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72話

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お父様の顔を見て、思わずため息をつきそうになったのをグッと堪えて促られた椅子に座ると、お父様はスッと私の前に封筒を差し出してきましたわ。

それを見た私は頭では理解していたものの、思わず

「これは......?」

と聞いてしまいましたわよ。

お父様に差し出された封筒には、貴族の家の家紋が書かれてあったので、貴族からの手紙であることは明らかですわ。

そして、物凄く見覚えのある家紋.......正直、もう関わりたくもなかった相手からの手紙、ですわね。

なんて思っていると、お父様も珍しく深いため息をつきながら

「まぁ、相手は言わずともわかるよな」

と言って封筒の中から数枚の便箋を取り出しましたわ。

お父様の言葉に苦笑しながら頷いて手紙を受け取りましたが、学園の時といい、この手紙の件といい、一体なにがしたいのか、という感じですわよね。

手紙を送ってきた相手、というのは察しているとは思いますがキーン様で、手紙の一番最初にはさも当然のように

『親愛なるヴァイオレット』

と書かれていて顔を顰めてしまいましたわ。

そもそも親愛なる、なんて婚約している時にも言われたことはありませんでしたし、そもそも手紙のやり取りもしたことはありません。

私の記憶では、キーン様は常に私のことを見下していて、口癖のように

「貧乏人」

「女なんて」

という言葉を発していましたわ。

なので、この手紙のように馴れ馴れしい態度をとられると物凄く気味が悪いんですが....。

とりあえず、と思って、不安そうな顔をしているお父様に

「この手紙は読みましたの?」

と聞いてみると

「いや、こっちには別の手紙があったからそっちは読んでいない」

そう言って、懐から私の前に置かれた封筒と全く同じものを取り出しましたわ。

咄嗟に

「別の手紙?」

と呟いてしまいましたが.....キーン様はわざわざお父様にも手紙を書いた、ということですの?

今まで私のお父様のこともバカにしていたくせに一体どんな風の吹き回しなんでしょうか?

とはいえ、内容がまともではないからこそお父様もそのような微妙な顔をしていますのよね。

なんて思っていると、私の反応に意外にも

「あぁ、読むか?」

と言ってあっさりとキーン様からの手紙を差し出してきたではありませんか。

流石に驚きますわよ。

だって、キーン様は見られたくないからこそお父様と私の手紙をわざわざ分けたんですのよね?

それなのに、結局私が見るなら分ける必要はなかったのでは?

.........とはいえ、やっぱり気になりますし、見たいですわよね。

なんて思いながら、差し出してくれた封筒を手に取った私は、一応確認のために

「いいんですの?」

とお父様に尋ねると

「別に見られて困るようなことは書いていないからな。ただ、私でも不愉快になる内容だったから破かないように気をつけろ」

そう言って苦笑しましたわ。

あの温厚なお父様が手紙を破り捨てたくなる、って.......正直何が書かれているのか怖くなってきますわね。

覚悟して読まないといけませんわ。
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