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7.新しい指輪
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女王陛下が王配を迎えられる件も発表され、すべてが一段落し、私は公爵家の庭を散策しながら、お兄様との時間を過ごしていた。
「私、すっかり誤解しておりました。周りの皆様も、"お兄様と女王陛下が結ばれる予定だったのでは"、と驚かれてましたし」
「ああ、まあ、ね……。ティティ陛下には弱味を握られてたから、彼女が結婚相手を公表するまで、"恋の隠れ蓑"にされた感はあった」
「弱味?」
「……。俺がラヴィに恋慕していることを知られてたから」
「!」
「特別な指輪を用意して貰う時に、バレてね……。暴露しようと強行する陛下を止めるのは大変だった」
「あっ……」
女王陛下は行動力の塊りだ。
(戒めの指輪。そういえば、私への気持ちが高まると、指輪が魔力を吸ってセーブをかけるって……)
思い返しながら、頬が染まる。気づかれないよう、会話を続けた。
「お兄様。吸われた魔力は、その後どうなるのですか?」
「指輪に蓄積されて、いざという時に俺を守る結界が発動する」
「えっ?」
「崩落事故で指輪が壊れたのは、守護結界が発動したからなんだ」
「では、お兄様が軽傷で済んだのは……」
「俺の魔力を吸ってほぼカンストしていた指輪が、全魔力を放出したようだ。発動に負荷がかかって、それで壊れたらしい」
「~~~~!!」
(なんてこと! じゃあ話に聞いたより、すごい事故で! 指輪がなければお兄様は、流した噂が現実でもおかしくない、大怪我をされてたと言うこと?)
改めて許すまじ、陰謀に加担した者ども。
厳罰を受けて、もはやこの地上には居ないけど!
「ラヴィへの想いが、俺を救ってくれたんだよ」
お兄様が蕩けるように甘い声でおっしゃる。
(お兄様、それ違う。でも待って、言い様によっては、そうなるの? はっ。お兄様さっき指輪の魔力がカンストしてたって言ってなかった?)
それはつまり、何度も自らブレーキをかけていたという意味で……。
火照る顔を冷ましたいと、別のことを考えたら、ひとつの思考に思い当たった。
「ならもしかして、"戒めの指輪"は今後もあった方が、お兄様が守られるのではないですか?」
私の疑問に、お兄様ががっくりと肩を落とす。
「それはないだろう、ラヴィ。それなら回りくどい事をせず、守護の指輪をつけるよ。"戒め"じゃなくて」
「あ、なるほど……?」
「何にせよ、長かった。父上が屋敷に連れ帰ったラヴィを"妹だ"と俺に告げて以来、何年耐えてきたことか」
"その言葉こそが戒めで、ずっと俺を縛っていたんだ"。
お兄様が辛そうに、息をこぼされる。
そんなに長い期間、お兄様が私を見ていてくださったなんて。
改めて驚いた。フェルディナン様との婚約がなくなり、本当に良かったと思いながら、疑問が胸に燻ぶる。
「──あの、なぜ私のことを? 私は大した家の出でもありませんし、これと言って取柄もなく、とてもお兄様に想っていただけるような者では──」
「大した家じゃない? ははっ。本当にそう思ってる?」
「そ、それは……、誇りは、持っております。国や人々を守ったセリエールの父に」
「だよな。ラヴィのそんなところが特に好きだ。俺もセリエール殿には武芸を習い、父上を救って貰った。身分など関係なしに、とても尊敬している。それにラヴィ自身が努力家で、何より魅力的だ。こんなに素敵な女性と同じ家に暮らして、惹かれるなという方が無理だろう」
(魅力的! いまお兄様から、魅力的と言っていただいたわ!)
心の中で、単語が何度も反響する。
「しかもその娘は、剣を持たせれば、騎士団長の俺でも気が抜けないくらい腕が立つ」
「そっ、それは子どもの頃の話で、お優しいお兄様が手加減くださったから」
「でも、動きのキレと的確さは、ずっと変わらず冴え続けている」
誇らしい気持ちになる。
かつてフェルディナン様は、"剣術を学ばれた"と言っていた。
でも私は剣術を、鍛え上げられた。精鋭が揃う、アルエン家の修練場で。
お兄様を追いかけていたら、自然とそうなってしまったのだけど、身体によく馴染んだのはセリエールの血がなせる業だったのかもしれない。
ふいにお兄様が、目も眩むような笑みを閃かせた。
「!!」
そのまま滑らかな動作で、片膝をつかれる。
私の片手は、お兄様の大きな手に掬い上げられた。
私を見上げるお兄様の目が、まっすぐに私を捕らえる。
「ラヴィニア・セリエール嬢。オーギュスト・アルエンは誠意をもって貴女に結婚を申し込みます。生涯、俺のすべてを捧げて守ると誓うので、どうぞこの愛を受け入れてください」
手の甲にそっと落とされた口づけが、私を一瞬で酔わせた。
体中の細胞が、大歓喜して叫んでる!!
「はい、お兄様。私で良ければ喜んで!」
お兄様が一気に私を引き寄せる。
後はもう、激流のようなひとときだった。
力強い抱擁の中、情熱的な口づけに身を委ねながら。
私は、お兄様の積年の我慢がいかにすごかったかを体感した。
そして、体裁だけの、とても短い婚約期間の後。
私はアルエン公爵夫人兼、セリエール女男爵となり、お兄様とお揃いの結婚指輪を、指にはめ合った。
戒めではなく、互いを愛し、尊敬しあうことを誓った力強い守護の指輪。
晴れ空の下、指輪が煌めいた。
「私、すっかり誤解しておりました。周りの皆様も、"お兄様と女王陛下が結ばれる予定だったのでは"、と驚かれてましたし」
「ああ、まあ、ね……。ティティ陛下には弱味を握られてたから、彼女が結婚相手を公表するまで、"恋の隠れ蓑"にされた感はあった」
「弱味?」
「……。俺がラヴィに恋慕していることを知られてたから」
「!」
「特別な指輪を用意して貰う時に、バレてね……。暴露しようと強行する陛下を止めるのは大変だった」
「あっ……」
女王陛下は行動力の塊りだ。
(戒めの指輪。そういえば、私への気持ちが高まると、指輪が魔力を吸ってセーブをかけるって……)
思い返しながら、頬が染まる。気づかれないよう、会話を続けた。
「お兄様。吸われた魔力は、その後どうなるのですか?」
「指輪に蓄積されて、いざという時に俺を守る結界が発動する」
「えっ?」
「崩落事故で指輪が壊れたのは、守護結界が発動したからなんだ」
「では、お兄様が軽傷で済んだのは……」
「俺の魔力を吸ってほぼカンストしていた指輪が、全魔力を放出したようだ。発動に負荷がかかって、それで壊れたらしい」
「~~~~!!」
(なんてこと! じゃあ話に聞いたより、すごい事故で! 指輪がなければお兄様は、流した噂が現実でもおかしくない、大怪我をされてたと言うこと?)
改めて許すまじ、陰謀に加担した者ども。
厳罰を受けて、もはやこの地上には居ないけど!
「ラヴィへの想いが、俺を救ってくれたんだよ」
お兄様が蕩けるように甘い声でおっしゃる。
(お兄様、それ違う。でも待って、言い様によっては、そうなるの? はっ。お兄様さっき指輪の魔力がカンストしてたって言ってなかった?)
それはつまり、何度も自らブレーキをかけていたという意味で……。
火照る顔を冷ましたいと、別のことを考えたら、ひとつの思考に思い当たった。
「ならもしかして、"戒めの指輪"は今後もあった方が、お兄様が守られるのではないですか?」
私の疑問に、お兄様ががっくりと肩を落とす。
「それはないだろう、ラヴィ。それなら回りくどい事をせず、守護の指輪をつけるよ。"戒め"じゃなくて」
「あ、なるほど……?」
「何にせよ、長かった。父上が屋敷に連れ帰ったラヴィを"妹だ"と俺に告げて以来、何年耐えてきたことか」
"その言葉こそが戒めで、ずっと俺を縛っていたんだ"。
お兄様が辛そうに、息をこぼされる。
そんなに長い期間、お兄様が私を見ていてくださったなんて。
改めて驚いた。フェルディナン様との婚約がなくなり、本当に良かったと思いながら、疑問が胸に燻ぶる。
「──あの、なぜ私のことを? 私は大した家の出でもありませんし、これと言って取柄もなく、とてもお兄様に想っていただけるような者では──」
「大した家じゃない? ははっ。本当にそう思ってる?」
「そ、それは……、誇りは、持っております。国や人々を守ったセリエールの父に」
「だよな。ラヴィのそんなところが特に好きだ。俺もセリエール殿には武芸を習い、父上を救って貰った。身分など関係なしに、とても尊敬している。それにラヴィ自身が努力家で、何より魅力的だ。こんなに素敵な女性と同じ家に暮らして、惹かれるなという方が無理だろう」
(魅力的! いまお兄様から、魅力的と言っていただいたわ!)
心の中で、単語が何度も反響する。
「しかもその娘は、剣を持たせれば、騎士団長の俺でも気が抜けないくらい腕が立つ」
「そっ、それは子どもの頃の話で、お優しいお兄様が手加減くださったから」
「でも、動きのキレと的確さは、ずっと変わらず冴え続けている」
誇らしい気持ちになる。
かつてフェルディナン様は、"剣術を学ばれた"と言っていた。
でも私は剣術を、鍛え上げられた。精鋭が揃う、アルエン家の修練場で。
お兄様を追いかけていたら、自然とそうなってしまったのだけど、身体によく馴染んだのはセリエールの血がなせる業だったのかもしれない。
ふいにお兄様が、目も眩むような笑みを閃かせた。
「!!」
そのまま滑らかな動作で、片膝をつかれる。
私の片手は、お兄様の大きな手に掬い上げられた。
私を見上げるお兄様の目が、まっすぐに私を捕らえる。
「ラヴィニア・セリエール嬢。オーギュスト・アルエンは誠意をもって貴女に結婚を申し込みます。生涯、俺のすべてを捧げて守ると誓うので、どうぞこの愛を受け入れてください」
手の甲にそっと落とされた口づけが、私を一瞬で酔わせた。
体中の細胞が、大歓喜して叫んでる!!
「はい、お兄様。私で良ければ喜んで!」
お兄様が一気に私を引き寄せる。
後はもう、激流のようなひとときだった。
力強い抱擁の中、情熱的な口づけに身を委ねながら。
私は、お兄様の積年の我慢がいかにすごかったかを体感した。
そして、体裁だけの、とても短い婚約期間の後。
私はアルエン公爵夫人兼、セリエール女男爵となり、お兄様とお揃いの結婚指輪を、指にはめ合った。
戒めではなく、互いを愛し、尊敬しあうことを誓った力強い守護の指輪。
晴れ空の下、指輪が煌めいた。
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