12 / 15
12.未来を一緒に①(代替わり)
しおりを挟む
「トレモイユ伯には、奴隷を切り刻み、地下室で禁じられた黒魔の儀式をしている疑いがある! 証拠隠滅をはからせないため、これより即座に屋敷地下を改める!!」
「────!?」
(ど、どういうこと???)
確かにアーレことトレモイユ伯爵には黒い噂があった。
ただ、噂は噂に過ぎず、いきなり騎士団が押しかけ、屋敷の主の許しも得ずにこんな強行をするなんて有り得ない。
騎士たちは、彼らを押しとどめようとする使用人たちを払って、どかどかと厨房から地下への入り口へと踏み込んでいく。
エマは、人の輪のもとへ急いだ。
「奥方様!」
エマに気づいたひとりが言う。
「伯爵様へお知らせは?」
「門を破られた際、マルクが走っております。いまお伝えしているかと」
(門を破った?)
その言葉にギョッとするが、アーレにはすぐ伝わる。
頷いて、エマはどうすべきか迷った。
見守る? やましいことなどない。地下に儀式跡がないと判明すれば、彼らも大人しく引くはず。
そう両手を握りしめたエマの横で、誰かの囁きが聞こえた。
「偽の証拠を捏造する気じゃないだろうな」
「ああ、有無を言わさず、中に入ったものな」
(!!)
公平であるべき聖教騎士団がそんなことをする? でもこの事態こそ異常だ。
すでに力で止めようとしただろう使用人たちが幾人か怪我を負い、侍女たちも震えている。
看過できない。
エマは、自分の倍以上の体積を持つ、巨躯な騎士を見据えた。
一段と立派な身なり、彼が指揮官に違いない。
「おやめください!! 何の許可もなく、突然無礼ではありませんか!」
「なんだ?」
明らかに舐めきった視線を騎士が寄こした。エマの手にある籠を捉えて言う。
「我らは聖教会の任を遂行している。下女風情が口を出すな」
「下女とは礼を欠いた発言! わたくしはトレモイユ伯爵の妻で、この家の女主人です! 然るべき礼儀を守ってください」
エマは怯まずに声を張った。
最近結婚したばかりの身で、"女主人"を名乗るのはおこがましいが、騎士の態度は目に余る。
貴族の端くれとしても、アーレが来るまで自分が騎士たちを抑えなければ。
エマの言葉に眉を顰めた騎士は、すぐに何か思い当たったらしい。口元を品なく歪めながら、言い放った。
「ああ、老伯爵が貧乏男爵から買い取ったという娘か。女主人を名乗れるのも今だけだ。伯爵家の罪は露呈して、すぐにその地位を失うことになるだろうから、夫と路頭に迷う準備でもしておくんだな」
過ぎる言葉に、さすがにエマが憤りを感じた時だった。
「わああああああっ!!」
「バ、バケモノ──!!」
厨房から、騎士たちが転がるように飛び出てきた。
「────!?」
(ど、どういうこと???)
確かにアーレことトレモイユ伯爵には黒い噂があった。
ただ、噂は噂に過ぎず、いきなり騎士団が押しかけ、屋敷の主の許しも得ずにこんな強行をするなんて有り得ない。
騎士たちは、彼らを押しとどめようとする使用人たちを払って、どかどかと厨房から地下への入り口へと踏み込んでいく。
エマは、人の輪のもとへ急いだ。
「奥方様!」
エマに気づいたひとりが言う。
「伯爵様へお知らせは?」
「門を破られた際、マルクが走っております。いまお伝えしているかと」
(門を破った?)
その言葉にギョッとするが、アーレにはすぐ伝わる。
頷いて、エマはどうすべきか迷った。
見守る? やましいことなどない。地下に儀式跡がないと判明すれば、彼らも大人しく引くはず。
そう両手を握りしめたエマの横で、誰かの囁きが聞こえた。
「偽の証拠を捏造する気じゃないだろうな」
「ああ、有無を言わさず、中に入ったものな」
(!!)
公平であるべき聖教騎士団がそんなことをする? でもこの事態こそ異常だ。
すでに力で止めようとしただろう使用人たちが幾人か怪我を負い、侍女たちも震えている。
看過できない。
エマは、自分の倍以上の体積を持つ、巨躯な騎士を見据えた。
一段と立派な身なり、彼が指揮官に違いない。
「おやめください!! 何の許可もなく、突然無礼ではありませんか!」
「なんだ?」
明らかに舐めきった視線を騎士が寄こした。エマの手にある籠を捉えて言う。
「我らは聖教会の任を遂行している。下女風情が口を出すな」
「下女とは礼を欠いた発言! わたくしはトレモイユ伯爵の妻で、この家の女主人です! 然るべき礼儀を守ってください」
エマは怯まずに声を張った。
最近結婚したばかりの身で、"女主人"を名乗るのはおこがましいが、騎士の態度は目に余る。
貴族の端くれとしても、アーレが来るまで自分が騎士たちを抑えなければ。
エマの言葉に眉を顰めた騎士は、すぐに何か思い当たったらしい。口元を品なく歪めながら、言い放った。
「ああ、老伯爵が貧乏男爵から買い取ったという娘か。女主人を名乗れるのも今だけだ。伯爵家の罪は露呈して、すぐにその地位を失うことになるだろうから、夫と路頭に迷う準備でもしておくんだな」
過ぎる言葉に、さすがにエマが憤りを感じた時だった。
「わああああああっ!!」
「バ、バケモノ──!!」
厨房から、騎士たちが転がるように飛び出てきた。
1
お気に入りに追加
414
あなたにおすすめの小説

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる