婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜

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10話

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さて、無視され続けているアリス様は、といいますと、私を睨みつけながら顔を真っ赤にして震えていますわ。

なんといいますか、哀れですわね。

そう思っていると

「ふ、ふん!婚約破棄されて、すぐに他の人を捕まえるなんて、ユーフェミア様はとんだ尻軽女ですのね!」

.........はぁ?

アリス様、自分のことは棚に上げて、私のことを尻軽女だ、なんて言いましたわよ?

じゃあ、色んな男性達をとっかえひっかえしている自分はどうなるんですの?という話ですわよね?

それに、私だって好きでレオンハルト殿下とお茶を飲んでいるわけではありませんし、幼い時からお兄様以外は興味がありませんの。

それなのに..........。

頭の中にぶわっと言いたいことが出てきましたが、何も言わない私をアリス様は勝ったと勘違いしているのか勝ち誇った顔をして私を見ていますわ。

なんだかその顔を見て腹が立ってきたので、流石に言い返そうとすると、それよりも先に

「今、ユーフェミア嬢のことを尻軽女、と言ったか?」

という低い声が聞こえてきましたわ。

声の主は勿論レオンハルト殿下ですわね。

今まで見たこともないくらい鋭い眼差しで、アリス様を睨みつけていますわ。

これには流石のアリス様も

「え、え......えっと.......」

と戸惑っていますわね。

レオンハルト殿下は誰に対しても優しくて、紳士的、というのは皆が知っていることですからね。

まさか、そんな顔をするなんて思っていなかったんでしょう。

こうなったら、レオンハルト殿下に全て任せた方が私も楽ですわね。

そう思って、成り行きを見守ることにしたんですが

「俺がユーフェミア嬢のことを誘ったんだが、何か悪い事でもあっただろうか?」

そう言ったレオンハルト殿下は笑っているんですが、目はちっとも笑っていないという恐怖を与えるのにぴったりな顔をしていますわ。

アリス様もこれはまずい、ということを察したようで

「い、いえ......そんなことは........」

と顔色を悪くさせながら小さくなっていますわ。

なんだか面白いですわね。

私が同じことを言ってもここまではならないので、言う人によって違いますのね。

なんて思っていると、レオンハルト殿下は

「それに、そういう自分はどうなんだ?人から婚約者を奪い取るなんて貴族の令嬢らしからぬ行いをしたのに、それはいいのか?」

と皆が思っているであろうことを言ってくれましたわ。

元々レオンハルト殿下とお茶を飲んでいただけでも注目を浴びていたのに、アリス様の登場でこの場にいる人全員が私たちのことを見ていますわ。

こんな大人数の前で、しかもレオンハルト殿下にそんなことを言われるなんて屈辱でしかないでしょう。

そう思いながらもう冷めきってしまったお茶に口をつけると

「あぁ、そういえばユーフェミア嬢の前にも色んな子息達を略奪したんだったな。とんだ尻軽女だ」

危うくお茶を吹き出しそうになりましたわ。

まさかレオンハルト殿下の口から、そんな言葉を聞く時が来るなんて........。

アリス様も

「なっ..........!」

と驚いた顔をしていますわ。

まぁ、言い返されない、なんて思っていたのがおかしい話ですわよね。

そしてレオンハルト殿下は最後の止めと言わんばかりに

「あ、いや.....尻軽女より娼婦の方が合っているかもな」

そう言って、お茶に口を付けました。

これには、周りで聞いている人たちも笑いをこらえることが出来ずに、クスクス、という声が漏れていますわね。

アリス様は自分から喧嘩を売りに来て、まさかここまでやられるなんて、と思っているでしょうね。

顔を真っ赤にして動かなくなってしまいましたもの。
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