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308話
しおりを挟む私には逃げるところがある、ですか。
確かに私がその気になったら隣国にいる伯父様たちを頼って、この家を捨てることも出来たと思いますわ。
それか、別に隣国に行かなかったとしても陛下に言ってどうにかしてもらうことも可能かもしれません。
ですが、それは今までお父様とお母様のおかげですわ。
お父様が陛下といい関係を築いていたから、お母様が伯父様や伯母様を家族として大切にしていたからこその今ですわ。
何もしていない叔父様に何もないのは当然じゃありませんか。
まぁ、叔父様はそんな簡単なことにすら気付いていないでしょうけどね。
そう思いながら、縋るような目で見て来る叔父様に対して
「それは離婚する時にわかっていたことでしょう?そんな理由でこの家を乗っ取ろうとするなんて頭がおかしいのでは?」
見下ろすようにそう言うと、
「くっ……」
と言うだけで、何も言い返してきませんでしたわ。
いや.......ただ単に言い返せないだけなんでしょうけどね。
なんて思いながら叔父様に
「叔父様が心の底から反省をし、今までの事を謝罪してくれるなら、おじい様たちが隠居していたお屋敷が空いているのでメイドを……とも考えましたが」
と言うと
「そ、それは本当か!?」
急に顔をパァッと明るくさせて顔を上げましたが、そもそも自分の父親たちが住んでいたところなのに、お屋敷の存在を知らないんでしょうか?
ですが、お父様のおじい様.....私からするとひいおじい様だってそこに住んでいたはずですわよね?
もしかして、忘れていた、とかでしょうか?
なんて思いながら、さっきとは一変して表情を明るくしている叔父様に
「今起こったことと、メイド長達への態度を見て気が変わりましたわ」
ハッキリとした口調でそう言いましたわ。
これに関しては当然ですわよね。
この家で働いているメイド達だって、私からすると家族のようなものですわ。
その家族を相手に、傲慢な態度をとって.......それでいて、何も出来ないくせにこの家を乗っ取ろうとした相手に情けなど必要ありませんわ。
叔父様は
「そ、そんな……こ、これは気の迷いで……俺だってこんなことはしたくなかったんだ……!」
と必死な形相で言っていますが今更になってそんなことを言っても遅いですわよね。
こんなことをしたくなかった、と言っていますが、叔父様の言葉や行動を見ていると完全にノリノリだったではありませんか。
なので、私の足にしがみついてこようとする叔父様を冷たく見下ろして
「そんなこと知りませんわよ」
と言って、もう話すことはない、とでも言わんばかりに背中を向けましたわ。
踵を返した私の後ろをユーリ達メイドがついて来てくれているのを確認して
「メイド長、申し訳ないんだけど今運ばれた荷物を全てお屋敷の外に出してもらうよう指示を出してもらってもいいかしら?」
と声をかけると、メイド長は待っていました、とでも言わんばかりに腕をまくって
「もちろんです」
と答えてくれましたわ。
それが聞えたのかどうかわかりませんが、私の背中に
「お、俺はどうなるんだ?さっきも言った通り行くところなんてどこにも……」
という叔父様の声が聞えてきましたが、そもそも自分よりも一回り以上年下の私にそんなことを聞くこと自体おかしい話なんですのよ。
自分でも離婚するときに考えるのが当たり前だとは思いませんか?
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