃんは口に手を当て必死に涙を堪えているように見える。

 美姫ちゃんがどのような感情なのかはわからないが、やがて目元からは涙が溢れ、地面へと一滴、また一滴と滴り落ちる。

 これは、成功なのかな? いや、まだ油断は禁物。美姫ちゃんの返答がまだだ。

 その時、美姫ちゃんが口を開いた。

「ぐすっ、は、はい。お願いします」

 美姫ちゃんは、涙を流し、微笑みながら烏丸君の告白を了承したのだ。

 この返答で私の行動してきたことすべて意味があったと感じた。

 一時はどうなるかと不安にもなったが、成功してなにより。

 さて、私もそろそろ自分の居場所へと帰ろうかな。

 あ、そうだ。私は何の女神様だって気になるでしょ? でも、この日記を書いているということ……それは、恋の女神という答えしかないはずよ。

 そう。私の名前は、恋の女神クピドよ。

 以後、お見知り置きを。
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