婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜

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57話

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頭を抱えているお父様は心配ですが、とりあえず私がいたら考えることも集中できないだろうと思って執務室を後にしましたわ。

お父様いわく、まだアンナ様がいる、とのことだったので様子を見に行こうと思いましたの。

正直、心境としては見たいような、見たくないような、という感じですわよ?

ですが、お兄様がもしアンナ様に現を抜かしているのであれば、とてもムカつき........いや、家を任せることは出来ませんわ。

そう意気込んで温室に向かうと、まだ温室に到着していないのに

「ブレイド様って素敵ですわぁ~」

という甲高い声が聞こえてきました。

これは.......

自然と歩く速さが上がりますわ。

だってなんだか嫌な予感がしますもの。

心臓の音が響き渡ってしまうのでは?と思うほど大きくなっていますわ。

お兄様に何もなければいいんですが...........。

「お兄様!」

私がそう言って温室に駆け込むと、

「しゃ、シャル!?」

と驚いた顔をしているお兄様と、キョトンとした顔をしているアンナ様であろう人がいますわ。

でも、ただいるだけなら良いんですの。

アンナ様はお兄様の膝の上に座って、顔を近づけていたんですわ。

あまりにも衝撃的な出来事で固まっていると

「シャル、違うんだ......っ!」

とお兄様が私に近付いてこようとしましたわ。

でも、今のお兄様はなんだか汚く思えて

「近寄らないでくださいませ」

と冷たく言い放つと、しゅんとした顔をして黙ってしまいましたわ。

なんですの?

お兄様が他の令嬢と、こんなことをした、というのも驚きですが我が家の温室で、と考えると急に温室すらも汚れてしまったような、そんな気がしますわ。

お兄様とアンナ様に

「そんな汚い手で触れないでくださいな。それから、私の家で何をしていますの?」

そう言って睨みつけると

「えぇ~?何もしてないですわよ?」

となんだか余裕そうに微笑むアンナ様にもまた腹が立ちますわね。

こんな姿を見られて、普通の令嬢なら恥ずかしくて顔を真っ赤にする、くらいのことですわよ。

それほどまでに男慣れしている、ということなんでしょうか。

そう思いながら

「だったら今すぐにそこから降りてくださいな。気持ちが悪いですわ」

というと、なんだか不服そうですがアンナ様はお兄様から降りました。

一方、お兄様はというと、アンナ様が下りた後も石像のように固まっていますわ。

私にこんな姿を見られた、という衝撃だったんでしょう。

なんとなくその気持ちはわかりますが、

「まさか温室でそんなことをするなんて......お兄様には幻滅しましたわ」

あえて冷たくそう言うと

「だ、だから別にやましいことは.........」

やっと石像から戻ったお兄様が何か言おうとしましたわ。

ですがそれよりも先に

「やましいことがなく、女性を膝に乗せたんですのね」

と私が言うと、言い返す言葉もないのかだんまりしてしまいました。

それにしても、こんな阿婆擦れのような人がこの家の夫人ですか。

フレッド様から話を聞かなくても、婚約はなかったことにして欲しいですわね。
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