上 下
15 / 41

14話

しおりを挟む

「ハルト殿下ぁ~」

あら、久しぶりに聞いたわ。

スカーレットのその媚びた声。

最近は声を発する前に追い払われてたからね。


生徒会室で雑務をこなしているとスカーレットが押しかけてきた。

話をするなら外で話してて欲しい。

正直、そんなに暇じゃないんだよね。

生徒会はまだ6ヶ月くらい先の卒業式の手配に追われている。

料理とか、会場とか、その時の支給係をどうするか、とかね。

会場とか料理に関しては毎年やってることだから業者さんもすんなり通るんだけど、支給係をどうするか、のところで悩んでいる最中だ。

あー......生徒会長やめたーい。


「ハルト殿下ぁ~、私ぃ、婚約者が決まっちゃったんですよぉ~!しかも、たかが子爵子息ですよぉ~!?殿下と結婚したかったですぅ~」

あ、スカーレットのことを忘れてたわ。

生徒会室にいる間は私がいる、ということで護衛の人には休憩してもらっていたから止める人がいない。

おかげでスカーレットはやりたい放題だ。

殿下の腕に自分の腕を絡みつけて上目遣いでそう言う姿は令嬢らしからぬ姿だ。

でも楽しそうだし、殿下がなんて返すのか眺めていようかなぁ。

そう思って持っていたペンを置いて休憩することにした。

「ほぉ婚約者が決まったのか。良かったじゃないか。ほら、早く婚約者のところにいってやれ」

そう言ってスカーレットの腕を剥がしながら言う殿下は誰が見ても不愉快そうな顔をしている。

......なんだろう。スカーレットを止めなかったことが申し訳なく思えてきた。

「いやですぅ~!殿下と婚約したいですぅ~!」

駄々っ子のようにスカーレットは殿下にしがみついてそう言っている。

いや、何歳だよ。

それが可愛いと思ってやってるなら重症だよ?

私を含め、生徒会のメンバー全員が白い目でその光景を眺めている。

あー、殿下が私に助けを求めてきましたよ!

これは...仕方ない。この状況を抜け出せる男性がいたら神様だわ。

はぁ...とスカーレットに聞こえるくらいのため息をついてから

「スカーレット、いい加減にしなさい」

と私が言うと、スカーレットはわざとらしく目に涙を貯めて

「酷いです!お姉様!自分は王太子の婚約者だからってバカにしてるんですね!」

と叫んできた。

いやー、相変わらずお門違いの発言だわ。

てか子爵だろうと貴族には変わらないんだよ?

自分が子爵をバカにしてるからそんな発言ができるんだよな。

ふぅー...と深呼吸をしてから

「姉の婚約者を、姉の目の前で奪おうとしているスカーレットの方が酷いんじゃなくて?」

とにっこり笑うとスカーレットは顔色を変えた。

普通に笑っただけなんだけどなぁ......。

でも確かにこの状況で怒るわけでもなく笑われた方が怖いか。

あ、知っててわざとやったのは内緒ね。

「はぁ......次期王妃の座を狙っている人が子爵、だなんて......この学園には何人の子爵家の方がいらっしゃると思っているのかしら?」

わざと大袈裟にため息をついてそう言うと生徒会のメンバーも頷いている。

この中にも子爵家の方がいるからね。

さぞ不愉快だっただろう。

愚妹が申し訳ないわ......後で謝らなければ。


私の言葉に顔を真っ赤にして逃げていくスカーレットは、正直無様でしかない。

だって、言い返せないのに毎回問題を起こすんだもん。

しかも同じような状況に何度なっていることか。

いい加減学んでくれたら苦労はしないんだけどねぇ......。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

何でもするって言うと思いました?

糸雨つむぎ
恋愛
ここ(牢屋)を出たければ、何でもするって言うと思いました? 王立学園の卒業式で、第1王子クリストフに婚約破棄を告げられた、'完璧な淑女’と謳われる公爵令嬢レティシア。王子の愛する男爵令嬢ミシェルを虐げたという身に覚えのない罪を突き付けられ、当然否定するも平民用の牢屋に押し込められる。突然起きた断罪の夜から3日後、随分ぼろぼろになった様子の殿下がやってきて…? ※他サイトにも掲載しています。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

婚約破棄されたから、とりあえず逃げた!

志位斗 茂家波
恋愛
「マテラ・ディア公爵令嬢!!この第1王子ヒース・カックの名において婚約破棄をここに宣言する!!」 私、マテラ・ディアはどうやら婚約破棄を言い渡されたようです。 見れば、王子の隣にいる方にいじめたとかで、冤罪なのに捕まえる気のようですが‥‥‥よし、とりあえず逃げますか。私、転生者でもありますのでこの際この知識も活かしますかね。 マイペースなマテラは国を見捨てて逃げた!! 思い付きであり、1日にまとめて5話だして終了です。テンプレのざまぁのような気もしますが、あっさりとした気持ちでどうぞ読んでみてください。 ちょっと書いてみたくなった婚約破棄物語である。 内容を進めることを重視。誤字指摘があれば報告してくださり次第修正いたします。どうぞ温かい目で見てください。(テンプレもあるけど、斜め上の事も入れてみたい)

処理中です...