時戻りの公爵令嬢は、婚約破棄を望みます。

みこと。

文字の大きさ
上 下
3 / 8

3.魔獣の提案

しおりを挟む
「ええと、つまり、私がオーロ王国の王族の生まれ変わりだと言いたいの?」

「そうです」

 衝撃体験の後、さらに驚きの話を、私は魔獣から聞かされていた。

 伝え聞く通り、魔獣は"秘宝"を守っているという。

 召喚時の契約により、城から離れられない彼だが、王族との仲は良好だったらしい。特に前世の私と魔獣の彼は、共に過ごすほど親しい間柄だったとか。

 それでさっきの熱烈歓迎。

 いまは横並びに座って会話しているのだけど、不思議なことに、言葉を重ねるにしたがって、私の気持ちはとても落ち着いてきた。
 今日初対面だったはずの魔獣に自分がすっかり心を許し、安心していることに気づくと、前世からの仲良しと言われても頷ける気がする。

(私ってば、オーロ王国の王女殿下だったのね)

 しみじみと考えていると、魔獣が疑問を口にした。

「でも転生前の記憶を思い出されたわけでないのなら、どうしてこの城に来てくださったんです?」

「あ……」

 そんなわけで、アルジェント王国の夜会で起こった一部始終を話す。
 聞き終えた魔獣は、怒りに弾けた。

「なんだそれは! アルジェントのやつら、姫殿下をないがしろにするにもほどがある!!」

 グルルと唸り声を轟かせながら、牙を剥く魔獣。

 大型犬よりずっと大きい身体で凄まれると、迫力がある。思わず身をすくませたら、魔獣がハッとしたように謝った。

「す、すみません。姫殿下を怖がらせるつもりは毛頭なく……」

「い、いいのよ。でも"殿下"かぁ。慣れないなぁ。本当に私の前世なの?」 

「はい。俺に触れても、炎が熱くなかったでしょう?」

「?」

 魔獣は全身をオレンジ色の炎に包まれていたけれど、それはまるで熱を持たず、幻影のよう。

 けれど彼の話によると、契約した王族以外には灼熱の炎同然、近づくだけで燃えるのだとか。

 ちなみに"彼"と呼んでいるのは、魔獣がまがうことなきオスだったから。コホン。

「そうなのね……。服まで燃えないなんて、不思議……」

 撫でるように、魔獣の背にそっと手を置く。

 チロチロと揺れる炎は心地良く、上質の毛触りよりも柔らかく感じる。

「う~~、モフモフ~~。癒される! 炎の魔神イフリートならぬ、リートね」

 魔獣の首にしがみつきながら炎を堪能すると、プハッと笑われた。

「やっぱり、姫殿下だ! ネーミング・センスが独特サイアクだ!!」

 そのまま大笑いされてしまった。
 いま"独特"って表現してたけど、違う単語に聞こえたのはナゼ?!

「どんな判断基準なの?!」

 羞恥で真っ赤になりながら抗議すると、魔獣はひとしきり笑い転げながら返した。

「前世でも、そうおっしゃってたんですよ。でも俺、別の名前があるんですけどね」

「まあ!」

「セストって言います」

「セスト……」

 耳に滑り込んできたその名前に、宝物のような尊さを感じて、口中に呟く。

「懐かしい、感じがするわ。とても大切な言葉を聞いた気分よ……」

 私がそう言うと、魔獣はふいに寂し気な顔を作った。

「姫殿下の心の片隅にでも、残っていたのなら光栄です……」

(ううっ、何だか可哀そう。だけど転生前のことなんて、何も覚えてないし)

 親しい相手に忘れられてるなんて、どんな気持ちなんだろう。
 相手は生まれ直して姿が変わった私さえも、見分けたというのに。

 つられてうつむいていると、そんな空気を吹き飛ばすように魔獣が提案してきた。

「"秘宝"を使いましょう、姫殿下。姫殿下の窮状を好転させるため、オーロ王家の魔道具を今こそ活用すべきです」

「!! だ、だけど。旧王家の"秘宝"を勝手に良いのかしら」

 "秘宝がどんなもので、どんな効果を持っているのかわからないけれど、セストはそれを必死に守ってきたんじゃないの?"

 そう問うと、彼はきっぱりと言い切った。

「良いのです。この城に来られた時の姫殿下のお顔は、絶望に染まった、とても酷いものでした。俺は貴方あなたのそんな状況に、耐えられません!!」

 やたら私に入れ込んでくれている魔獣の案内で、私たちは隠し通路を辿り、古城の地下へと降りたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

姉から、兄とその婚約者を守ろうとしただけなのに信用する相手を間違えてしまったようです

珠宮さくら
恋愛
ラファエラ・コンティーニには、何かと色々言ってくる姉がいた。その言い方がいちいち癇に障る感じがあるが、彼女と婚約していた子息たちは、姉と解消してから誰もが素敵な令嬢と婚約して、より婚約者のことを大事にして守ろうとする子息となるため、みんな幸せになっていた。 そんな、ある日、姉妹の兄が婚約することになり、ラファエラは兄とその婚約者の令嬢が、姉によって気分を害さないように配慮しようとしたのだが……。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

いつか国のお外にほっぽりだされる、というのなら…。

イチイ アキラ
恋愛
「ディアーナ! お前との婚約を破棄する!」 その日、アルテール公爵令嬢のディアーナは国外追放を命じられた。 王太子ヒューバードの愛しき人、ソレイユへの非道の罪により。 ソレイユは義母と義姉より虐げられる哀れな娘であった。 そんな娘をディアーナも、また。 嗚呼、なんて冷たい女だろう――と。 そしてディアーナは、国のお外にほっぽりだされた。

公爵令嬢は見極める~ある婚約破棄の顛末

ひろたひかる
恋愛
「リヨン公爵令嬢アデライド。君との婚約は破棄させてもらう」―― 婚約者である第一王子セザールから突きつけられた婚約破棄。けれどアデライドは冷静な態度を崩さず、淡々とセザールとの話し合いに応じる。その心の中には、ある取り決めがあった。◆◆◆「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

その悪役令嬢、問題児につき

ニコ
恋愛
 婚約破棄された悪役令嬢がストッパーが無くなり暴走するお話。 ※結構ぶっ飛んでます。もうご都合主義の塊です。難しく考えたら負け!

処理中です...