4 / 8
4.王の愛妾?
しおりを挟む
そうしてアキムは、セラを部屋に招くと、たくさんのお菓子でもてなした。
並べられたスイーツは、どれも繊細な細工が施され、色とりどりに輝き、まるで宝物のよう。
目を丸くしたセラは大喜びで、アキムの勧めるままに様々なお菓子を楽しみ……、その日から、セラにとって不思議なことが始まった。
セラの部屋に、アキムからたくさんの贈り物が届くようになった。
華麗な布地だったり、高価なドレスだったり、花に宝石にと、置く場所に困るほど積まれていく。
そして散策するたびにアキムと偶然出会うのである。
すると決まって彼はセラを誘い、散歩や食事などを楽しんで……、そうこうするうち二人の会話はいつも明るくはずむようになっていた。
アキムと出歩くことで、城の人間やハルオーンの民たちと接する機会も増える。
未来の王妃はあたたかく受け入れられた。
丁重かつ細やかに接してくれる人々のおかげで、セラは早くも新しい環境に慣れ始めていた。
若い順応力である。
けれど依然として、海行きを許して貰えないという問題が、セラにはあった。
猫かぶり総動員バージョンで頼み込んでみても、無理だった。
「あなたのために、庭に大きな池を作りますから」との代案なら出してくれたが。
たまりかねて理由を尋ねてみたことがあった。
「海には良い思い出がないのです」
そう答えたアキムがあまりに辛そうだったので、セラはそれ以上ねだれず、うやむやのままに一月も過ぎたころ。
ある日セラが歩いていると、宮の一角が騒がしい。
なにやらたくさんの人夫たちが、調度品やら大物の家具を部屋に運び込んでいるようである。
けれどセラの部屋ではないし、家具も揃って派手やかで、セラの好みではない。
(? なんだろう?)
約束していたから、ちょうどアキムの部屋に向かうところだった。
彼に聞いてみたら、すぐにわかる。
そう思って。
アキムの部屋前の廊下に進んだセラは、息を呑んだ。
「では陛下。よろしくお願いいたします」
扉から出たところで、ひとりの女性が優雅に礼をとっていた。
室内にいるアキムに退室の挨拶をしていたところだと察するが。
そのまま彼女はこちらに歩いて来たので、自然、セラと会うこととなった。
「あら……。もしやセラティーア姫様ですか? スイハ国の」
こくり。
どうしたことか声が出ず、かろうじて頷くことで返事をした。
「わたくしはマリエラ・ミディスと申します。どうぞお見知りおきくださいませね?」
妖艶、ともいえる美女の微笑みの前に、セラは完全に固まってしまった。
(身体が動かない。なんで?)
「ふふっ、お話しにお聞きしていた通り、お可愛らしい方ですこと」
手に持つ扇子で優雅に口元を隠すと、マリエラという女性は軽く礼をして、そのまま歩き去ってしまった。
(え……、え……、いまのは、誰?)
名はマリエラと言った。
違う、そうじゃない。
私が知りたいのはそうではなくて。
誰??
アキムに一言聞けば済む。
(もし、望まぬ答えが返ってきたら?)
後宮とは嘘で、アキムは妃は私だけだと言った!
(でも気が変わったとしたら?)
とても美人だった! 胸も大きかった!! 香り立つような色気に包まれていた!!
年上に見えた、華やかな顔立ちをしていた、ゆるやかな黒髪が長くて、すごく美しかった!!
誰───────!!!!
気がつけば、セラは踵を返して、駆けていた。
なぜかとてもショックを受けて、動揺して、一刻も早くその場から立ち去りたかった。
マリエラの残り香漂う廊下から、離れたかった。
セラは、王宮の外に出た。
並べられたスイーツは、どれも繊細な細工が施され、色とりどりに輝き、まるで宝物のよう。
目を丸くしたセラは大喜びで、アキムの勧めるままに様々なお菓子を楽しみ……、その日から、セラにとって不思議なことが始まった。
セラの部屋に、アキムからたくさんの贈り物が届くようになった。
華麗な布地だったり、高価なドレスだったり、花に宝石にと、置く場所に困るほど積まれていく。
そして散策するたびにアキムと偶然出会うのである。
すると決まって彼はセラを誘い、散歩や食事などを楽しんで……、そうこうするうち二人の会話はいつも明るくはずむようになっていた。
アキムと出歩くことで、城の人間やハルオーンの民たちと接する機会も増える。
未来の王妃はあたたかく受け入れられた。
丁重かつ細やかに接してくれる人々のおかげで、セラは早くも新しい環境に慣れ始めていた。
若い順応力である。
けれど依然として、海行きを許して貰えないという問題が、セラにはあった。
猫かぶり総動員バージョンで頼み込んでみても、無理だった。
「あなたのために、庭に大きな池を作りますから」との代案なら出してくれたが。
たまりかねて理由を尋ねてみたことがあった。
「海には良い思い出がないのです」
そう答えたアキムがあまりに辛そうだったので、セラはそれ以上ねだれず、うやむやのままに一月も過ぎたころ。
ある日セラが歩いていると、宮の一角が騒がしい。
なにやらたくさんの人夫たちが、調度品やら大物の家具を部屋に運び込んでいるようである。
けれどセラの部屋ではないし、家具も揃って派手やかで、セラの好みではない。
(? なんだろう?)
約束していたから、ちょうどアキムの部屋に向かうところだった。
彼に聞いてみたら、すぐにわかる。
そう思って。
アキムの部屋前の廊下に進んだセラは、息を呑んだ。
「では陛下。よろしくお願いいたします」
扉から出たところで、ひとりの女性が優雅に礼をとっていた。
室内にいるアキムに退室の挨拶をしていたところだと察するが。
そのまま彼女はこちらに歩いて来たので、自然、セラと会うこととなった。
「あら……。もしやセラティーア姫様ですか? スイハ国の」
こくり。
どうしたことか声が出ず、かろうじて頷くことで返事をした。
「わたくしはマリエラ・ミディスと申します。どうぞお見知りおきくださいませね?」
妖艶、ともいえる美女の微笑みの前に、セラは完全に固まってしまった。
(身体が動かない。なんで?)
「ふふっ、お話しにお聞きしていた通り、お可愛らしい方ですこと」
手に持つ扇子で優雅に口元を隠すと、マリエラという女性は軽く礼をして、そのまま歩き去ってしまった。
(え……、え……、いまのは、誰?)
名はマリエラと言った。
違う、そうじゃない。
私が知りたいのはそうではなくて。
誰??
アキムに一言聞けば済む。
(もし、望まぬ答えが返ってきたら?)
後宮とは嘘で、アキムは妃は私だけだと言った!
(でも気が変わったとしたら?)
とても美人だった! 胸も大きかった!! 香り立つような色気に包まれていた!!
年上に見えた、華やかな顔立ちをしていた、ゆるやかな黒髪が長くて、すごく美しかった!!
誰───────!!!!
気がつけば、セラは踵を返して、駆けていた。
なぜかとてもショックを受けて、動揺して、一刻も早くその場から立ち去りたかった。
マリエラの残り香漂う廊下から、離れたかった。
セラは、王宮の外に出た。
10
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説

【完結】『私に譲って?』そういうお姉様はそれで幸せなのかしら?譲って差し上げてたら、私は幸せになったので良いのですけれど!
まりぃべる
恋愛
二歳年上のお姉様。病弱なのですって。それでいつも『私に譲って?』と言ってきます。
私が持っているものは、素敵に見えるのかしら?初めはものすごく嫌でしたけれど…だんだん面倒になってきたのです。
今度は婚約者まで!?
まぁ、私はいいですけれどね。だってそのおかげで…!
☆★
27話で終わりです。
書き上げてありますので、随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。
見直しているつもりなのですが、たまにミスします…。寛大な心で読んでいただきありがたいです。
教えて下さった方ありがとうございます。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
芋女の私になぜか完璧貴公子の伯爵令息が声をかけてきます。
ありま氷炎
恋愛
貧乏男爵令嬢のマギーは、学園を好成績で卒業し文官になることを夢見ている。
そんな彼女は学園では浮いた存在。野暮ったい容姿からも芋女と陰で呼ばれていた。
しかしある日、女子に人気の伯爵令息が声をかけてきて。そこから始まる彼女の物語。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる