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断章 悪魔の誕生

3話 光と闇の交錯

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 崖から落ちて数時間後。
 
 リリーは目を覚ました。
 落下の影響か身体の節々が痛い。幸い着地直前で風魔法を使えたおかげで即死には至らなかったが、背中にはズキズキとした痛みが走る。

 ポツポツと雨が水溜りに落ちる音。

 痛みと出血のせいでまともに歩けないまま、リリーはその場でじっとしていることしかできなかった。腰に下げた剣を地面に置くと「はぁ……」と息を吐いた。
 着ている鎧はもちろん下着も濡れ寒さが酷い。

 このままではいずれ死に至る。

 リリーは心のなかでそう覚悟していた。
 なんてつまらなくも、惨めな人生だったのだろう。幼少期からずっと親の言いなり、この世界に飛ばされ自分が望んだ通りに生きるようとしても、帝国とやらに勇者として行動制限され何もできない。
 正義を果たそうとしても、この結果だ。

 悔しい、悔しい、悔しい。
 
 苦しい苦しい苦しい苦しい。

「お主、我もとへ」

 近くから女性の声が聞こえた。
 周囲を確認するも、人の姿はない。
 唯一あるのは無惨に放置された死体だけ。

「こっちじゃ……頼む、我の力を」

 リリーは剣を支えにして立ち上がる。
 痛む背中に気を遣いながら、声のする方向に歩き出した。一歩、また一歩とゆっくりと進む。
 
 そして辿り着いた先には、激しく出血した女性の姿。マントを纏い、薄気味悪い仮面を着けている。

「お主が……勇者かの?」
「ええ、そうです」
「何とも律儀な……人族にもお主のような者が、うぅ……まだ、いたのじゃな」
「私は別に律儀などでは。自分が思ったこと一つ果たせない。そんな情けない勇者の一人です」
「フハハッ……だったら、お主に力を託せば……我の悲願を果たしてくれかの? 果たしてくれた先はその力をお主の思うように使うがよい」
「まさか……あなたは魔王、なのですか?」

 リリーは呆気を取られた。
 なぜなら魔王はすでに絶命しているとばかり思っていたからだ。

「……そうじゃ。我の名はリリス」
 
 リリスと名乗る魔王はリリーを信頼したのか、仮面を取って姿を見せた。

 やがて雨は止み、月が見え始めた。
 その光がリリー達二人を照らす。

 リリスの素顔は同性のリリーですら驚くほどの絶世の美女だった。クリクリとした青い瞳はまるで人形のようで、光に照らされた白銀の髪は美しくなびく。

「あなた女性だったのですか?」
「うむ、だからこそこの仮面を着け……ごほごほッ、この世界はまだまだ差別が多いのじゃ。我はそんな世界を変えようと……魔族と人族が共存できる世界を創造しようと」

 そんな言葉にリリーは心打たれた。
 
「あなたの考えは理解しました。でしたら私に力を授けてください。何年、何十年、何百年掛かろうともあなたの悲願を必ず」
「では、頼むのじゃ」

 そしてリリーと魔王リリスとの契約は成立。

 世界はさらなる闇に覆われることになったのだ。
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