婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜

文字の大きさ
上 下
52 / 89

51話 ブレイドside

しおりを挟む

この家に引き取られてすぐの時のこと。

シャルロットは元々兄弟というものに憧れていて、急に来た俺のこともすぐに兄として慕ってくれるようになった。

俺もそのことが嬉しかったし、最初はこの家の息子として生きていくことについて不安しかなかったけど、シャルロットの屈託のない笑顔を見ているとそんな不安もどこかに吹き飛んでいくような、そんな気がした。

妹は可愛い。

父上も母上も優しい。

従者たちも急に来た俺のことを元々この家の息子だったかのように接してくれた。

これ以上、何を望むことがあるのか、と思うほどに恵まれた生活だった。

屋根裏部屋のようなところに押し込まれるわけではないし、必要な勉強もしっかりとさせてもらえる。

急にいなくなった本当の父上たちのことを忘れるのは無理だけど、今はもう顔も思い出せないくらいには記憶が薄れてしまっている。

でも、それを悲しいと思ったこともなかった。

それほどまでに、しっかりと愛情を注がれて育てられた、と自分でもわかっているからだ。

でもやっぱり、俺のことを面白く思わない奴もいた。

急に伯爵から公爵に来て、しかも息子として扱われている、だなんて当たり前だ、と思ったから

「お前が公爵当主になれるわけがないだろ!」

という声も

「どうせ公爵家を乗っ取ろうとして養子になったんだろ」

という声も黙らせるように必死に努力した。

ただ、1つだけどう頑張っても黙らせることが出来ないことがあった。

それが

「公爵の血が入ってないくせに」

という声だった。

これに関しては、過去に戻ってやり直したとしても、どう頑張っても言い返すことが出来ないことだった。

確かに俺には公爵家の血が一滴も入っていない。

それに、元々は何の関係もない家だ。

それなのに、なんで俺を引き取ってくれたのか、俺には理解できなかった。

だから、昔父上に尋ねてみたことがある。

「なんで血の繋がりもない俺のことを育ててくれるのか」

と。

すると父上は

「俺たちの間ではもう子供は無理だからな。それに、大事な親友の息子を路頭に迷わせるようなことはしたくなかった」

そう言って寂し気に微笑んだのが印象的だった。

シャルロットには話していないらしいが、親戚の家に預けられた男兄弟たちは最終的に、他の家に養子として迎えられているんだとか。

結局、自分たちの子供に後を継がせたいから、男である俺たちは邪魔になってしまったんだろう、と俺は思っている。

姉上たちはそれぞれ、商人の家だったり、貴族の人達と幸せに暮らしている、と手紙で報告があったから、それは感謝しているけどね。

そんな中、どうにかすればシャルロットを次期当主とすることも出来るはずなのに俺のことを、跡継ぎとして育ててくれた父上たちには本当に感謝しかなかった。

だからこそ、シャルロットが俺のことを、兄弟ではなく男として愛してくれていることに気付きながら、気付いていないふりを続けた。

家の利益にもなって、シャルロットも幸せになれる、そんな相手と結婚するのが一番だと思ったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~

いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。 誤字報告いつもありがとうございます。 ※以前に書いた短編の連載版です。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

王太子に婚約破棄され塔に幽閉されてしまい、守護神に祈れません。このままでは国が滅んでしまいます。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 リドス公爵家の長女ダイアナは、ラステ王国の守護神に選ばれた聖女だった。 守護神との契約で、穢れない乙女が毎日祈りを行うことになっていた。 だがダイアナの婚約者チャールズ王太子は守護神を蔑ろにして、ダイアナに婚前交渉を迫り平手打ちを喰らった。 それを逆恨みしたチャールズ王太子は、ダイアナの妹で愛人のカミラと謀り、ダイアナが守護神との契約を蔑ろにして、リドス公爵家で入りの庭師と不義密通したと罪を捏造し、何の罪もない庭師を殺害して反論を封じたうえで、ダイアナを塔に幽閉してしまった。

処理中です...