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1巻

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 本当だ。下心で誘ったのなら、こんなに気は遣わないし、緊張だってしない。
 つむぎという女は、存在は、凪にとってそれだけ特別なのだ。
 つむぎにだけは嫌われたくない。つむぎにだけは……
 信号で車を停めた凪は、彼女に顔を向けた。

「今も昔も、俺はおまえがいっちゃん好きや」

 ついに言ったひと言に、つむぎがにぱっと輝くような笑みを向けてくるから、凪は思わず彼女の後頭部を掴んで抱き寄せ、そのぽてっとした可愛い唇に噛み付いた。
 柔らかな下唇をねぶって、口内に舌をじ込む。小さくて熱い舌は、軽く触れ合うだけでたましいが震えるようだ。
 自分の伴侶はやっぱりこの子だと、すでにわかりきっていた答えが出る。
 他の誰かじゃもう満たされない。つむぎじゃないと意味がない。
 舌の腹をすり合わせ、絡めて吸いながら、凪はゆっくりとつむぎの頬を撫でた。
 くちゅっと唇が離れ、ほうと息を吐く。

「……初めてキスした……」

 ぽろっとこぼれてきたつむぎのつぶやきに、思わず目をみはった。

(初めて? 今、初めて言うたか!?)

 素で動揺した。
 あんなに急に離れ離れになることがわかっていたら、キスのひとつやふたつしとくんだったと思ったのも一度や二度じゃなかったのに。初めて? キスが初めてなら他も全部? 本当に?
 この十一年、彼女に男がいなかったことを知って嬉しいはずなのに、あの頃とは違って汚れた自分に気が引ける。
 信号が青になるのと同時に、凪は車を発進させた。

「マジか。俺でいいんか?」
「なんで?」

 きょとんとした顔も可愛い。なんの疑問も持っていなさそうなつむぎに、凪は自分の首元に手をやって、ワイシャツのえりを軽く引っ張ってみせた。

「なんでって……俺、ほら……」

 首元に覗くのは、和彫りの昇り龍の片鱗へんりん。親父の組を継ぐと決めたとき、首から左胸、そして左腕にかけて昇り龍を彫ったのだ。それは、裏の世界に一生を置くという凪の覚悟のあらわれ。
 凪の父親がヤクザ者だということはつむぎも知っているはずだが、今や凪もそうなのだ。再会したときに気付いているだろうとは思うが、しっかり者のくせに、たまに抜けているのがつむぎだ。
 もしも気付いていないのなら、早いうちに教えてやらなくてはならない。
 彼女は……普通の女だから。今ならまだ、引き返せる。まだ――

「タトゥー入れたんだ? 今、多いよね~。うちのおじいちゃんも入ってるよ。結構立派なやつ」

 返ってきたのは、そんなあっけらかんとした言葉。ドン引きするわけでもなく、まるでファッション感覚で彼女は言うのだ。ワンポイントタトゥーなんかじゃなく、結構ガッツリと入っているのだが。いや、本題はそこじゃない。

「いやいや、俺、ヤクザやってんねんけど……え、もしかして全然気にしない感じ?」
「あはは。なんで今頃そんなの気にするの? 凪くん家がヤクザなんて子供の頃から知ってるじゃん。気にするんだったら、最初から気にしてるよ」

 そうか。この子はそう言ってくれるのか。彼女は、本当に昔から変わっていないのだ。
 家も、生き方も、気持ちも、凪の全部を受け入れてくれる存在――

(やっぱ、こいつしかおらん!)
「つむぎ!」

 運転中にもかかわらず、凪はつむぎを抱き締めると、その唇に二度目のキスをした。

「絶対大事にする!」


         ◆     ◇     ◆


『絶対大事にする!』――その言葉通り、凪はつむぎを大事にしてくれる。本当に、これ以上ないくらいに大事に。
 忙しいだろうに、父親が退院してからもほぼ毎日病院まで迎えに来てくれるというマメさだ。デートも多い。離れ離れだった時間を埋めるように、思い出を確かめるように、凪はつむぎと一緒にいたがる。それがちょっと可愛い。
 それに、脱がされるまでは早かったが、実際はそこから半年も時間をかけるのだから、彼の気の長さはつむぎの想像以上だ。
 この人はセックス抜きでも、つむぎを想ってくれている。
 大事にされている実感と、彼のくれる気持ちを同時に感じて、満たされるものがあるのも確か。でもそんなことをしている間に、季節がふたつも過ぎてしまった。もう十二月だ。
 シャワーから上がったつむぎは、キャミソールとショーツ姿で髪にドライヤーを当てながらベッドに腰掛けた。
 湯上がりの身体が火照ほてっている。凪もまだ暑いのか、上半身裸で水を飲みながらやってきて、つむぎの隣に座った。
 つむぎが独り暮らしをしているのは、こぢんまりとした1DK。キッチンはお粗末だが、洋室部分は九畳と広めだ。つむぎにはちょうどいいこの部屋も、体格のいい凪がくつろぐには狭い。それでも彼は毎日のようにこの部屋に来てくれる。一応、彼にも独り暮らし用のマンションがあるにはあるが、今やそちらは着替えを取りに行くくらいで、最低限の出入りだ。
 ヤクザといえば、酒と博打ばくちと女。なのに凪は、飲む打つ買う、どれもやらない。
「酒を飲めば運転できねぇ」、「博打ばくちは胴元をやるからもうかるんであって、自分が賭けちゃ意味がねぇ」、「女はおまえがいい」と、こんな具合だ。

「あのね、明後日あさって、シフト代わってほしいって言われて。早番が遅番になるの」
「ほうか。ええで、俺迎え行くし。遅番やったら終わりが朝九時やんな?」
「うん」
「お疲れさん。よう働くなぁ。正直、患者がうらやましいわ。俺もつむぎに世話されたい」

 突然なにを言い出すのかと、思わず笑ってしまった。これ以上ないくらいの健康体のくせに。

「凪くん、病院ごっこしたいん?」
「めっちゃしたい」

 真顔で頷いた凪は、コップを座卓に置いて、つむぎを軽々と抱え上げ自分の腰をまたがせた。
 ドライヤーを止めて首を傾げると、凪が緩く開いた胸元に顔をうずめてくる。
 ぐりぐりと額を押し当てながら顔を左右に揺らした彼は、次の瞬間には首筋に唇を当ててきた。
 つむぎが好んで使うボディソープとシャンプーの混じった甘い香り。それを凪がまとうとつやっぽく感じるから不思議だ。

「つむぎ……好きや」

 微かな切なさがにじむ声に、きゅっと胸が締め付けられる。
 受け入れたい。誰よりも大好きなこの人だから、身体の奥深くで繋がって、溶け合いたい。その気持ちは本物なのに……

(なんでえっちできないの……?)

 もしかして……いや、もしかしなくても、身体の相性が悪いんじゃないだろうか? こんなの、付き合っていく上で致命的な――

(そ、そんなはず、ないし……うちら相性ぴったりだもんっ! 昔からずっと仲良しだもんっ!)

 ――とは言っても、裸の触れ合いは濃密かもしれないが、肝心なことはできていないのだから、男の凪には物足りないはずだ。それに、これだけいい男だ。女がほっとくはずがない。
 欲求不満の凪を、他の女が誘ったら……それが発散のためだけだったとしても、凪が一瞬でも他の女を見るなんてつむぎは絶対に許せない!
 この人を繋ぎとめたい。どうあっても離したくない。
 なら、浮気なんかしないようにつむぎが彼を満足させるべきだ。

「うちも好き。凪くんが大好き」

 ちゅっと凪のまぶたに口付ける。彼は嬉しそうに笑って、つむぎをベッドに押し倒した。

「つむちゃん、もうどこも行ったらあかんで? ずっと俺の側おりよ……ずっとやで?」

 凪が言わんとしていることはわかる。急な転校はつむぎ自身もショックだったが、凪にとっても相当なショックだったのだと、付き合ってから聞いた。それだけ、あの頃から想っていてくれたことが嬉しい。

「うん……どこも行かない」

 凪の背中に両手を回しながら、つむぎは柔らかく目を閉じた。

(はぁ……なんとかしたいなぁ……)

 セックスは言わずもがな。そしてもうひとつ、つむぎには悩みがあった。
 実は、凪にまだ言っていないことがあるのだ。本当は早いところ言ったほうがいいのだろうが、どうにも躊躇ためらってしまって言えない。
 彼はそれを聞いたときなんと言うだろう? 正直、反応はふたつしかないはずだ。
 ――つむぎから離れていくか、そうでないか。
 そのとき、身体を繋げていたなら、つむぎから離れることを躊躇ためらってはくれないだろうか……
 そんな打算的なことを考えてしまうくらい、凪の反応に臆病おくびょうになっている自分がいる。

「凪くん……」

 すりっと凪の胸に頬ずりする。

「ん?」

 凪の声に顔を少し上げ、「好き」とひと言つぶやいて、また彼に抱き付いた。
 彼を離したくなかった。


         ◆     ◇     ◆


 先輩看護師とシフトの交代をした日の休憩時間。
 つむぎは休憩室のテーブルの上に置いてあったおまんじゅうには目もくれず、ソファに座ってスマートフォンにポチポチと文字を入力していた。

(えっと、『えっちで彼のが大きすぎて入りません。なにかいい対策はないでしょうか?』――これで送信っと)

 誰にも言えない質問を送るのは、みんなの味方、ヤッホー知恵袋。
 悩んでいるだけじゃ駄目だ。行動あるのみ! ここはひとつネットで幅広く皆様のお知恵を拝借はいしゃくしようじゃないか。うまくいけば、有用なアドバイスが得られるかもしれない。と、本人は至って大真面目である。
 送った質問に「わたしは処女です」という、超特記事項が抜けていることには気付かず、つむぎはひと仕事終えたつもりで息をついた。

(……どう考えても大きすぎだよ……)

 裸でじゃれ合っているときに目にした凪の物を思い出す。
 看護師という職業柄、尿道カテーテルや清拭せいしきの際に他の男性の物を目にする機会はある。だが、尿道カテーテルは勃起が収まってからするし、陰部清拭の必要がある患者さんで若い人は少ない。両手が動かせるのなら、自分で拭いてもらう。患者さんが自分でできない場合は看護師ふたり組で行い、寝間着を脱がせ、温タオルを作って、拭いて、保湿クリームを塗ってと時間内にやるのだ。それも何人も。
 正直言って忙しい。手早くするのが患者さんのためでもある。皮膚に炎症や異変がないかを見ることはあっても、勃起なんて正常な反応は基本スルーなのだ。
 だから勃起時の患者さんの物をじっくりと観察することはないのだが、目に入るものは目に入る。そうして目にしてきた物と比べても、確実に凪の物は大きい。通常形態でも大きいのに、臨戦態勢になるとそれが増す。アレが自分の身体の中に入るとはとても思えない。

(でも入るはずなんだよねぇ……)

 人体の不思議。つむぎが女である以上、そういう身体の作りになっている。ただまぁ、最初が凪の物なら、人一倍痛いかもしれないが。
 一時間半の深夜休憩を終えたつむぎは、ナースステーションに顔を出してから、巡回に向かった。
 今夜はいつもより落ち着いているようだ。が、これを口にしてはいけないが暗黙のルール。この言葉を口にしたが最後、なぜか緊急入院や容態の急変が相次いで起こるという不幸に見舞われる。看護師あるあるの鉄板ネタだ。
 運よく急変の患者もなく朝六時になると、モーニングケアの時間。
 眠気のピークを迎えながらも、経管栄養投与けいかんえいようとうよ、検温、血糖測定、口腔こうくうケアを行って、七時には朝食の配膳、配薬をする。カルテの記載をして、日勤への引き継ぎが終わったら、朝九時にようやく退勤だ。
 夜間出入り口のドアの隙間から、無情な朝日が差し込んでいる。寒いが解放感がはんぱない。夜勤明けは休みを二日連続で取ることができるから、凪とラブラブして過ごそう。

(凪くん、もう来てるかな?)

 足取りも軽く、外へ向かおうとすると、後ろから声をかけられた。

「黒田さん、今終わり?」

 振り返ると、当直だった男性医師が小走りで近付いてくる。
 彼は同い年の救急外来の研修医で、つむぎがこの病院に入って間もない頃から、気を遣って時々話しかけてくれるのだ。救急外来に入ってきた凪の父親を最初に診たのもこの医師だ。医師の当直明けは八時のはずだが、残業していたのだろう。

「お疲れ様です。はい、今日は上がりです。先生もですか?」

 会釈えしゃくをしながら答えると、医師は伸びをしながら頷いた。

「うん。病棟に回した患者さんでちょっと気になる人がいたから確認してて」

 つむぎがもう一度、「お疲れ様です」と頭を下げれば、彼は照れくさそうに笑って夜間入り口のドアを開けてくれた。外に出るとサーッと風が吹き込んできて、つむぎはコートのえりを掻き合わせた。

「そこまで一緒に帰ってええ?」

 彼は車通勤だったはずだから駐車場までだろう。勝手にそう解釈して「もちろんです」と頷くと、医師は「知ってる?」と話を振ってきた。

「なんか最近、うちの病院の周りにガラの悪い連中がうろついてるらしいよ。半年くらい前に、暴力団関係者が入院してきたせいかな? もうとっくに退院してるのに……。これだからいやなんだ、暴力団関係者って。黒田さんも気を付けて」
「っ!」

 心当たりがありすぎて、思わずドキッとした。ちょっぴり視線が泳いでしまう。

(え、それって、もしかして、もしかしなくても凪くんのこと……?)

 半年前に入院してきた暴力団関係者が、凪の父親なのは言わずもがな。そして、凪の父親が退院しても、凪はつむぎを送迎するために病院まで来てくれていた。凪以外の暴力団関係者は見たことがないので、必然的に彼を指していることになってしまう。
 迎えに来てくれるときはスーツが多い凪ではあるが、極稀ごくまれにゆるっとしたシャツで迎えに来てくれることがある。もしかするとそのとき、彼の刺青いれずみが見えてしまった可能性はあった。長袖でも首の刺青いれずみは見えることがあるから。あの体格で刺青いれずみありとなれば、確かに筋者すじもんにしか見えないだろう。

「はは……そうなんですねぇ」
「駅まで送ろうか? 俺、車だし――」
「つむー」

 声のしたほうに目をやると、凪が全開にした車の運転席の窓から手を出していた。今日もスーツだ。ネクタイはなかったが。

「あ、先生。迎えが来たので。失礼します」
「え? あ、黒田さん!?」

 医師がなにか言おうとするのも聞かずに凪の車へと走り寄ると、サッと助手席に乗り込んだ。

「ただいま!」
「おー。お疲れさん」

 ぽんぽんと凪が頭を撫でてくれる。凪は今日も優しい。
 彼は確かにヤクザだけれど、ただこうしてつむぎを迎えに来てくれるだけだ。暴れたり、人に迷惑をかけることをしたりしているわけじゃない。病院に実害はなにもないはず……
 つむぎが微笑むと、彼はクイッと親指で窓の外を指差した。

「なぁ、あれ誰?」
「ん? ああ。うちの病院の先生だよ。救急外来担当なんだ。凪くんのお父さんを最初に診てくれた先生もあの人だよ」

 入院になってからは、入院治療担当医が診療を引き継ぐから、凪はあの研修医に会ったことはないかもしれないが。

「ふーん?」

 凪は研修医のほうをチラリと見やると、突然、つむぎのあごを掴んでカプッと噛み付くように口付けてきた。
 口内に舌を差し入れ、めるように舌をすり合わせてからしっかりと吸い上げるキスに、身体がじわっと熱くなって息が上がる。
 離れようとしても離してもらえず、逆により深く舌を差し込まれてしまう。

「んっ、んんっ……ん――ぷは――――もう……びっくりしたじゃない……」

 人に見られたかもしれないという以前に、凪のキスは執拗しつようなのに甘くってドキドキするからいけない。火照ほてった顔を手うちわであおぎながら凪をにらむと、彼はニヤリと意地悪そうに笑った。

「んー。ちょっと牽制けんせいしとこーと思って。――つむぎは俺のやし」
「――!?」

 牽制けんせい? まさか、あの医師に? つむぎが盗られると思って!?
 気が付いたつむぎが「えっ」と驚きの声を上げると、凪はプイッと顔を逸らしてハンドルを握った。



 マンションに帰ってシャワーを浴びて出てくると、キッチンでフライパンを片手に凪が振り返った。

「飯、もうできるからな」
「わぁ~ありがとう! あ、チャーハンだ。凪くんのチャーハン大好き!」

 もこもこの部屋着を着てから凪の大きな背中に飛び付く。
 意外なことに凪は時々料理を作ってくれる。レパートリーは多くないし、大抵一品料理だけど、繊細な味付けでお店の味がする。なんでも、組関係の知り合いに教えてもらったレシピらしい。趣味というわけではないらしいが、進んでやってくれるところを見るに嫌いではないらしい。
 凪はちゃぶ台の上にチャーハンを置いて床に座ると、自身の太腿をペシペシと軽く叩いた。

「ここ座り」
「座るの? 重くない?」

 躊躇ためらうと、彼が「ははっ」と軽く笑った。

「重いわけあるか。つむぎやぞ。軽い軽い」
「じゃ、失礼して……」

 凪の膝に座って、チャーハンを口に運んでいると、ふと髪を撫でられた。

「あんなぁ、つむちゃん。俺、来週、組の用事あんねん。何日か来れんから。ごめんなぁ」
「そうなんだ?」

 肩越しに振り返る。
「十二月十三日が事始めやねん。関西ヤクザの正月や」と教えてくれた。
 事始めとは初めて聞いたが、忘年会と正月を一気にするようなものらしい。
 抗争の絶えない汪仁会の本家は、ついに今年、特定抗争指定暴力団に指定されてしまった。そのため、総本部のある市が警戒区域となり、事務所が使えないだけでなく、大勢で集まることも禁止されることになる。やむを得ず、今年の事始めは県外の二次団体の事務所で行うため、泊まりがけになるんだそうだ。そこに、椎塚組若頭の凪も出席するのだという。

「はぁ、本家での集まりやったら、近いから日帰りやってんけどな。だるいわ。絶対飲んでるし、泊まりになるやろ? まず用意がだるいねん。用意に時間かかるわ」

 ぎゅ~っと抱き締められて、つむぎはスプーンを置いた。肩越しに手を伸ばし、凪の髪に触れる。サラッとした指通りが心地いい。
 そうか、来週は何日か会えないのか。再会してからは初めてかもしれない。凪はいつもつむぎを優先してくれていたから。

(寂しいな……)

 そう思ったとき、スルッと服の中に凪の手が入ってきた。彼はつむぎの肩にあごを載せると、悪戯いたずらな眼差しを向けてくる。

「寂しいか?」

 まるで心を読んだかのように言い当てられて、つむぎはプイッとそっぽを向いた。すると、大きくて熱い手にお腹を撫でられる。その手はすぐさまブラジャーの中にまで入ってきて、ふにふにと乳房を触ってきた。なんて不埒ふらちな。でも凪に触られるのはいやじゃない。耳をチロッとめられて、そのくすぐったさにつむぎは身じろぎした。

「もぅ……食べてるのに……」
「寂しないで? 終わったらすぐ会いに来るからな。なぁ、いい子で待っとり……な、つむ……つむちゃん。俺のこと好きやろ?」

 子供をあやすようにして身体をさすり、抱き締めてくる凪に、無性に甘えたくなってくる。ちょっと低い声も、甘みを帯びていていい。
 会話は成立していないのに、お互いの気は合っていて唇を寄せ合った。

「んっ、は……ん、ぅ……すきぃ」

 くちゅり、くちゅり――まあるく乳房を撫でてきゅっと乳首を摘まみながら、彼はつやっぽくつむぎに舌を絡めてくる。舌先から伝わる甘いしびれが脳髄のうずいを占領して心臓を速くするのと同時に、凪がつむぎを抱き締めたまま後ろに倒れた。そのままラグに寝そべる凪の上に重なる形になって、腰の辺りに硬くたぎる物が触れる。
 彼が興奮してくれている……そのことに子宮がきゅんとうずいてしまった。
 大きな彼の大きなみなぎり……「入らない」とすぐを上げるくせに、一人前の女のように欲しがる身体が恥ずかしい。
 カァッと顔を赤くすると、凪がニヤッと笑った。

「欲しいんか?」
「~~~~っ!」

 もみもみとお尻を揉まれてしまい、凪の胸にかじり付いて顔を隠す。彼はつむぎのズボンの中に手を入れると、お尻の側からショーツのクロッチに触れてきた。

「もうびしょびしょやん。つむちゃんはエッロイなぁ」

 揶揄からかいながらつむぎからズボンを脱がして、お尻を撫で回し、ショーツの中に手を入れてくる。こういうことをするから、つむぎがまた濡れてしまうのに。彼はやめてくれない。

「凪くんのえっち」

 顔を上げたつむぎが真っ赤になりながら抗議すると、凪は笑いながら蜜口を撫でてきた。

「知らんかったんか?」
「……しってる」

 昔は知らなかったけれど、今はもう知っている。そして、前よりもっと好きになった。
 お腹の上に乗ったまま、刺青いれずみの覗く首筋につむぎがカプッと噛み付くと、蜜口にぬるんと指が入ってきた。

「っは……!」

 いきなり指を二本れられて、目を見開く。こんな体勢でれられるのが初めてのせいか、れられた指が二本のせいか、お腹の裏側が強く擦れる。みちみちと広げられている被虐感ひぎゃくかんに、頬がけるように熱くなって、愛液がとろーっと垂れてきた。
 凪は指でぽんぽんぽんぽんとへその裏側を軽く押しては、つむぎにはしたない声を上げさせるのだ。

「あっ、あっ、ん――なぎ、く……ん……はぁはぁはぁ……うぅん……」

 目の奥がチカチカして、力が入らない。ただお腹の奥だけがきゅんきゅんして、つむぎを凪にすがり付かせる。苦しいのに凪の指が気持ちいいところを擦ってくるのだ。

「最初から二本れても大丈夫なったな。今日は三本目に挑戦してみよか」

 凪はねっとりと肉襞を擦りながら指を出しれしつつ、反対の手でつむぎの頬を撫でると、「優しくれたる……奥までな」とささやいた。


         ◆     ◇     ◆


 ザー――――……

「はう……もぉ……凪くんたら……」

 凪のシャワー中の音を聞きながら、つむぎはぼんやりしたままラグの上で寝返りを打った。
 体がだるい。凪の指でめちゃくちゃに掻き混ぜられたお腹が、まだうずいている気がする。
 あれからつむぎは凪の指で何度も追い立てられ、あられもない声でかされ、はずかしめられてしまった。
 凪がつむぎの気持ちいいところを的確に擦り上げ、責め立ててくるものだから、身体は壊れたように濡れっぱなし。つむぎは感じることしか許されず、ついには三本目の指までくわえ込んでしまった。
 気をやりながら意識を飛ばしたところで、ようやく解放されたのだ。
 つむぎの身体をもてあそんだ凪はというと、たかぶった身体を静めるためにシャワー中。

(本当に三本入っちゃった……)

 身体が確実に凪の指に慣らされていくのを感じる。
 でも凪の物は指より断然太いのだ。今日は指三本入ったけど、気をやりすぎて気絶してしまったんだから、凪の物に耐えられるはずがない。
 凪のあの太くて長い物を全部れられてしまったら……

「…………」


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