RE:狂奔転生ブラッドヴラド

四五茶

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あの日より1ヵ月後

模擬戦―③

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 気づけば見知らぬ天井がそこにあった。
 周りを見渡すと雪原を彷彿させるかのうな真っ白な空間であり。
 ベッドの真横に置かれた小さなテーブルの上には一凛の赤い薔薇が生けられている。
 普段であれば俺を警護するメイド達が近くに控えているはずだが、誰もおらず。
 ただ静寂だけがこの場を支配し、こう俺に告げるのだ。
 お前は完膚なきまでに敗北し、ここは敗北者の終着地であるのだと。

「……っ! クソ……! 畜生……、畜生!」

 顔をくしゃくしゃにしながら自分の不甲斐なさを恥じる。
 これ以上ない自信を抱いたのは事実だ、それなのに結果はどうだ!
 確かにローリィーは規格外の化け物かもしれないが、そんなの言い訳だ!
 俺はローリィーが設けた時間まで戦えなかった、戦えなかったのだ!
 これが実際の戦闘であれば、俺は間違いなく死んでいたではないか!
 圧倒的能力不足、それが現実だ! 俺はあまりにも弱い、弱すぎるのだ!
 
 ――ガチャ……

「起きたか、ヴラド」

 ノックをせず入ってきたボルの物言いは実に素っ気なく。
 まるで興味のない玩具を見るような目で俺を見ているとすら思える。
 そりゃそうだろうさ、俺でもきっとそんな目をするだろう。
 価値のない代物に対して何故愛着せねばならんというのだ?

「……父上、今起きたところです」
「そうか。で、お前如きでは決して勝てぬ相手を前にしてもまだお前は抗うか? 苦悶と苦痛、そして苦悩を抱きながらでもお前は強くなりたいのか? ローリィーという絶対強者を相手にお前はまだ戦う覚悟があるのか?」

 あぁ、そういえばローリィーがボルの許可を貰ったって言ってたな。
 で、ボルはローリィーという現実を見せつけて諦めを促そうとしている。
 普通の子供であれば、一生籠の中の鳥でいる人生を選ぶだろう。
 だからきっと諦めてしまった方が、何不自由ない暮らしが過ごせるはずだ。
 そういう安全で快適な生活がこの城では保証されているのだからな。 

 だが俺はそんなのは絶対に嫌だ! 無力な自分なんて我慢ならん!
 折角再び二度目の生を得たというのに、奴隷のような生活はごめんだ! 
 自由に大空を羽ばたき、太陽の熱で焼かれて惨たらしく死ぬ道を選ぶ!
 だから答えは決まっている――俺は自由を謳歌してやる! 

「父上、俺は抗い続けます! それがどれだけ辛くとも、どれだけ困難だとも! 苦悶と苦痛の果てに何も得られなくとも、俺はひたすら前へ進み続けます! それしか俺には出来ない! それしか俺には取り柄がない! 籠の中の鳥でいる人生などクソでしかない!」
「……ふ、ふふふ。そうか、ならば手当てくらいはしてやろう。だが一つだけ言っておくぞ? ワシの本当の息子になりたければ、ローリィーくらい軽くねじ伏せる存在になれ。限りない苦悶と苦痛、そして苦悩に塗れ、苦難の道を踏破した時に、ようやくお前はローリィーを倒せる存在に至るだろう。漠然とした強さを求めるな、この世の支配者たる強さのみ求めよ。己が至上であり、己が至高であり、己が至宝であらねばならん。何年、何十年、何百年かかろうとも決して諦めるな、足掻け! 抗え! ……ヴラド、ワシを越えてみせろ。お前にはその価値があるこだけ努々忘れるな!」

 俺は思わずその場で赤子のように泣きじゃくっていた。
 今までの人生の中でこれほどまでに重く、愛が溢れた言葉は初めてであり。
 渇望していた言葉だからこそ、俺は救われた気持ちになっていた。
 無邪気な子供が初めて父親から投げかけられた温かくも厳しい言葉。
 だからだろうか、改めて自分は強くならねばならないという再認識が出来た。

「泣け、大いに泣くがいい。それでこそ成長できるのだ。暫くゆっくり休むがいい、食事を運ばせる手筈をしておこう」
「あ、ありがとうございます」
「食べて、寝て、それから再び大いに泣け。それをひたすら繰り返すことが強くなる秘訣だ。ではワシは忙しい身なのでな、またな」

 そう言ってボルはその場から去って行った。
 泣き疲れたのか、俺は自然と再び目をゆっくりと瞑る。
 いつか、きっといつかローリィーに勝とう。
 だからその時まで俺は泣きまくってやる、その時まで。
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