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領主交替と、最後の精霊

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    マルクト元領主が、味方だったはずの兵士達に捕らわれ、親子共々ロストマルの町にやってきた。

「あ…!お、お前のせいで儂ららは…!くっ!今すぐ儂らを元の地位に戻すよう、住民に言い聞かせろ!」
    酷い!子供を人質に使うなんて!
「ほら、早くせんか!大切なロストマルの住民を傷つけたくはないだろう?」

「私は別に、贔屓をしていた訳じゃない。怪我を治す力があるから治しただけだし、お腹が空いていたら、持っている物を分けるのは当たり前でしょう?結界碑を一時的に止めたのは、兵士が横暴だったから。私、何も特別な事はしてないよ?」

「ロストマルの奴らにばかり色々としているだろう!」
「だから、さっき説明したじゃん?それに、マルクトの人達は困ってなかった。町を覆う魔物避けは作ったし、温泉はこれからって考えてた。空き地がないから難しかったんだよ」

「それを町の者達に説明しろ!」
「嫌。脅されてやった事で、この先、町の住民が言う事を聞くとでも?…苦しいでしょう?ここには呪いがかかっているからね。その子を放して!」
「くうっ…!ならその魔法の板をよこせ!儂こそが神だ…儂な仇なす奴らには制裁を喰らわしてやる!」
「先にその子を離して。…ほら」
    スマホを投げると、慌てて子供を離して飛びついた。

「な…!何も出来ないではないか!偽物を寄越すとは、卑怯な…」
    どっちが卑怯なんだか。
    癒しをかけて、子供は逃がした。

「くっ…!」
    捕まえようとしてくるけど、大人しくしてる訳ないじゃん?
    蔓の鞭で捕えた。
「見苦しいですよ、ゲルト殿」
「お前は…!儂のコレクションを台無しにした奴!」
「おや、名前も覚えていませんか。まあいいです。これからは同じ立場になりましたし、ここにいる者は農作業が仕事です。仕事が遅れたら、罰を受けますよ?」

    ここでは見なかったタイプの人だな。
「あなた、お名前は?どうしてここに?」
「…その緑の髪と、銀の瞳…貴女がホトス様の使徒ですか?」
「まあ、それは置いといて」
「失礼しました。エルシスと申します。元領主の下で財務管理をしておりました」
「ふうん…なら、何も知らない人より仕事は出来そう…ね、エルシスさん、ロストマルの住民を犯罪者と考えないで、対等に仲良く付き合って行くとしたら、どうしたらいいかな?」

「そうですね…労働の対価は勿論払わねばならないでしょう。急に同じ水準まで上げるのは難しいですが、元領主の館には、多くの資産があります。一時的になら…野菜作りをする方の為にも家を建てねばなりませんから」
「よし決めた。エルシスさんが次の領主になって?」

「…は?いや…無理ですよ、私など…ゲルト殿の末路を知って、嗤いに来たような者ですよ?」
「うーん。許す!パワハラされて辞めさせられたなら、多少恨んでも仕方ないし!」
「ぱ…ぱわ?」

「後はこれからの様子を見て判断する。もし本当に嫌なら、次の適任者を選んで」
「え…ええと……」
「そんな事は許さんぞ!」

「もう、言う権利ないからね?これ以上グダグダ言うなら、違う呪いをかけるよ」
    まあ、それは嘘だけど。
    でも、大人しくなった。

「さて、エルシスさん…ううん、マルクトの領主さん、行きましょう。周知させないと」
「は…はい…」

    私が一緒に行った事も大きかったのか、エルシスさんが次の領主として認められるのは早かった。

「使徒様に指命されましたが、領主としてやっていけるかは自信がありません。なので、ダメ出しはいつでも受け付けます」

「もう、犯罪者扱いはだめですよ?同じ住民です。もしも、この中で農業をやりたいと思う方は、あちらに住居も用意する予定があります。考えてみて下さいね。私に対する要望は、エルシスさんまでお願いします」
「そ…それも任されるのですか?」
「大丈夫。あ、温泉は予定としては2ヵ所に作ります。魔法も教えていくつもりなので、皆さん頑張りましょう!」

    西門と東門を出てすぐの所に作ろう。充分に結界碑の範囲内だし、どんな形にすればいいかは他の町で学んでいる。

    温泉を作り、魔法教室を開き出してから、夢現ポイントがぐっと上がった。
    今は各町に教えつつ海ダンジョンで海の幸を…んんっ!レベル上げを頑張っている。

    大きなマグロが、まるでサメのような歯で噛みついてくる。そして、爆弾を飛ばしてくる…いや、その爆弾はどこから?
    ううん!そんなのどうでもいい!お刺身食べたい!大トロ食べたい!
「えへへ…」
    あ、みんな引かないでー!欲望駄々漏れ?いや、仕方ないでしょう!だってマグロだもん!

    爆弾も怖いけど、尾びれの攻撃も怖い。当たったら、色々と失くなりそう…ヒヤッ…っぶな…マグロがバランスを崩さなかったら、危なかった…
    よし!仕留めた!
    でも…この不自然な動きとか、何度も見た。かすかに精霊の気配も残っているし。

「あなたは誰?もしかして、精霊のまとめ役の原子の精霊?」

「あははー。やっと分かった?もう、遅いよ!見つけてくれるの待ってたのに!」
    青年の姿で現れたのは、確かに人とは違うけど…
「僕はアトム。扱う属性は何もないけど、契約する?」
    …って、裸パンツで空飛ぶ?

「したくない…とか?」
「ううん。ただ、持続するのに結構な魔力がかかる」
「でも、いきなり空になったりはしないでしょ?」
「それはない」
「なら、お願いします…っ!いきなり何するのっ!」
    いきなりキスされた!私のファーストキスだったのに…!

「何って、契約。最初の魔力交換だけど?」
「で、でも…キスなんて。女の子には大切な物なんだよ?!」
「んー…なら、お詫び」
    アトムが手を一振りすると、ダイヤ?が、キラキラっとたくさん落ちてきた。
    ミカルが興奮して拾ってるけど、それって炭でしょう?
「あれ?女の子はこういうの好きだと思ったんだけど」
「原子を操る力は凄いと思うけど…私は別に」
「なら、こっちの方がいいか」
    あ!衝撃吸収のついた防具が!

「これ…ミスリル?」
「そう。魔力との相性も抜群で、皮鎧とは比べ物にならない位の防御力!」
「…ありがとう…でも、キスの事を許したりはしないよ?」
「うーん…単なる契約なんだけど。そこに性別とか関係ある?」
「え?…じゃあアトムは、私が男の子でもしたの?」
「うん。…ならミノリは、トーラス様が女性だったら再生なんてしなかった?」
「いや…そういう問題じゃ…」
「そういう問題だよ。僕にとってはね」
「…分かった。納得する」

    何を言っても無駄な気するしね。価値観の相違だね。




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