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342話

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卒業式の当日。

「なんだか、今年は色んなことがありましたわね」

そう呟くように言ったのは私の腕をしっかりと掴んでいるエリザベート様ですわ。

今は卒業式の前の待機時間、ということで、それぞれが友人との最後の挨拶をしている真っ最中で、私は当たり前のようにエリザベート様とカイン様の2人に挟まれていますわ。

まぁ、私もカイン様達も学園の中で仲良くしていた人はいない方ですし、挨拶に来ても今後の関係を良くしたいと思っている人ばかりですからね。

こうなってしまうのはわかりきっていたことですが.......流石にエリザベート様に腕を掴まれてしまうのは想定外でしたわ。

なんて思っていると、エリザベート様の呟きに対してカイン様は

「まぁ、どれもセリスティア嬢関係のことだが」

苦笑しながらそう言ったので、こればかりは

「本当にお騒がせいたしましたわ」

と謝罪せずにはいられず、椅子に座ったまま軽く頭を下げましたわ。

すると、そんな私を見たカイン様は少し慌てたように両手を横にブンブンと振りながら

「いや、おかげで暇をしない1年だったし、兵士の育成する施設も目処がたったからな」

そう言って何とも言えないような表情をしましたわ。

兵士の育成施設、というのはその名の通り兵士たちを育成するための場所なんですが、貴族平民、年齢問わず入学することが出来る、学園のような場所なんですの。

ここ最近、国の兵力が落ちてきていると思っていた陛下が数年前からずっと考えていたことなんですって。

どのような施設が出来上がるのか、今から楽しみですわよね。

なんて思っているとエリザベート様は

「でも、まさかあの領地の全てを施設にするとは思いませんでしたわ」

と苦笑しましたわ。

というのも、エリザベート様の言うあの領地、というのは元叔父様が必死に頑張って経営をしていた子爵家の領地なんですが、なんでも税金が払えなくなってしまったので国に取られてしまったんですって。

領地を経営していて、税金を支払わないとどうなるか、考えなくても相当マズイ事になるのに、本当におバカさんですわよね。

ですが、おかげで国の役に立つんですから最後にいいことをした、と思ってもいいんでしょうか?

そう思いながら、苦笑するエリザベート様に

「まぁ、領地を取られた人からすると散々だと思いますけどね」

と言うと、2人とも確かに、と頷きましたわ。

あぁ、領地は国に返還されたとはいえ、領民たちの生活はしっかりと保証されていますわよ。

確か、お店はそのまま施設内で経営してもいい事になっているので撤去の必要はなくて、住宅だけは他の領地に移す、という話になっていると思います。

しかもどこの領地に行きたいのか、自分たちで希望を出すことが出来るらしく、子爵家から王都に引越しをした人も居たみたいですわね。

領民からすると、ありがたい話でしかありませんわよね。

ただ、それは領民の話ですからね。

あのおバカさん2人と叔父様はどうなったのか......。

気にはなっていますが、情報が入ってこないので全く分からないんですのよね。

一体何をしているんでしょう?


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