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スマホ農園の管理者と、大人をダメにする階層

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    不思議な夢を見た。
    どこまでも続く白い世界。ああ、ここは神様の世界なのかと思って、懐かしくて、走ってアルミネア達を探したけど、どこにもいなくて。
    悲しくて泣いたら、眷属達がいて。
    私は大丈夫。一人じゃない…


「ん…」
    ぴったり寄り添う、もふもふ達。
「…あれ?」
    何だっけ?久しぶりに夢を見てた気がするけど、忘れちゃった。
    仰向けに寝ているシュガーのお腹を撫でて、ランスの首の毛に顔を埋める。
    顔を背中の羽根に入れて寝てるフレイムもついでに撫でて、ベッドの隣を見ると、アロカシアが長くなって寝ていた。

    幸せの光景だ。しみじみと、幸せを感じる。
    まだみんな、起きるには早い時間だ。
    そうだ…大量に作ったベーコンやハムを回収してこないと。

    スマホのゲームアイコンをタップしたけど、いつものように移動しない?!え…何で?
    ゲームの中に入るんだ!と、強く思ってもう一度タップしたら、魔力でないもう一つの力…ダンジョンコアも言ってたし、神力と呼ぼう…その力が働いて、中に入る事が出来た。

「メタル、何か…変じゃない?」

(そうですね…中に満ちる力が主様のもの…けれど、これはむしろ自然な事なのでは?ここは主様だけの空間で、他の神の力が満ちている方が不自然かと)

    考えてみればそうだよね。ここの恩恵を受けているのは間違いなく私なのだから、いい加減、親離れして、自分で管理するのが当たり前だ。

    そこからは開き直って、いつもの作業をした。
    問題なくハムもベーコンも出来ているし、変わりはない。
    ここの閉じた世界は、1ヵ所だけ違う所に繋がっている。

    そう…出荷箱だ。神様達それぞれに手紙を書いて、…今までのように、会いたいとか、それだけではなく、頂いた力に感謝と、これからも頑張る旨を書いて、それぞれの好物と思われる物を添えて出荷した。

    主食から野菜、果物まで…何でも手に入る。魚は居るけど、肉になる魔物だけがいない世界。
    ゲームでもそうだったから今更違和感はないけど、眷属達には物足りないだろうな。

    起きて、いつも通り時間が経ってない事にちょっとほっとした。そこはそういう風に作られた世界だから、それをそのまま引き継いでいるのだろう。

「メイ、今日も早いの」
「うん…あ、朝ご飯はけんちんうどんだよ。お昼用のサンドイッチもたくさん作ったんだ」
「嬉しいの!」

    さて。今日からまたダンジョン攻略だ。
    23階層、魔物はグリーンタートルだ。やっぱりこの世界の亀は空を飛ぶのね…でも、普段の飛び方は、超低速飛行で、低空飛行だ。…私みたい。
    甲羅は防具に使用されるだけあってそれなりに強度はあるけど、このオリハルコンの剣には勝てないのさ。
「甲羅のドロップアイテムは…嫌がらせレベルの大きさだね」

「収納の手段がなければ、誰も持ち帰ろうとは思わないだろうな…だが、肉は魅力的だ」
    確かに、亀鍋は美味しい。
「よし!今夜は亀鍋だよ!」
「おおっ!」
    やる気に満ちた眷属達と共に、亀狩りに勤しんだ。

    甲羅6割、魔石1割、肉3割位かな。甲羅は数枚はギルドに売って、あとは他のダンジョンの栄養にするつもりだ。

    それでも何とか二回分位は集められたかな。勿論野菜でかさ増しは必要だろう。
    こんなに美味しい階層なのに、私達しか冒険者がいない。レア物がないのかな?レアをお金に変える事も必要だろうけど、美味しい物を食べる事も大切だよね?

    途中休憩を挟んで、午後まで狩りを始めた眷属達。
「そんなに好き?」

「みんなで食べられる所がいいの。でも、食べたい物はすぐに失くなるから、鍋は戦いなの」
    んー。私は最初に器に移したのだけで大概お腹いっばいになっちゃうからな…

    見てて面白いなとは思うけど、あの争奪戦の中に入ってくのは大変だと思う。

「この階層は人気ないみたいだし、また来よう?それか、亀…じゃなくて、グリーンタートルの生息地を調べよう」
「その方が、全て食せるか」

    24階層は、罠だらけの階層だ。なのに人の気配が多く感じられるって事は、何かあるんだろうな。
    罠はシュガーが見つけてくれる。罠だけじゃなくて岩などの障害物も多いこの階層は、進むだけで大変だ。

    フロアの中程に、拳大の石が飛んでくる仕掛けがあって、バッティングマシーンのように、前に立つと石が飛んでくる。

    上手く武器を当てないと、地面に落ちると爆発する。
「こんな危険な仕掛けなのに、みなさん腕試しですか?」
「いや、運がいいとスキル球が飛んでくるんだ。まあ、それを斬ってしまったら結局スキルは手に入らないんだが、中には高額で買い取ってもらえるレアスキルも入ってるって噂だ」

    レアスキルか…欲しいスキルがあるなら、努力して手に入れるべきだけど、売るのが目的なら一攫千金を狙う人も多いのだろう。
    それに、挑戦しているだけで、見切りのスキルは手に入りそうだ。私達はみんな持ってるけど。

「回転率はいいみたいだし、やってみる?」
「そうだな。何か良い物が手に入るかもしれないし」
「もし、スキル球が出たらどうするの?」
「それは勿論、受け止めるんだ。ビギナーズラックで何か出るかもしれないな」

    幸運ね。スキルはもう使い切れない程持ってるし、私自身は…眷属の誰かに使えるスキルが取れたらいいな。

    眷属達は全て爆発する石だった。そう簡単には出ないよね。私の番になって、眷属達が守ってくれるけど、あれ位なら対処出来るんだけど。
    石…じゃない!飛んできたのは桃だよ!
「果物が出てくるなんて…!凄い仕掛けだね!」
    同じように5個程で止まった。

「みんなで食べようよ!」
    丁度5個あるし、みんなで一つずつだ。

    トロリと蕩ける甘さ…丁度喉渇いてたし、疲れに甘い物は必須だよね?

「は…本物の果物が出る時もあるのかよ。しかも全部」
「え?どういう意味ですか?」
「ダミーで、果物そっくりの石が出たりもするんだけど、それは只の石で、無価値が普通だ」

    冒険者の人達は呆れている。スキル球が出た訳でもないのにそんなに喜ぶなよ…なんて言ってる人もいる。

「じゃあ、大好きな果物が出てラッキーだったんだね!」
「そりゃ、良かったな」
    明らかに生暖かい目で見られているな…
(これは、明らかに意図された物だな)

    ヤブランの言葉に、はっとする。

    看破    桃    美味しい果物

    いや、普通に桃じゃん?ヤブランのは違うの?  

    看破    魂進化促進の果実   

    慌ててみんなが食べている物も看破してみたけど、私だけ普通の桃みたい。
    鑑定を持っているのはヤブランだけだから、みんな只の桃だと思ってるんだ。

(どうしたにゃ?)
(ええと…美味しかった?)
(美味しいにゃー?シャーベットにして食べたのを思い出すにゃ)
「また、色々な果物をシャーベットにして食べようね!」

(ヤブランは、どういう事か分かる?)
    いつものグループ念話ではなく、個人に向けて話してみる。
(我には分からん)
    あ、そ…

    まあいいや。桃美味しかったし。食べたければ収納庫に入ってるけど、1個でいいや。

    気になったから種は回収して、育ててみようかと思ったけど、三年かかったら嫌だな…

    この場所はフロアの中程だから、まだ先はある。
    みんな、シュガーに助けられずとも進めるように頑張っている。

    私だけちょっと簡単だけどね。矢が飛んでくる仕掛けがあるけど、大人の胸の位置だから、わざわざ避けなくても頭上を通過する。たまに軌道を外れる物もあるけど、躱すのは余裕だ。

    よし!25階層への階段を見つけた!
    桃の疑問は、25階層への期待で、綺麗に忘れてしまった。

「わ…綺麗…」
    満天の星空の下、蔦が絡まる壁は、古代の神殿を思わせる。

「っ…と。油断は禁物だね」
    漆黒の毛並みの、ナイトパンサー。夜行性で、昼間に活動する事はないから、私にとっても初見の魔物だ。

    闇魔法持ちか…でも私達にバットステータスを付ける事は不可能だよ!
    ドロップアイテムの漆黒の毛皮は、しっとりすべすべで、触り心地がいい。

    …え?でも食べられる魔物の階層じゃないの?
「主っ!」
    結界で対応する前に、ヤブランが防いでくれた。

    シャドーオウル。闇の中活動する魔物で、気配も薄い。
    そして、ドロップアイテムは、何故か塩味焼き鳥。…まあ、焼き鳥は夜の食べ物ってイメージだけど…

    うねりながら近付くウツボカズラが液体を吐き出した!
    この匂い…アルコール、だね。

    ドロップしたのは、カップに入ったお酒…子供には嬉しくない階層だね。

     冒険者の数は結構多い。しかもみんな酔ってる。緊張感ないな…
    そのせいか、怪我する人も多そうだ。
    料理酒としてなら利用できるかな?…って、みんな飲んじゃダメだよ!
「大人の味にゃー?」
「ふわふわするのー」
    フレイムが、鳥だけに千鳥足になってるけど、魔物には対応出来ている。
「子供は飲んじゃダメなの!」
「それなら、メイだけ飲んじゃダメなのー?」
「フレイムだって子供じゃん!」
    一番年下…は、ヤブランか。でも、平然としてる。空気吸ってるだけで酔いそうなのに。

    状態異常無効はどうなってるの!
    検索すると、酔い過ぎない効果はあるけど、酔う感覚はあるそうだ。まあ、でないと大人になったら楽しめないからかな?

「ランス、待て!」
    陽気に走り出したランスを止めて、対策を考える。

「我が結界を張っておくか?」
「そうだね…じゃないと、次に進めなくなりそう」

    最初から私は、アルコールを吸わないように空気飴を舐めて、息を止めていたから、影響はない。

「ヤブランは平気なの?」
「長時間浴び続ければ問題かもしれないが」
    みんなダメそうだったら、変化させたメタルに手伝ってもらえばいいかな。

    もう…折角の5のつく階層なのに、あんまり嬉しくない。
    この星空だけかな…食べられなくても、この景色だけで充分価値はある。

    珍しく頼りないもふもふ達を連れて、25階層を後にした。


    
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