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第一章
洗礼式
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「ゲッターが天より授かったスキルは『加工』であります」
神父のその声が教会に響き渡った瞬間、まるで一陣の風が吹き抜けたように、会場内はざわめきに包まれた。
その瞬間、ゲッターは頭の中に父であるコンタージュ辺境伯の失望した顔をはっきりと思い浮かべた。父はどんな顔をしているのだろう?
しかしすぐにゲッターの頭の中はこれからどうしようという思いの方が強くなった。
今日はゲッターの15歳の誕生日だった。
リスモンズ王国では皆15歳になると教会で洗礼を受ける。洗礼を受けると天の恵みとして神様からスキルを与えられる。
神様から与えられるスキルは千差万別で基本的には1人一つ与えられる。ごく稀に1人で二つスキルを与えられる人もいるらしく伝説の勇者やリスモンズ王国の建国王は二つ与えられたらしい。
まさしく神様から与えられるスキルは人生を左右するものであるのだがどうやらゲッターが授かったスキルは皆からハズレと判断されたらしい。
扉が開く音がすると、誰かが足早に教会から出て行く音がした。きっと父だろう、とゲッターは思った。彼の背中を追うように、他の参列者も席を立つ。
「あれがゲギンタス伯爵か。息子の洗礼式であのような顔を見せるとは。」
周囲のざわめきを耳にしながら、ゲッターは跪いていた膝を伸ばし、立ち上がった。
ゲッターが立ち上がると神父は自分は悪くないと言いたいのか視線を逸らし、そそくさと立ち去っていった。
すると、シスターが近づいてきて、優しく声をかけてくれた。
「ゲッター元気を出して」
「落ち込んではいませんが…」ゲッターは彼女の言葉に少し意外な気持ちを抱きつつも、思わず微笑んだ。
聞いている人もいないので本音をこぼす。
「この『加工』ってスキルはそんなに使えないスキルなんですかね。まだどんなスキルか全然わかってないのに」
シスターは一瞬言葉を詰まらせたが、正直な思いを伝えてくれた。
「攻撃系か祝福系でないというだけで人は一段下のスキルとして見てしまうから」
シスターが申し訳なさそうに言った。
ゲッターは彼女を責める気は全くなかったので返って申し訳なくなった。
「そうですね。伯爵家の子息として、求められていたものとは違ったかもしれません。でも、神様が私にこのスキルを授けたのだから、私にしかできないことがあるのかも。」
そう言って微笑むとその言葉にシスターは感銘を受けたのか、涙ぐみながら励ましてくれた。
「気を強く持ちなさい。決して自暴自棄にならないでね」
ゲッターは再び微笑み、礼を言うと教会を出て帰路についた。
自宅に向かう道すがら、ゲッターはいくつもの思考が巡っていた。
「父が失望するのは理解できる。コンタージュ家では攻撃系スキルが求められているのだから。でも、これからどう生きるか、それが私にとって大事な選択だ。」
ゲッターは考える。
コンタージュ伯爵家はリスモンズ王国の北東を守る辺境伯であった。
国境沿いに接するのは魔の森と呼ばれるモンスターが住む未開の森で魔の森を挟んでグリプニス王国があった。
魔の森からは時折モンスターが出てきて人里を襲ったし、何十年かに一度スタンピードと呼ばれるモンスターの大氾濫があった。
コンタージュ伯爵家は、敵国ではなくモンスターからリスモンズ王国を守る重要な役目を負った家であった。
「この家で求められるのは強さ。私はまだその期待に応えられていないのか。」
ゲッターはそうつぶやいたのだった。
現当主であるゲギンタス=コンタージュ伯爵は武門の家の当主らしく苛烈で厳格な人であった。いい意味でも悪い意味でも貴族らしい人柄であった。
そんなコンタージュ伯は貴族の役目としてせっせと子作りにも励み正妻、側室合わせて11人の子宝にも恵まれていた。
ゲッターはそんなコンタージュ家の四男であった。
ゲッターは正妻であるエマラ夫人の3番目の子でエマラ夫人の子供としては上に兄2人下に妹が1人いた。
長男は側室の子だったが授かったスキルが攻撃系だったので最初の後継者候補になった。
そのことでエマラ夫人は酷くプライドを傷つけられたためとてもがんばった。
間に側室が女子を産むのを尻目に男子を3人続けて産んでみせた。
リスモンズ王国では男も女も関係なく貴族家を持てた。
だがコンタージュ家は武門であることから攻撃系スキルを持つ力のある男子が家を継ぐべきとの考えが根強くあった。
エマラ夫人の産んだ次男も攻撃系スキルを授かったが、それだけでなく三男がとても強力な攻撃系スキルを授かったことでエマラ夫人の承認欲求は満たされた。
これによってほっとしたのはエマラ夫人よりも夫人の寝室に通わなくて良くなったコンタージュ伯爵本人だというのは伯爵家家人の総意である。
そんな環境で育ったゲッターだが非常に出来が良かった。
生まれてすぐに長男の洗礼式があり攻撃系スキルを授かったため、ゲッターは幼くして事実上伯爵家を継ぐことはなくなった。
しかしそれを認めたくない母親から兄たちと同じように伯爵家の後継候補として最高の教育を受けさせてもらえた。
伯爵家の後継者の座が手に届くところにある兄たちは周囲からもそのような目で見られるし本人たちもその気になって家の中に派閥らしきものを作った。
だがゲッターの従者たちは今後のことを考えて派閥にゲッターを近寄らせずにのびのびと育てた。
そうして育てられたゲッターは心身共に非常に健やかに育った。それこそ後継者候補としてドロドロとした派閥争いの中にいた兄たちよりも。
3年前に三男が洗礼式でとても強力な攻撃系スキルを授かった時に長男と次男そしてその側近たちは非常に悔しがったがゲッターたちは喜んだ。これでコンタージュ家は安泰だと。
だがそれを許さなかったのが両親であるコンタージュ伯爵夫妻だった。
次男がとても強力な攻撃系スキルを得たことで今度は野心が芽生えたらしく、王国内での地位向上を目指し始めた。
実際兄弟が2人揃って攻撃系スキルを授かるのも珍しいのにそれが3人揃い、しかもとても強力な攻撃系スキルもあるというのは奇跡的なことだった。
王国内で武力でコンタージュ家に勝る家はもう王家にごく近い数家しかなかった。
これでゲッターも攻撃系スキルを授かれば武力で負ける家はなくなると思われた。
伯爵夫妻は出来のいいゲッターならより強力な攻撃系スキルを授かるだろうと考えていた。それを土産に王家の姫と婚姻させてコンタージュ家に王家の血を取り込むことを企んだ。そうすればいずれは辺境伯ではなく侯爵や公爵も夢ではないと思っていた。
そのため『加工』のスキルを得たことでくだらない野心も下火になればと洗礼式を終えたばかりのゲッターは願うのであった。
帰宅したゲッターはまっすぐに父であるコンタージュ伯爵の執務室に向かった。
執務室の前にいた当番の従者に今後のことについて相談したいと来訪の目的を告げて取り継ぎを頼んだ。
程なくして中から「入れ」 と声がした。
洗礼式よりもよっぽど緊張するなと思いながら扉を開けた。
一目で歴史があるとわかる執務机に父であるコンタージュ伯爵は座っていた。
机の前には家令であるスワントが立っていた。
「父上、失礼します。」ゲッターは姿勢を正して挨拶した。
ゲッターが入室すると取り継いでくれた従者が入れ替わりに退室していく。
従者が退出すると父は前置きもなく話始めた。
「コンタージュ家の息子が生産系スキルを授かるとは。なんて恥晒しだ。言い訳があるなら言ってみろ」
ゲギンタスは声を荒げて言った。彼の目には怒りと失望が宿っていた。
それを人のいいスワントはオロオロしながら見守っていた。
「言い訳などありません。また恥晒しだとも思っていません。神が私に『加工』のスキルを授けたのはそのスキルを使って私に何かをせよとのお告げかと思いますので」
ゲギンタスはフンと馬鹿にするように笑うと続けた。
「それでお前は我が伯爵家のために何をしてくれると言うんだ?鍛冶屋の真似事でもすると言いたいのか?だが鍛冶屋には我が屋敷に居場所はないぞ」
「ご主人様!それではゲッター様があまりにも過酷過ぎるではありませんか。ゲッター様はご主人様のご子息ですよ」
スワントの言葉にゲギンタスは少し表情を緩めた。スワントの心情には耳を傾けているようだった。
「わかっておるわスワント。とりあえずゲッター。お前はどうするつもりなのだ?言ってみよ」
「私はこの国を出て旅をしようと思っています。国内では私の成長に限りがあります。世界を見て回り、新たな可能性を探りたいと考えています。」
ゲッターが言うとこの決意にスワントの顔は驚きと悲しみで歪んだが、ゲギンタスは面白そうに「ほう」と言って先を促してきた。
「何故わざわざ国外へ?魔の森を越えてどこに行くつもりだ?」
「魔の森を越えて、グリプニス王国へ行きます。そこから海へ出て、新たな大陸で学ぶ計画です。」
ゲッターは力強く答えた。
「スキルを授かったばかりの私が今すぐ鍛冶屋をしても碌なものは作れないでしょう。ですが鍛冶屋の修行をしようにもコンタージュ家の子息が相手では職人も遠慮して弟子にはしてくれないと思います。ですからこのスキルで我が家のために何ができるのか見極めるためにも国外に旅に出て見識を広めたいと思っています」
言うとスワントは「危険ですゲッター様」と青くなったがゲギンタスは面白そうな顔をしながら黙っていた。
ゲッターの考えでは伯爵家に残るのは無理である。
いくら生産系スキルだからとはいえ相続権はあるし、自分は家人に人気がある。なんなら偉そうにせず丁寧に接するため領民にも人気があった。
伯爵家を穏当にまとめていくのに無駄なスキル持ちは後継者争いの種で、もう邪魔でしかない。
他に貴族籍を抜けて鍛冶屋になることも考えた。
だがおそらく今後ゲギンタスたちは攻撃系スキルを背景に宮廷闘争に打って出るつもりだ。国内でのし上がるためだ。
そんな時に在野で自分がウロウロしていては他の貴族にどんな利用をされるかわからない。
つまりどうであれ国内にとどまれば、いつ邪魔者扱いされて消されるかわからないのである。
なのでゲッターは国外に出てなんらかの職人の修行をすると言うのが1番安全だと考えたのである。
「旅に出るので私の従者は家に置いていきます。ただ必要な物品と路銀として私の貯金を持ち出すことは許してください」
「どこに行くつもりだ」
ゲギンタスは本心を嗅ぎ取ってやろうとばかりにゲッターの両目を見据えて聞いてきた。
さすがは武門の家の貴族である。すごい迫力である。
その眼光の鋭さに押されながらもゲッターはここが踏ん張り所と念じて両脚に力を入れた。
「魔の森を抜けてグリプニス王国へ行こうと思います。グリプニスからは海へ出て他の大陸へ渡ろうかと思います。他の大陸でリスモンズ王国にない文化や製法を学びたいと思っています」
「魔の森を抜ける算段はあるのか?」
ゲギンタスが質問してきたがこれは聞かれるだろうと予想していたので慌てなかった。
「書庫にある魔の森の地図を書き写す許可をください。あと私が今まで勉強してきた魔の森に関するノートの持ち出しもお許しください。それと先ほども言いましたが必要な物品を融通していただければ1人でも魔の森を抜けられるかと」
魔の森に隣接するコンタージュ家にはかなりの量の魔の森に関する資料があった。
コンタージュ家に生まれた者は魔の森の研究をライフワークにする伝統があるからだ。
ゲッターも幼い頃から魔の森についてよく学んでいた。
コンタージュ領の主な産業は魔の森からの森林資源の採取である。
ゲッターも幼い頃から従者を連れて魔の森を散策しては森の恵みを集めていた。
コンタージュ家の者からすると魔の森とはいえ必要以上に恐れてはいない。
その怖さを正確に把握していると言い替えてもいいかもしれない。
実際過去には魔の森を抜けてグリプニス王国と行き来した者は結構いる。
同じくらい帰って来なかった者もいるが、数にして半分なのだから片道を抜けるだけならもっと多くの者ができたと考えられる。
おそらくゲギンタスも魔の森を抜ける自信があるのだろう。
表情からそれが察せられた。
ゲギンタスはしばらく黙考した後、「なるほどな。いいだろう。ただ、資料は森を抜けた後で燃やして処分せよ。」と言った。
ゲギンタスは納得したのか優しい父の顔になって聞いてきた。
「それでいつ発つつもりなのだ?」
「地図を写し終えるのと準備で一週間程いただければと」
「気をつけてな。あと母に挨拶を忘れるなよ」
その口調に成長を期待する親心が垣間見えた。
「はい。ありがとうございます。失礼します」
ゲッターは深く感謝し、退室の礼をして執務室を後にした。
神父のその声が教会に響き渡った瞬間、まるで一陣の風が吹き抜けたように、会場内はざわめきに包まれた。
その瞬間、ゲッターは頭の中に父であるコンタージュ辺境伯の失望した顔をはっきりと思い浮かべた。父はどんな顔をしているのだろう?
しかしすぐにゲッターの頭の中はこれからどうしようという思いの方が強くなった。
今日はゲッターの15歳の誕生日だった。
リスモンズ王国では皆15歳になると教会で洗礼を受ける。洗礼を受けると天の恵みとして神様からスキルを与えられる。
神様から与えられるスキルは千差万別で基本的には1人一つ与えられる。ごく稀に1人で二つスキルを与えられる人もいるらしく伝説の勇者やリスモンズ王国の建国王は二つ与えられたらしい。
まさしく神様から与えられるスキルは人生を左右するものであるのだがどうやらゲッターが授かったスキルは皆からハズレと判断されたらしい。
扉が開く音がすると、誰かが足早に教会から出て行く音がした。きっと父だろう、とゲッターは思った。彼の背中を追うように、他の参列者も席を立つ。
「あれがゲギンタス伯爵か。息子の洗礼式であのような顔を見せるとは。」
周囲のざわめきを耳にしながら、ゲッターは跪いていた膝を伸ばし、立ち上がった。
ゲッターが立ち上がると神父は自分は悪くないと言いたいのか視線を逸らし、そそくさと立ち去っていった。
すると、シスターが近づいてきて、優しく声をかけてくれた。
「ゲッター元気を出して」
「落ち込んではいませんが…」ゲッターは彼女の言葉に少し意外な気持ちを抱きつつも、思わず微笑んだ。
聞いている人もいないので本音をこぼす。
「この『加工』ってスキルはそんなに使えないスキルなんですかね。まだどんなスキルか全然わかってないのに」
シスターは一瞬言葉を詰まらせたが、正直な思いを伝えてくれた。
「攻撃系か祝福系でないというだけで人は一段下のスキルとして見てしまうから」
シスターが申し訳なさそうに言った。
ゲッターは彼女を責める気は全くなかったので返って申し訳なくなった。
「そうですね。伯爵家の子息として、求められていたものとは違ったかもしれません。でも、神様が私にこのスキルを授けたのだから、私にしかできないことがあるのかも。」
そう言って微笑むとその言葉にシスターは感銘を受けたのか、涙ぐみながら励ましてくれた。
「気を強く持ちなさい。決して自暴自棄にならないでね」
ゲッターは再び微笑み、礼を言うと教会を出て帰路についた。
自宅に向かう道すがら、ゲッターはいくつもの思考が巡っていた。
「父が失望するのは理解できる。コンタージュ家では攻撃系スキルが求められているのだから。でも、これからどう生きるか、それが私にとって大事な選択だ。」
ゲッターは考える。
コンタージュ伯爵家はリスモンズ王国の北東を守る辺境伯であった。
国境沿いに接するのは魔の森と呼ばれるモンスターが住む未開の森で魔の森を挟んでグリプニス王国があった。
魔の森からは時折モンスターが出てきて人里を襲ったし、何十年かに一度スタンピードと呼ばれるモンスターの大氾濫があった。
コンタージュ伯爵家は、敵国ではなくモンスターからリスモンズ王国を守る重要な役目を負った家であった。
「この家で求められるのは強さ。私はまだその期待に応えられていないのか。」
ゲッターはそうつぶやいたのだった。
現当主であるゲギンタス=コンタージュ伯爵は武門の家の当主らしく苛烈で厳格な人であった。いい意味でも悪い意味でも貴族らしい人柄であった。
そんなコンタージュ伯は貴族の役目としてせっせと子作りにも励み正妻、側室合わせて11人の子宝にも恵まれていた。
ゲッターはそんなコンタージュ家の四男であった。
ゲッターは正妻であるエマラ夫人の3番目の子でエマラ夫人の子供としては上に兄2人下に妹が1人いた。
長男は側室の子だったが授かったスキルが攻撃系だったので最初の後継者候補になった。
そのことでエマラ夫人は酷くプライドを傷つけられたためとてもがんばった。
間に側室が女子を産むのを尻目に男子を3人続けて産んでみせた。
リスモンズ王国では男も女も関係なく貴族家を持てた。
だがコンタージュ家は武門であることから攻撃系スキルを持つ力のある男子が家を継ぐべきとの考えが根強くあった。
エマラ夫人の産んだ次男も攻撃系スキルを授かったが、それだけでなく三男がとても強力な攻撃系スキルを授かったことでエマラ夫人の承認欲求は満たされた。
これによってほっとしたのはエマラ夫人よりも夫人の寝室に通わなくて良くなったコンタージュ伯爵本人だというのは伯爵家家人の総意である。
そんな環境で育ったゲッターだが非常に出来が良かった。
生まれてすぐに長男の洗礼式があり攻撃系スキルを授かったため、ゲッターは幼くして事実上伯爵家を継ぐことはなくなった。
しかしそれを認めたくない母親から兄たちと同じように伯爵家の後継候補として最高の教育を受けさせてもらえた。
伯爵家の後継者の座が手に届くところにある兄たちは周囲からもそのような目で見られるし本人たちもその気になって家の中に派閥らしきものを作った。
だがゲッターの従者たちは今後のことを考えて派閥にゲッターを近寄らせずにのびのびと育てた。
そうして育てられたゲッターは心身共に非常に健やかに育った。それこそ後継者候補としてドロドロとした派閥争いの中にいた兄たちよりも。
3年前に三男が洗礼式でとても強力な攻撃系スキルを授かった時に長男と次男そしてその側近たちは非常に悔しがったがゲッターたちは喜んだ。これでコンタージュ家は安泰だと。
だがそれを許さなかったのが両親であるコンタージュ伯爵夫妻だった。
次男がとても強力な攻撃系スキルを得たことで今度は野心が芽生えたらしく、王国内での地位向上を目指し始めた。
実際兄弟が2人揃って攻撃系スキルを授かるのも珍しいのにそれが3人揃い、しかもとても強力な攻撃系スキルもあるというのは奇跡的なことだった。
王国内で武力でコンタージュ家に勝る家はもう王家にごく近い数家しかなかった。
これでゲッターも攻撃系スキルを授かれば武力で負ける家はなくなると思われた。
伯爵夫妻は出来のいいゲッターならより強力な攻撃系スキルを授かるだろうと考えていた。それを土産に王家の姫と婚姻させてコンタージュ家に王家の血を取り込むことを企んだ。そうすればいずれは辺境伯ではなく侯爵や公爵も夢ではないと思っていた。
そのため『加工』のスキルを得たことでくだらない野心も下火になればと洗礼式を終えたばかりのゲッターは願うのであった。
帰宅したゲッターはまっすぐに父であるコンタージュ伯爵の執務室に向かった。
執務室の前にいた当番の従者に今後のことについて相談したいと来訪の目的を告げて取り継ぎを頼んだ。
程なくして中から「入れ」 と声がした。
洗礼式よりもよっぽど緊張するなと思いながら扉を開けた。
一目で歴史があるとわかる執務机に父であるコンタージュ伯爵は座っていた。
机の前には家令であるスワントが立っていた。
「父上、失礼します。」ゲッターは姿勢を正して挨拶した。
ゲッターが入室すると取り継いでくれた従者が入れ替わりに退室していく。
従者が退出すると父は前置きもなく話始めた。
「コンタージュ家の息子が生産系スキルを授かるとは。なんて恥晒しだ。言い訳があるなら言ってみろ」
ゲギンタスは声を荒げて言った。彼の目には怒りと失望が宿っていた。
それを人のいいスワントはオロオロしながら見守っていた。
「言い訳などありません。また恥晒しだとも思っていません。神が私に『加工』のスキルを授けたのはそのスキルを使って私に何かをせよとのお告げかと思いますので」
ゲギンタスはフンと馬鹿にするように笑うと続けた。
「それでお前は我が伯爵家のために何をしてくれると言うんだ?鍛冶屋の真似事でもすると言いたいのか?だが鍛冶屋には我が屋敷に居場所はないぞ」
「ご主人様!それではゲッター様があまりにも過酷過ぎるではありませんか。ゲッター様はご主人様のご子息ですよ」
スワントの言葉にゲギンタスは少し表情を緩めた。スワントの心情には耳を傾けているようだった。
「わかっておるわスワント。とりあえずゲッター。お前はどうするつもりなのだ?言ってみよ」
「私はこの国を出て旅をしようと思っています。国内では私の成長に限りがあります。世界を見て回り、新たな可能性を探りたいと考えています。」
ゲッターが言うとこの決意にスワントの顔は驚きと悲しみで歪んだが、ゲギンタスは面白そうに「ほう」と言って先を促してきた。
「何故わざわざ国外へ?魔の森を越えてどこに行くつもりだ?」
「魔の森を越えて、グリプニス王国へ行きます。そこから海へ出て、新たな大陸で学ぶ計画です。」
ゲッターは力強く答えた。
「スキルを授かったばかりの私が今すぐ鍛冶屋をしても碌なものは作れないでしょう。ですが鍛冶屋の修行をしようにもコンタージュ家の子息が相手では職人も遠慮して弟子にはしてくれないと思います。ですからこのスキルで我が家のために何ができるのか見極めるためにも国外に旅に出て見識を広めたいと思っています」
言うとスワントは「危険ですゲッター様」と青くなったがゲギンタスは面白そうな顔をしながら黙っていた。
ゲッターの考えでは伯爵家に残るのは無理である。
いくら生産系スキルだからとはいえ相続権はあるし、自分は家人に人気がある。なんなら偉そうにせず丁寧に接するため領民にも人気があった。
伯爵家を穏当にまとめていくのに無駄なスキル持ちは後継者争いの種で、もう邪魔でしかない。
他に貴族籍を抜けて鍛冶屋になることも考えた。
だがおそらく今後ゲギンタスたちは攻撃系スキルを背景に宮廷闘争に打って出るつもりだ。国内でのし上がるためだ。
そんな時に在野で自分がウロウロしていては他の貴族にどんな利用をされるかわからない。
つまりどうであれ国内にとどまれば、いつ邪魔者扱いされて消されるかわからないのである。
なのでゲッターは国外に出てなんらかの職人の修行をすると言うのが1番安全だと考えたのである。
「旅に出るので私の従者は家に置いていきます。ただ必要な物品と路銀として私の貯金を持ち出すことは許してください」
「どこに行くつもりだ」
ゲギンタスは本心を嗅ぎ取ってやろうとばかりにゲッターの両目を見据えて聞いてきた。
さすがは武門の家の貴族である。すごい迫力である。
その眼光の鋭さに押されながらもゲッターはここが踏ん張り所と念じて両脚に力を入れた。
「魔の森を抜けてグリプニス王国へ行こうと思います。グリプニスからは海へ出て他の大陸へ渡ろうかと思います。他の大陸でリスモンズ王国にない文化や製法を学びたいと思っています」
「魔の森を抜ける算段はあるのか?」
ゲギンタスが質問してきたがこれは聞かれるだろうと予想していたので慌てなかった。
「書庫にある魔の森の地図を書き写す許可をください。あと私が今まで勉強してきた魔の森に関するノートの持ち出しもお許しください。それと先ほども言いましたが必要な物品を融通していただければ1人でも魔の森を抜けられるかと」
魔の森に隣接するコンタージュ家にはかなりの量の魔の森に関する資料があった。
コンタージュ家に生まれた者は魔の森の研究をライフワークにする伝統があるからだ。
ゲッターも幼い頃から魔の森についてよく学んでいた。
コンタージュ領の主な産業は魔の森からの森林資源の採取である。
ゲッターも幼い頃から従者を連れて魔の森を散策しては森の恵みを集めていた。
コンタージュ家の者からすると魔の森とはいえ必要以上に恐れてはいない。
その怖さを正確に把握していると言い替えてもいいかもしれない。
実際過去には魔の森を抜けてグリプニス王国と行き来した者は結構いる。
同じくらい帰って来なかった者もいるが、数にして半分なのだから片道を抜けるだけならもっと多くの者ができたと考えられる。
おそらくゲギンタスも魔の森を抜ける自信があるのだろう。
表情からそれが察せられた。
ゲギンタスはしばらく黙考した後、「なるほどな。いいだろう。ただ、資料は森を抜けた後で燃やして処分せよ。」と言った。
ゲギンタスは納得したのか優しい父の顔になって聞いてきた。
「それでいつ発つつもりなのだ?」
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「はい。ありがとうございます。失礼します」
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解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
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