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無能貴族編

30話 俺、実の姉を探して

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 この場を逃げようと、無駄な足掻きをしていると、母さんが絶妙なタイミングで部屋に入ってきた。
  
「ネオちゃん夕食の準備が――あら、ごめんなさい」

 驚いた様子の母さんはさらにもう一言。

「そんなに密着するなんて本当にラブラブなのね。わたくしも主人とそういう時期があったわ」
「きゃあああ! ネオ君とお姉ちゃんがラブラブだなんて。もうこれは親公認ね」
「母さん夕食だよな。一緒に行こ」
「え、でもリリスさんが……」
「いいのいいの」

 で、俺は姉ちゃんを置いて食堂に向かった。
 中に入ると豪勢な食事、とまでは言わないが、それなりの食事が用意されていた。貴族にしては少し安けない気もする。
 そして席座ると、あとからきた姉ちゃんも俺の隣の席に座った。だが、どうも納得のいかない様子でじーっと皿に盛られた料理を見つめている。

「リリスさんお気に召しませないかしら?」

 母さんがそう声をかけると、姉ちゃんはいつものように明るい顔で「いえいえ」その一言だけを返す。間違いない、自分で作った方がよかった、とでも思っているのだろう。
 
 まあ、そんなわけで食事が始まったわけだが、どうも味に奥深さがない。

 スープなのに塩の味しかしないのだ。

 それにパンはしっとりと柔らかくっていうのが当たり前だったが、湿気でパッサパサになってるし、表面は硬くなっている。

 唯一、マシなのはメインディッシュの肉料理。肉の旨味は味わえるため上手く誤魔化せてはいる。噛むたびに肉汁が溢れてくるのも好評価だ。
 しかし、そんな好評価すら無碍にするこの薄味。
 ほんと高そうな割にたいした料理が出てこない。
 これなら姉ちゃんの安い料理食ってる方が幾分か美味いぞ。

「ネオ君、あとで作ってあげるからね」

 そう俺の耳元で囁く姉ちゃん。
 心を読まれたのか?
 ああ、それともたまたま姉ちゃんも同じこと思ってるパターンか。

「で、ネオ今晩は泊まっていくのか?」

 父さんにそう聞かれたけど、それはちょっと、というのが俺の本音だ。本来の家族だからとはいえ、迷惑をかけるのは何か違う気がするからだ。

 それに俺には大切な用事ができた。
 実姉のセレシアを探すことだ。

 捨てられた時、優しい言葉も本気で怒ってくれたのもセレシアだったからだ。安全な大樹の元に敢えて置き去りにしたのも今では感謝している。
 だってそこらの森の中に放置でもされていたら、魔物や獣の餌になっていたのは必然だったからだ。

「いや、もう夕食を済ましたらそのまま隣国――海洋都市アトランティアに向かおうと思う」
「それはセレシアを探しに、か?」 
「もちろんだ。言ったって俺の実姉だからな」

 少し心配そうな表情を浮かべる父さんと母さん。
 けど、一度決めたからには俺は必ず実行に移す。
 
「リリスさんどうか息子を頼みます」
「はい、任せてください」
「ユリアナ様もどうか息子のことを」
「いえいえ、私がいつも面倒を見ていただいてる側ですので。ですが、その頼み引き受けました」
「お二方感謝いたします。気をつけるのだぞネオ」

 夕食が済み、一度部屋に戻り俺は支度を整えた。
 母さんからもらった魔法袋マジックバック――所謂、ゲームでいうアイテムボックスみたいなものだ。こんな小袋だが物は大量に保管できる優れもの。

 海洋都市アトランティアまでは少し距離がある。
 この屋敷からおよそ馬車で数日はかかるそうだ。
 なので、一応食料と水を魔法袋マジックバックに保存して準備は完了っと。

 で、姉ちゃんとユリアナを連れ屋敷を出ると、父さんと母さんが見送りにきてくれた。
 息子を心配する気持ちはわかるが、二人にそんな顔されたらいつまで経っても俺は出発できないじゃないか。

「父さん、母さんありがとう」
「ネオ気をつけるのだぞ。途中、何か情報が入るかもしれん。連絡はどこにすればいい?」
「だったらここに」

 俺は姉ちゃんが事前に用意していた学園長宛の封書を何枚か渡した。

「これは……?」
「今、ネオ君が通ってる王立ブロッサム学園の学園長宛の封書です。それに直接用件を書き込んでもらえたら、そのまま内容だけが学園長側に届くようになっています」
「ほう、そんな便利な物が」
「はい、ですのでネオ君のことはお任せを」
「すまぬ、頼むぞ」
「よろしくお願いしますねリリスさん。ユリアナ様も」

 俺たちは二人に背を向け、海洋都市アトランティアに向けて歩き出した。
 だんだんと遠くなっていく屋敷と父さん母さんの姿。
 でも、本当に父さんと母さんに会ってよかった。
 それに姉ちゃんも許してもらえたし、これで一安心だ。

 あとは実姉のセレシアだけだ。
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