お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。

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3.クズ男との決別

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(??? お兄様はすでに全快されてますが?)
 毎日お屋敷で、健やかに過ごされてる。

「騎士団長としても公爵家当主としても、継続不可能だと聞いたぞ。女王陛下の王配は、隣国から迎えるという噂もあるし」
「なっ」

 それは知らなかった!
 お兄様が失恋してしまう!

 お兄様が気落ちされてはと、そちらの方が気になって仕方ない。

 私は一気に青ざめた。対照的に、フェルディナン様は口元に愉悦を宿す。

「オーギュスト殿が公爵位を退けば、アルエン家は傍流から後継者を迎えることになるだろう? なにせお前は居候なだけで、武力で成り上がった卑しい家の娘。血統は継げない」

 "そうなれば、オーギュスト殿の発言権も弱まる。
 復帰が無理で、女王にも捨てられるなら、王宮での居場所もなくなる。オーギュスト・アルエンの時代は終わりだ"。

 つらつらと言葉を並べるフェルディナン様を前に、私は震えが止まらない。

(どうしよう、この男。どうしてくれよう。私の大切なお兄様を、よくもここまで侮辱したわね……!)

 もはや彼に嫁ぎたいとはカケラも思わない。未練や情は、元々ない。

「つまり! 後見人であるオーギュスト殿の価値が地に落ちた今、無理にお前を娶る必要など無くなったということさ。ん、何をしている、手袋など脱ぎ始めて」

「この手袋を貴方あなたにぶつけて、決闘を申し込もうかと──」

「はっ? はははは! 馬鹿か、貴様! 剣術を学んだオレと、貴族娘のお前で勝負になるものか。婚約破棄は辛いだろうが、もとより自分には分不相応な話だったと諦めるんだな。オレとコリンナ嬢の結婚式には呼んでやるよ」

 フェルディナン様が、あざけりながら私に近づく。

「もっとも? お前も見てくれは悪くないから──、そうだな。コリンナ嬢への嫌がらせの慰謝料を支払うなら、時々遊び相手にはしてやってもいいぞ」

 言いながらすぐ横に立ち、フェルディナン様は私の髪をくように持ち上げた。

 コリンナ様が嘲笑わらう。

「まあ、フェルディナン様。そんな方に情けをかけてやるのは、およしなさいませ。調子に乗ってしまうわ」
「ん、そうか? ふはは」

「調子に乗ってるのは──、貴方あなたたちよ!!」 

 私の間合いに入ったのが悪い。
 顔面に手袋を叩きつけると同時に、素早く下から蹴り上げた。

「んなっ」

 前屈みになるフェルディナン様に、手に持つ扇をポロリと落とすコリンナ様。
 彼女はあんぐりと口を開けている。

「落とされたようですわ」

 私はコリンナ様の扇を拾い上げて……、片手の中で握り潰した。
 扇に使われてる硬い骨部分ごと、くしゃりと折れる。

「あら大変。故意ではありませんの。私たち、初対面ですが・・・・・・、分かってくだいますわよね?」

「え……っ、ええ、もちろん……」

 初対面であることを認めさせ、壊れた扇を丁寧に返すと、コリンナ様の顔色はすこぶる悪い。
 私はしおらしく謝罪した。

「本当に申し訳ありません。後日、お詫びの品を持って伺いますわ」
「いっ、いえ! 気になさらないでくださいな」

 ずいぶん遠慮されますこと。他人ひとの婚約者を奪ったお方が。

 横合いから、フェルディナン様のうめき声が漏れる。

「き、貴様、オレにこんなことをして……」

「まあ、どうかなさいまして? フェルディナン様。まさか、剣術を学ばれたフェルディナン様が、貴族娘のほんの粗相そそうけられないなんて、そんな恥ずかしい話……、あるわけないですよね。殿方の名誉にかけて」

 うぐっ、と言葉を飲むフェルディナン様は、いまだ身動きが取れないらしい。

「なにぶん、武力で爵位を賜った家の出なので。足さばきが粗野で、失礼いたしました」

 彼の前に落ちた手袋を回収すると、ビクリと身を震わせている。

「婚約破棄は承りました。詳しい話は後日、改めてにいたしましょう」

 にっこり笑って、私はその場に背を向けた。


 破談で結構。
 お兄様には謝って、ラヴィニアは尼僧院に参りますわ!!
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