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1章・ブリズベン
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ブリズベンはシドニー、メルボンルに次ぐオーストラリア第3の都市と言われている。大陸の4分の1を占めるクイーンズランド州の州都で、豊かな天然資源の輸出窓口として近年成長が著しく、大きく隔たりのあったメルボルンとの差を急速に縮めつつある。
地理的にはグレートディバイディング山脈の東、大陸中央よりはやや北に位置しており、冬でも凍えるような寒さになることはないが、なにせ寒暖の差が激しい大陸だ。最低気温が氷点下を記録した年もあるのだそうだ。
楽しそうにおしゃべりに興じる警備員の姿を尻目にセントラルステーションの改札を通りながら、いったいどんな街なのだろうかと礼一は思いを馳せた。写真で見る限りなかなか美しい街のようだが。
古い建造物特有のひんやりとした、少しカビくさい独特の空気の中を抜け、駅の入り口を出たところで一気に視界が開けた。目の前に広がった風景に、礼一は静かに感嘆のため息をつく。
少し小高い位置から見下ろすその街は、近代的なビルと文化財に指定されそうな重厚な歴史的建造物が見事な調和で共存し、さらにいたる所にある公園の木々の緑がそれに彩りを添えている。そしてその狭間に見え隠れする色とりどりで個性的なカフェや小売店がさらに街を生き生きとしたものに見せていた。
なるほど、確かに美しい。この街で暮らすというだけでストレスから解放されそうだ。
――だが、それよりも。
「これはまた、ずいぶんと変わった鳥だな......。」
トランクを片手に呆然と立ち尽くす礼一の目の前を、悠々と鮮やかな色の鳥が通り過ぎていく。
真っ青な空と、力強い雲を背景に、数十種類の見たこのない鳥が、ずいぶんと楽しそうにブリズベンの街の上空を泳いでいた。植生については全くの門外漢だが、大陸が違うとこうも生き物の形状が変わるものなのか。
苦労して彼らから視線を外し、礼一は駅から街へ向かう坂道を下り降りる。その途中でオーストラリア用のスマートフォンとSIMカードを購入し、予約していたホテルに荷物を預けると、おさえ切れない好奇心にせき立てられるままにホテルを飛び出した。
いくつかアパートメントの内覧を予約していたが、まだずいぶんと時間がある。本屋をのぞいたり、日本発祥のハンバーガーショップの値段に目を丸くしたり、立ち寄った公園から河を眺めたりしながら時間を潰し、目についたカフェでアイスティーとサンドイッチを注文した。
駅から眺めるより通りには人が溢れており、街は想像よりもずっと賑やかだった。オーストラリアの人は皆、Tシャツとサンダルを履いているというイメージが強かったが、さすがに様々なビジネスビルが建ち並ぶ街だ、スーツと革靴で颯爽と歩く人々の姿もよく見かける。
そんな暑苦しそうなスーツ集団の1人とふいに目が合った。ノーブルな顔立ちに、スーツの上からでもわかる適度に鍛えられた体つき。薄い茶色の目が、探るようなものから色を含んだものにかわる前に、微かな笑みと共に身振りでその気がないことを伝えた。日本に比べてためらいがない、男性からのそんな視線から目をそらすと、今度はカウンターでブラウニーの固まりを並べていた赤毛の店員と目が合う。青年はそばかすたっぷりの顔に満面の笑みを浮かべると、ブラウニーを掴んだままのトングを片手に軽い調子で挨拶してきた。
「ハーイ、調子はどう?」
「最高です。ついさっきこの国についたばかりですが、楽しんでいます。」
決まり文句に愛想良く応じると、青年は嬉しそうに目を輝かせた。
「へえ、旅行者!この街の印象はどう?」
「とても美しい街ですね。うわさ以上で驚きました。それに、動植物との距離も近いです。とくに鳥たちが。」
「もしかしてシティーホールのあたりによくいる、あのデカイ鳥?あいつら、堂々と街中を歩き回っているからなあ。」
「たぶん、その鳥かな......。日本から来たぼくには、とても不思議な姿に見えます。しっぽが魚のような鳥なんて初めて見ました。」
その言葉に、一瞬、怪訝そうに青年が首を傾げたが、すぐににっこりと笑う。
「大陸が違うもんね。ほかの国から来た人から見れば、きっと不思議なんだろうなあ。」
そういいながら、楽しんでね、とウィンクを1つよこした店員に笑ってThanksと答えると、礼一は部屋の内覧に充分間に合う時間までそのカフェで過ごし、去り際に彼からからブラウニーを1つ買ってから店を出た。
地理的にはグレートディバイディング山脈の東、大陸中央よりはやや北に位置しており、冬でも凍えるような寒さになることはないが、なにせ寒暖の差が激しい大陸だ。最低気温が氷点下を記録した年もあるのだそうだ。
楽しそうにおしゃべりに興じる警備員の姿を尻目にセントラルステーションの改札を通りながら、いったいどんな街なのだろうかと礼一は思いを馳せた。写真で見る限りなかなか美しい街のようだが。
古い建造物特有のひんやりとした、少しカビくさい独特の空気の中を抜け、駅の入り口を出たところで一気に視界が開けた。目の前に広がった風景に、礼一は静かに感嘆のため息をつく。
少し小高い位置から見下ろすその街は、近代的なビルと文化財に指定されそうな重厚な歴史的建造物が見事な調和で共存し、さらにいたる所にある公園の木々の緑がそれに彩りを添えている。そしてその狭間に見え隠れする色とりどりで個性的なカフェや小売店がさらに街を生き生きとしたものに見せていた。
なるほど、確かに美しい。この街で暮らすというだけでストレスから解放されそうだ。
――だが、それよりも。
「これはまた、ずいぶんと変わった鳥だな......。」
トランクを片手に呆然と立ち尽くす礼一の目の前を、悠々と鮮やかな色の鳥が通り過ぎていく。
真っ青な空と、力強い雲を背景に、数十種類の見たこのない鳥が、ずいぶんと楽しそうにブリズベンの街の上空を泳いでいた。植生については全くの門外漢だが、大陸が違うとこうも生き物の形状が変わるものなのか。
苦労して彼らから視線を外し、礼一は駅から街へ向かう坂道を下り降りる。その途中でオーストラリア用のスマートフォンとSIMカードを購入し、予約していたホテルに荷物を預けると、おさえ切れない好奇心にせき立てられるままにホテルを飛び出した。
いくつかアパートメントの内覧を予約していたが、まだずいぶんと時間がある。本屋をのぞいたり、日本発祥のハンバーガーショップの値段に目を丸くしたり、立ち寄った公園から河を眺めたりしながら時間を潰し、目についたカフェでアイスティーとサンドイッチを注文した。
駅から眺めるより通りには人が溢れており、街は想像よりもずっと賑やかだった。オーストラリアの人は皆、Tシャツとサンダルを履いているというイメージが強かったが、さすがに様々なビジネスビルが建ち並ぶ街だ、スーツと革靴で颯爽と歩く人々の姿もよく見かける。
そんな暑苦しそうなスーツ集団の1人とふいに目が合った。ノーブルな顔立ちに、スーツの上からでもわかる適度に鍛えられた体つき。薄い茶色の目が、探るようなものから色を含んだものにかわる前に、微かな笑みと共に身振りでその気がないことを伝えた。日本に比べてためらいがない、男性からのそんな視線から目をそらすと、今度はカウンターでブラウニーの固まりを並べていた赤毛の店員と目が合う。青年はそばかすたっぷりの顔に満面の笑みを浮かべると、ブラウニーを掴んだままのトングを片手に軽い調子で挨拶してきた。
「ハーイ、調子はどう?」
「最高です。ついさっきこの国についたばかりですが、楽しんでいます。」
決まり文句に愛想良く応じると、青年は嬉しそうに目を輝かせた。
「へえ、旅行者!この街の印象はどう?」
「とても美しい街ですね。うわさ以上で驚きました。それに、動植物との距離も近いです。とくに鳥たちが。」
「もしかしてシティーホールのあたりによくいる、あのデカイ鳥?あいつら、堂々と街中を歩き回っているからなあ。」
「たぶん、その鳥かな......。日本から来たぼくには、とても不思議な姿に見えます。しっぽが魚のような鳥なんて初めて見ました。」
その言葉に、一瞬、怪訝そうに青年が首を傾げたが、すぐににっこりと笑う。
「大陸が違うもんね。ほかの国から来た人から見れば、きっと不思議なんだろうなあ。」
そういいながら、楽しんでね、とウィンクを1つよこした店員に笑ってThanksと答えると、礼一は部屋の内覧に充分間に合う時間までそのカフェで過ごし、去り際に彼からからブラウニーを1つ買ってから店を出た。
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