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第158話 逃走(緒恋視点)
しおりを挟む「ッッ!痛っ!ッ、ッ、もう少し!」
荷物をまとめた後、二階の窓からロープを伝って外に出た。
ロープを伝って降りる時に力を入れるたび、お腹が痛んで声を出しそうになるが、我慢する。
何とか地面に着地すると、急いで近くの駅に向かった。
二つのカバンを持って、後ろを確認しながら駅に向かう姿は、傍から見ると不審者にしか見えないだろうけど、そんなことに気を配っている余裕は無い。
駅に向かう間も、頭の中からは先程の出来事が頭から離れず、私の中の疑問も次々に沸いてしまう。
お母さんが亡くなる前までは、あそこまで口調が汚くは無かったし、私のことも名前で呼んでいた。お酒だって、一年に三回程度しか飲まなかったのに、足の踏み場が無くなるぐらい散らかるまで、飲み続けていた筈だ。
あの男にとって、私はもう娘では無いのだろう。
あいつがクソ親に成り下がったところを目の前で見たのに、何故か悲しくなってしまう。
ある種のパニック状態に陥っているのかと、自分の感情が分からないまま歩き続けていると、視線の先に駅が見えた為、足を止める。
「・・・何処に行けば良いんだろう。」
慌てて荷物を整理する時、お母さんの荷物から通帳とハンコ、その他現金なども持って来たから、何とかなると思っていたけれど、学生だった私に行き場所なんて見つからない。
駅の目の前で路頭に迷った結果、近くのATMからお金を引き出すことにした。もしかしたら、あの男から通帳を抑えられるかもしれないから。そう、スマホで調べた情報に書かれてあった。社会知識の無い私には、ネットの情報しか頼りに出来るものが無かったのだ。
「寝る場所と最低限の食事、寝床を確保したら買い物、やる事一杯ある。」
気のせいだろうけど、他のことを考えていると、幾分か気分が良くなっている気がする。いつか、思い出してしまうのだろうけど。
目的地に向かって歩いていると、一台の白いバンが横に止まったと思いきや、後ろから誰かに体を掴まれたと同時にバンの扉が開き、無理矢理バンの中に連れ込まれ、口を塞がれてしまった。
「ンンッ⁉ンンッ!!ンッ!!」
ガムテープで塞がれた口から、何とかして声を出そうとしたが無理だった。
バンの中には、ぽっちゃり体系の中年男が二人と、体格の良い男が運転席に居た。そいつらは、こちらを見ながらニヤニヤしていて、体格の良い男は何かをスマホで確認していた。
「特徴は合ってるな。おい、お前が未希だな?そうだよな?あぁ?」
何故か、私の名前を知っている様子の男達だったが、完全にパニック状態になっている私は気が付かず、慌てて頷いてしまった。
私が頷いたのを見ると今度は、男達に小さな声で何かを伝えると、何処かに向けてバンが急発進してしまった。
「ふひっ!ふひっ!!」
「ハァッ!ハァッ、ハァッ!」
不気味な中年男と共に。
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