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目覚めたら5歳
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柔らかい布団の感触と、暖かい日差し。
「お嬢様!スカーレットお嬢様!起きて下さいませ!」
懐かしい…エメルの声だわ。腰痛を患ってお屋敷を辞めたはずなのに…えっ?
わたくし…どうして生きているの?
夢…じゃないわ。あの痛み…血が失われて、とても痛くて、寒くて…どうなっているの?
「エメル?!わたくしは…え?」
小さい?
「お嬢様、お目覚めになられましたか。今日は教会で祝福を受けられる日。お寝坊は出来ませんよ?」
そんな…まさか!
「エメル…鏡、を」
エメルはすぐに手鏡を渡してくれた。
ふわふわの赤毛。金の瞳は気の強さを表しているかのように、目尻が上がっている。
間違いないわ…5歳の頃のわたくし。しかも祝福の儀式の前なら、まだ婚約前だわ…
何故時が戻ったのかは分からない。でも今からなら、やり直せるはず!
「では、お着替えをしましょう」
数人のメイドが、事前に用意した赤いドレスを持ってくる。
「そのドレスは子供っぽいわ。フリルも多いし。悪いけど、クリーム色のドレスに替えて頂戴」
「よろしいんですか?昨日まであんなに喜んでいらしたのに」
「だってわたくしは、もう祝福前の子供ではないのよ。これからは清楚に行きたいの」
「そうですね。こちらもとてもお似合いですね」
前回はいつもきつい色のドレスばかりだったけど、今回は強くあらねばならない訳じゃない。
ほら。こっちの方が本来のわたくしらしいわ。
公爵令嬢である事に変わりはないけれど、もうアベル様と婚約しないし、これでいいのよ。
階下に降りていくと、お父様とお母様も驚いてらした。
「折角今日の為に用意したドレスだったのに…でもいいわ。殿下のお誕生日パーティーで着ましょうね!」
「いいえ。わたくしは、イメージチェンジをしましたの」
まずいわ…殿下の誕生日パーティーで婚約が決められてしまうのよね…何とか回避出来ないかしら。
「どんなドレスでもスカーレットは最高に可愛いよ!」
お父様は手放しで褒めて下さる…でも、卒業式の日に戻らなかったわたくしを二人共探して下さらなかったのよね。
祝福の儀式は、粛々と行われた。特に何もなかったけど、これを利用出来ないかしら…
帰りの馬車で、わたくしは思い切って切り出した。
「実はわたくし、殿下のお誕生日パーティーに行ってはならぬと天啓を受けたのです」
教会では希に天啓を受ける事があるというし、言い訳にもなる。
「そんな…でも、個人的にお祝い申し上げた方が印象に残るわね」
「お母様は…わたくしと殿下が婚約する事を望んでいらっしゃるの?」
「ベイド公爵家から第一王子の婚約者が出たのだし、それに入り婿になってくれる高位子息なんて、そうはいないのよ」
「でもわたくし、殿下の婚約者になると身を滅ぼすと天啓を受けたのです!」
「スカーレット!いい加減になさい!」
「いいじゃないか、サリア。スカーレットが婚約するなんて、まだ早過ぎる」
「駄目よ!そんな呑気な事を言ってたら、他の令嬢に取られてしまうわ!」
「サリア、別にアベル殿下に拘る事はないだろう。ウチにとって大したメリットになる訳でもなし」
「そうなんですの?」
「まあ…過去にも王妃を輩出した事もあるし、公爵家として磐石な地位にいる訳だし」
「駄目よ!スカーレットはアベル殿下と婚約するの!」
「…サリア、側妃様と何か約束でもしたのかい?」
「べ、別に…でも、最高の相手である事は確かだわ」
前回の人生で知れなかった事が何かあったのかしら。
考えてみたら、王になると宣言した時の殿下…やけに自信たっぷりだったわ。
そもそもがわたくしは公爵令嬢。しかも一人娘だ。それを勝手に処分したとなると下手をすると内乱、国の危機にもなり得る。
そもそも陛下がお倒れになったのだっておかしな話だわ…わたくしは、何も知ろうとしなかったのね…
「お嬢様!スカーレットお嬢様!起きて下さいませ!」
懐かしい…エメルの声だわ。腰痛を患ってお屋敷を辞めたはずなのに…えっ?
わたくし…どうして生きているの?
夢…じゃないわ。あの痛み…血が失われて、とても痛くて、寒くて…どうなっているの?
「エメル?!わたくしは…え?」
小さい?
「お嬢様、お目覚めになられましたか。今日は教会で祝福を受けられる日。お寝坊は出来ませんよ?」
そんな…まさか!
「エメル…鏡、を」
エメルはすぐに手鏡を渡してくれた。
ふわふわの赤毛。金の瞳は気の強さを表しているかのように、目尻が上がっている。
間違いないわ…5歳の頃のわたくし。しかも祝福の儀式の前なら、まだ婚約前だわ…
何故時が戻ったのかは分からない。でも今からなら、やり直せるはず!
「では、お着替えをしましょう」
数人のメイドが、事前に用意した赤いドレスを持ってくる。
「そのドレスは子供っぽいわ。フリルも多いし。悪いけど、クリーム色のドレスに替えて頂戴」
「よろしいんですか?昨日まであんなに喜んでいらしたのに」
「だってわたくしは、もう祝福前の子供ではないのよ。これからは清楚に行きたいの」
「そうですね。こちらもとてもお似合いですね」
前回はいつもきつい色のドレスばかりだったけど、今回は強くあらねばならない訳じゃない。
ほら。こっちの方が本来のわたくしらしいわ。
公爵令嬢である事に変わりはないけれど、もうアベル様と婚約しないし、これでいいのよ。
階下に降りていくと、お父様とお母様も驚いてらした。
「折角今日の為に用意したドレスだったのに…でもいいわ。殿下のお誕生日パーティーで着ましょうね!」
「いいえ。わたくしは、イメージチェンジをしましたの」
まずいわ…殿下の誕生日パーティーで婚約が決められてしまうのよね…何とか回避出来ないかしら。
「どんなドレスでもスカーレットは最高に可愛いよ!」
お父様は手放しで褒めて下さる…でも、卒業式の日に戻らなかったわたくしを二人共探して下さらなかったのよね。
祝福の儀式は、粛々と行われた。特に何もなかったけど、これを利用出来ないかしら…
帰りの馬車で、わたくしは思い切って切り出した。
「実はわたくし、殿下のお誕生日パーティーに行ってはならぬと天啓を受けたのです」
教会では希に天啓を受ける事があるというし、言い訳にもなる。
「そんな…でも、個人的にお祝い申し上げた方が印象に残るわね」
「お母様は…わたくしと殿下が婚約する事を望んでいらっしゃるの?」
「ベイド公爵家から第一王子の婚約者が出たのだし、それに入り婿になってくれる高位子息なんて、そうはいないのよ」
「でもわたくし、殿下の婚約者になると身を滅ぼすと天啓を受けたのです!」
「スカーレット!いい加減になさい!」
「いいじゃないか、サリア。スカーレットが婚約するなんて、まだ早過ぎる」
「駄目よ!そんな呑気な事を言ってたら、他の令嬢に取られてしまうわ!」
「サリア、別にアベル殿下に拘る事はないだろう。ウチにとって大したメリットになる訳でもなし」
「そうなんですの?」
「まあ…過去にも王妃を輩出した事もあるし、公爵家として磐石な地位にいる訳だし」
「駄目よ!スカーレットはアベル殿下と婚約するの!」
「…サリア、側妃様と何か約束でもしたのかい?」
「べ、別に…でも、最高の相手である事は確かだわ」
前回の人生で知れなかった事が何かあったのかしら。
考えてみたら、王になると宣言した時の殿下…やけに自信たっぷりだったわ。
そもそもがわたくしは公爵令嬢。しかも一人娘だ。それを勝手に処分したとなると下手をすると内乱、国の危機にもなり得る。
そもそも陛下がお倒れになったのだっておかしな話だわ…わたくしは、何も知ろうとしなかったのね…
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