漂流者

摩周百合子

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5、朝帰りと死にそうな一日

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目を開けると、見知らぬ天井があり、私の首の下には男の人の腕がある。お腹の上には更なる男の人の腕と、太ももの上には重い足が載っており、ゆっくり横を向くと、松坂さんの顔があり、彼はパジャマを着て寝ている様子。私は昨日の服のままで寝ている。窓からはまだ薄暗い空が見える。
そっと彼の腕から抜け出し、時計を見ると午前5時。
まずい。これはまずい。今日は私は仕事だ。まずい。とりあえず、乱れた服や髪を整え、バッグを持って外に出る。
まずい、ここがどこだかわからない。道を聞こうにも早朝の路地は人通りが全くなく、一瞬途方に暮れる。昨夜の朧げな記憶では、確か右に曲がって玄関に入ったような気がする。取りあえず左に行ってみよう。しばらく行くと、駅が見えてきた。助かった。これで帰れる。慌てて電車に乗って。松坂さんにメールする。

 『おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。今、無事に電車に乗りました。松坂さんも今日は仕事ですよね。お互い、今日も頑張りましょう。』

 送信すると、昨夜の疲れと二日酔いがやってくる。胃がムカムカして頭が痛い。

 「何で昨日はあんなに呑んでしまったのだろう。大失敗だ。私、酔った勢いで松坂さんにキスしたような気がする。きっと気のせいだ。うん。きっとそうだ。うん。うん。」

ぶつぶつ独り言を言いながら歩いていると自宅に着いた。
 玄関を開けると、娘はまだ寝ているようで家の中は静かだ。取りあえず水を飲んで、シャワーを浴びて少し横になる。頭が痛い。だからと言って仕事を休めるはずもなく、8時には起きて支度をして玄関に向かう。電車の中でメールが来た。

 『えりちゃんおはよう。僕のことは昨夜のように浩二君と呼んでくれて構わないよ。昨日は楽しかった。二日酔いは大丈夫?起こしてくれれば、駅まで送って行ったのに。おはようのキスができなかったのが残念だった。今度いつ呑みに行ける?』

ちょっと待て。ちょっと待て。よく考えよう。何か私は大事なことを思い出せないでいるような気がする。
えりちゃん?
 昨夜のように浩二君?
おはようのキス?
 私は昨日何をした?
このメールにどう返事をしろと?
 固まっているうちに駅に着いた。
いつものように出勤し、死にそうになりながらいつもの仕事を熟した。
 這うように途中のスーパーでお刺身を買って自宅に帰り、夕食を用意する。
 這うように自分の部屋に行く。
 横になったところでメールの返事を考える。冷静に考えるが、まったく文章が浮かばない。そもそも、文頭に浩二君なんて打てない。
 今は素面なのだ。
そうだ、私は素面なのだ。
 昨日とは違う人間だ。
そこから始めれば返事が打てる。

 『こんばんは。実は、私昨日のことは全く覚えておりません。相当酔っていたようで。お見苦しいところをお見せして本当に申し訳ないです。昨日あったことは、できましたら全て忘れて下さるとありがたいです。でないと気まずくてもうお逢いすることはできません。本当にこの年にしてあんな醜態をお見せしてしまい。恥ずかしくて、気まずくて、取りあえず今日は休もうと思います。おやすみなさい。』
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