時戻りの公爵令嬢は、婚約破棄を望みます。

みこと。

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7.百年を超えて

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「浮かないお顔ですね。俺との婚約はお嫌でしょうか。やはり強引過ぎましたか……?」

 王宮の庭を進みつつ、ショボンと声を落とすセストに、うなだれたワンコの耳が見える(気がする)!

「ち、違うのよ。セストが迎えに来てくれて、私はすごく嬉しいから!」

「では、お父上であるパルヴィス公爵のことが気がかりで?」

「あ、それは……」

(確かに反対されたら、面倒なことになるかも)

 父は私を王家に、嫁がせたがっていた。
 そんな私に、セストが驚きの発言をする。

「お父上には根回し済です」

「え゛っ?」

「それにアルジェント王国は長くありません。我が国ディアマンテに多額の借金がありますから、間もなく国名は地図から消えます。その時こそ、オーロ王国の名誉を回復しましょう」

「────!!」

 転生したセストは周到に、状況を整えていたようだ。
 想像を超えた言葉に、あんぐりと口が開く。



 その後セストは、砂を浴びた後のことを話してくれた。

 "時送り"の砂で魔女が塵になったことは前述の通り。
 セスト自身も強力で強烈な"時の流れ"に翻弄され、消滅しそうになったらしい。
 やはり直接砂を、被ったせいか。

「そんなっ!」

「けれどモフリートが助けてくれたのです」

 セストと融合していた魔獣は、彼と長く意識を共有することで、すっかり彼に情が沸いていたらしい。

 自身の全魔力で結界を作り、セストの魂を守った。
 結果、魔獣は力を失い、セストとの融合が解除され、セストは時をさかのぼってディアマンテの国に落ちたらしい。

 気がつくと王家の嫡男としてまれていた彼は、私が同時代にきていると気づき、この日のために必死に努力を重ねてきたという。名前が同名だったのは、嬉しい偶然だったのだとか。

「セスト……!!」

 感謝の涙がこみあげてくる。

 こんなにも私だけを見つめてくれる人を、私は知らない。

「でも、じゃあモフリートは消えてしまったのね……」

 再会を手放しで喜べない、一抹の悲しみ。

 そんな私を見て、セストが口元を緩ませた。

「俺もそう思ったのですが……」

「キャウン!」

「えっ?」

 セストの肩から、ひょっこりと小さな顔がのぞく。

「モフリート?!」

 それは古城で見た魔獣を、リスほどに小さくしたオオカミだった。

「力を使い小さくなってしまったけれど、この通り元気ですよ。魔力がたまったら、いずれ元の姿に戻りそうです」

 これでも大きくなったのだとか。

「まあ……! まあ……! 良かった! 良かったわ、セスト! モフリート!」

 ひとりと一匹に抱き着いて、私はとうとう泣いてしまった。

 そんな私をセストはしっかりと抱き留めてくれて、私たちはしばらく喜びを噛み締め合った。

 充分な時間が経ってから。
 すっとセストが膝をつく。

 それから真剣な眼差しで、私を見つめた。

「姫殿でん……、いえ、ベアトリーチェ嬢。改めて、俺の求婚を受けていただけますか? 俺の全てを貴方あなたに捧げ、生涯大切にすると誓います」

 セストの言葉に嘘はない。
 だってこれまでも彼は、言葉だけでなく態度でずっと示してくれた。

 月明りよりもまっすぐに、金の瞳が私の心を射貫いてくる。


「ええ。ええ。私で良ければ、喜んで!!」



 百年の時を超え、私はセストの胸に飛び込んだのだった。
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