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14話
しおりを挟む「ハルト殿下ぁ~」
あら、久しぶりに聞いたわ。
スカーレットのその媚びた声。
最近は声を発する前に追い払われてたからね。
生徒会室で雑務をこなしているとスカーレットが押しかけてきた。
話をするなら外で話してて欲しい。
正直、そんなに暇じゃないんだよね。
生徒会はまだ6ヶ月くらい先の卒業式の手配に追われている。
料理とか、会場とか、その時の支給係をどうするか、とかね。
会場とか料理に関しては毎年やってることだから業者さんもすんなり通るんだけど、支給係をどうするか、のところで悩んでいる最中だ。
あー......生徒会長やめたーい。
「ハルト殿下ぁ~、私ぃ、婚約者が決まっちゃったんですよぉ~!しかも、たかが子爵子息ですよぉ~!?殿下と結婚したかったですぅ~」
あ、スカーレットのことを忘れてたわ。
生徒会室にいる間は私がいる、ということで護衛の人には休憩してもらっていたから止める人がいない。
おかげでスカーレットはやりたい放題だ。
殿下の腕に自分の腕を絡みつけて上目遣いでそう言う姿は令嬢らしからぬ姿だ。
でも楽しそうだし、殿下がなんて返すのか眺めていようかなぁ。
そう思って持っていたペンを置いて休憩することにした。
「ほぉ婚約者が決まったのか。良かったじゃないか。ほら、早く婚約者のところにいってやれ」
そう言ってスカーレットの腕を剥がしながら言う殿下は誰が見ても不愉快そうな顔をしている。
......なんだろう。スカーレットを止めなかったことが申し訳なく思えてきた。
「いやですぅ~!殿下と婚約したいですぅ~!」
駄々っ子のようにスカーレットは殿下にしがみついてそう言っている。
いや、何歳だよ。
それが可愛いと思ってやってるなら重症だよ?
私を含め、生徒会のメンバー全員が白い目でその光景を眺めている。
あー、殿下が私に助けを求めてきましたよ!
これは...仕方ない。この状況を抜け出せる男性がいたら神様だわ。
はぁ...とスカーレットに聞こえるくらいのため息をついてから
「スカーレット、いい加減にしなさい」
と私が言うと、スカーレットはわざとらしく目に涙を貯めて
「酷いです!お姉様!自分は王太子の婚約者だからってバカにしてるんですね!」
と叫んできた。
いやー、相変わらずお門違いの発言だわ。
てか子爵だろうと貴族には変わらないんだよ?
自分が子爵をバカにしてるからそんな発言ができるんだよな。
ふぅー...と深呼吸をしてから
「姉の婚約者を、姉の目の前で奪おうとしているスカーレットの方が酷いんじゃなくて?」
とにっこり笑うとスカーレットは顔色を変えた。
普通に笑っただけなんだけどなぁ......。
でも確かにこの状況で怒るわけでもなく笑われた方が怖いか。
あ、知っててわざとやったのは内緒ね。
「はぁ......次期王妃の座を狙っている人がたかが子爵、だなんて......この学園には何人の子爵家の方がいらっしゃると思っているのかしら?」
わざと大袈裟にため息をついてそう言うと生徒会のメンバーも頷いている。
この中にも子爵家の方がいるからね。
さぞ不愉快だっただろう。
愚妹が申し訳ないわ......後で謝らなければ。
私の言葉に顔を真っ赤にして逃げていくスカーレットは、正直無様でしかない。
だって、言い返せないのに毎回問題を起こすんだもん。
しかも同じような状況に何度なっていることか。
いい加減学んでくれたら苦労はしないんだけどねぇ......。
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