婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜

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61話 ブレイドside

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父上が立ち去った後の温室は何とも言えない空気が漂った。

それほどまでに、父上が苛立っている、ということは皆に伝わった、ということだ。

たった1人を除いては。

「ジオルグ様のお父様はなんであんなに怒っていたのかしら?」

本当にわかっていないらしく、アンナ嬢はキョトンとした顔をして頬に手を当てていた。

はぁ.....状況も理解できないのか。

これが公爵夫人になるなんて無理な話だな。

もしかしたら、今頃婚約がなかったことになるように父上が動いているだろう。

そうなったら俺は一生結婚出来ない、ということか........。

そう思っていると、急にアンナ嬢が

「父上!もう話は終わったし、ジオルグ様と2人で話がしたいわ!」

と言って自分の父親を温室から追い出したではないか。

2人?

俺とアンナ嬢ってことだよな?

話がしたいって、一体何を話せばいいんだ?

と俺が戸惑っているうちにもビューリア伯爵はアンナ嬢をおいたまま温室を後にしてしまった。

後ろに我が家のメイドがいる、ということはきっと馬車まで案内しよう、ということだろう。

そう思いながらビューリア伯爵の後ろ姿を見送っていると、急にアンナ嬢が

「ジオルグ様って、本当にカッコいいですわぁ~」

と言いながら、流れるように俺の膝の上に座ってきた。

まだ婚約はしていないのに、こんな行動はあり得ないことだった。

だから

「アンナ嬢、流石にそれはおかしい」

そう言って、俺の膝の上から降ろそうとした時だった。

後ろの方から

「お兄様!」

という聞き覚えのある声が聞こえてきた。

これには驚いて、アンナ嬢を降ろすことも忘れて

「シャル、違うんだ......っ!」

とシャルに説明をしようとしたが、

「近寄らないでくださいませ」

そう言ったシャルの顔は今まで見たことがないくらい顔をしていた。

俺のことを軽蔑したような、そんな顔だ。

別に何かをしていたわけでもないし、説明すればシャルならわかってくれると思っていたのに、帰ってきた答えは明らかに拒絶だった。

そのことにショックを受けて固まっていると

「えぇ~?何もしてないですわよ?」

そう言ったときのアンナ嬢の顔は、まるでシャルに対して喧嘩を売っているような、挑発している顔をしていた。

本当にやめてくれ。

何もしていない、ということは合っているがそんな顔をしていると何かあったけど何?と捉えられても仕方がない。

シャルの

「だったら今すぐにそこから降りてくださいな。気持ちが悪いですわ」

という言葉のおかげでアンナ嬢は膝から降りてくれたが、絶対にシャルは勘違いしている。

こんな状況では俺に対する印象が最悪じゃないか。

そう思って必死にシャルに説明しようとしても聞いてもらえず、諦めかけている時にアンナ嬢が喧嘩を売るようなことをシャルに言うものだから本当にため息が止まらない。

はぁ......俺にどうしろって言うんだ。

そう思っているとアンナ嬢と言い合っていたシャルが

「お兄様は所詮一代限りの当主でこの家の本当の娘は私だけです。お兄様よりも私の方が立場的に上ですわ」

と言ったのが聞こえてきた。

いや、確かにシャルの言っていることは合っている。

合ってはいるが、父上とシャル、2人から俺はこの家の子供ではない、という現実を見せられたような気がして、胸にナイフのようなものがグサッと刺された感じがした。

シャルの言葉にショックを受ける資格なんてないし、わかっていることなのに..........。

最後にシャルは

「お兄様の顔も当分見たくありませんわ」

と言って温室を後にしたが、俺の頭の中にはシャルが言った言葉がずっと残っていた。

本当の娘、俺は本当の息子ではない。

そのことがこんなにも傷つく言葉だったとは思ってもいなかった。

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