上 下
18 / 35

アッシュ視点

しおりを挟む
 禁を破って召喚が行われた。

 場所はよりにもよってガリオン王国。神託と宝珠がもたらされた国。世界樹からその情報がもたらされ、俺は祖父である王に命じられ、ガリオン王国に入った。

 この国は500年前に世界の危機が訪れた時、神より召喚の宝珠と術を賜り、喚び出された物達は、見事悪しき存在を消滅させた。が、元の世界に戻れない事を知ると、大いに嘆き、悲しんだ。

 結局その時は神が直々に謝罪し、どうにか落ち着いたものの、独自で研究を続けた者、自身が瘴気を生み出す存在へと至ってしまった者。中には割り切り、こちらの世界で幸せを見つけた者もいたが、二度と自分達のような者を産み出させないよう、どの国でも召喚の技術はこれまでの研究を含めて破棄させられた。

 元々この世界の事なのだから、自分達で解決するのが筋だろうと、全ての国が同意した。

 召喚されたのは、三人と、この世界にはいない猫という動物。
 魔物ではないかと疑われていたが、大人しく、飼い主には従順で、危険はないと判断された。

 王に引き合わされたのは、聖女と大魔法使い。
 けれど、その割には感じる魔力も普通だし、精霊も全く寄り付かない。念の為にボードで鑑定させて貰ったが、称号は確かに聖女。
 しかし人の寝所にまで入り込んで来るような常識知らず。

 もう一人の召喚者は引きこもり等というどうしようもない称号で、会う価値はないと言われたが、生活の保証はしていくと。

 そうは言われても、確認はせねばなるまい。

 しつこく言い寄る聖女から逃げたかったのもあるが、図書室にそのもう一人が良く出入りしていると聞き、そっと様子を見た。同じ年齢だと聞いたが、見かけも素朴で、随分と幼く見えたのは、煌びやかな衣装を纏っていないせいか。

 けれど、多くの微精霊が周囲にまとわりついていて、煩わしくはないのかと思ったが、本人には見えてなさそうだ。

 聖女は確かに召喚された…その事実を嬉しく思いながらも、間違った称号が付いて、称号に付随するスキルも聖女の物ではない。
 気にはなったが、この城を出て行きたい、あの二人からは離れたいという意思を叶えてやりたいと思った。

 猫という生き物も、主人である彼女を守る気でいるみたいだし、もしかすると何らかのスキルが与えられているかもしれない。

 本当ならそのまま聖女に同行したかったが、生憎厄介な案件をこなさなければならない。
 聖女の自覚がない彼女を守護する言い訳も思い付かずにとりあえず、目印を渡して仕事をこなしたら合流する事に決めた。

 本当はそう時を置かずに合流出来る筈だったが、ガリオンの惨状を知り、そちらの対応にも時間を割かれた。

 魔の森が焼かれた割には瘴気が溢れていないのは、この地に少し前まで聖女がいて、精霊が増えていたお陰か。
 それでも、限界は来るだろう…元聖女と魔法使いの娘達は性懲りもなく自分達を助けるように要求してきたけど、犯した罪から考えれば即処刑とならないのが不思議な位だ。
 恐らくは聖女の祈りに期待しているんだろうが、称号が消えた今、効果は期待出来ないだろう。

 主に夜になると消える発信の魔道具の事も気になるが、とにかく距離を縮めなければ。


 久し振りに会った聖女サヤカには驚かされた。この地の守護に付いている聖獣、エンペラーバードアルクを従魔にしていた。
 新たなスキルも得て、規格外の力を持つスキルを持っているのに、本人は至って呑気だ。

 本人は冒険者になりたいみたいだけど、ハッキリ言うと向いてない。
 この世界で、魔物のいない世界で育ったのだから仕方がないとも言えるけれど、短剣すらまともに扱えない。

 まだ、スキルの水を魔法のように扱って戦えるようにするのが現実的か。
 けれど、魔力には限りがある。いざという時、戦う手段が全くないのは不安でしかない。

 いくらチョコ殿やマシロがいるからとはいえ、従魔が入れない場所もある。
 この分だと、最低でも自分の身を守れるようになるまでに何年かかるか…とはいえ、たかだか数年、ハイエルフにとっては僅かな時間だ。
 もし時間がかかるような仕事をしなきゃいけない時は、エルフの里にでも預けるか…
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。

和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)

(完結)記憶喪失令嬢は幸せを掴む

あかる
恋愛
ここはどこ?そして私は… 川に流されていた所を助けられ、何もかもを忘れていた私は、幸運にも助けて頂けました。新たな名前、そして仕事。私はここにいてもいいのでしょうか? ご都合主義で、ゆるゆる設定です。完結してます。忘れなかったら、毎日投稿します。 ご指摘があり、罪と罰の一部を改正しました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

(完結)異世界再生!ポイントゲットで楽々でした

あかる
ファンタジー
事故で死んでしまったら、神様に滅びかけた世界の再生を頼まれました。精霊と、神様っぽくない神様と、頑張ります。 何年も前に書いた物の書き直し…というか、設定だけ使って書いているので、以前の物とは別物です。これでファンタジー大賞に応募しようかなと。 ほんのり恋愛風味(かなり後に)です。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

処理中です...