1 / 30
プロローグ
しおりを挟む
エドことエドヴァルド・アウストレームは竜が見える。
それは何かの比喩ではなく――例えば学校帰りの道のど真ん中であったり、何気なく足を伸ばした山の頂だったり、ふと見上げた空であったり――そんな日常の中に、彼らは文字通り、ふいに彼の前に姿を現わすのだ。
エドの知る限り、竜は深い知性と穏やかさを持ちながらも、非常に茶目っ気がある。
彼らは決まって、思いもよらない場面で姿を現しては、度肝を抜かれて立ち尽くす彼を見て、実に嬉しそうに目を細めて飛び去っていくのだった。
彼らが見えるのが自分だけだと、いつしか理解するようになり、心の中にその優しい秘密を抱えて彼は成長していく。それは時に彼をワクワクさせるものとなり、時に彼を思い悩ませもし、そして時に心の支えとなった。
諦めにも似た気持ちで現実を受け入れた今となっては、たとえその姿が見えない時にでも、吹き抜ける一陣の風や、木々のざわめきの中に彼らの存在を感じることさえできる。
そんな日常から受けた影響のひとつなのだろう。本や映画は好きでも、一貫してファンタジーの類は嫌いだった。そこではたいてい、邪悪で知性のない、倒すべき敵役として竜は描かれていたから。
もしくは、使役し、利用する道具として。
彼らは自由であるべきだった。彼らは自由ではなかった。
だからこそエド自身もまた、自由ではなかった。
それは何かの比喩ではなく――例えば学校帰りの道のど真ん中であったり、何気なく足を伸ばした山の頂だったり、ふと見上げた空であったり――そんな日常の中に、彼らは文字通り、ふいに彼の前に姿を現わすのだ。
エドの知る限り、竜は深い知性と穏やかさを持ちながらも、非常に茶目っ気がある。
彼らは決まって、思いもよらない場面で姿を現しては、度肝を抜かれて立ち尽くす彼を見て、実に嬉しそうに目を細めて飛び去っていくのだった。
彼らが見えるのが自分だけだと、いつしか理解するようになり、心の中にその優しい秘密を抱えて彼は成長していく。それは時に彼をワクワクさせるものとなり、時に彼を思い悩ませもし、そして時に心の支えとなった。
諦めにも似た気持ちで現実を受け入れた今となっては、たとえその姿が見えない時にでも、吹き抜ける一陣の風や、木々のざわめきの中に彼らの存在を感じることさえできる。
そんな日常から受けた影響のひとつなのだろう。本や映画は好きでも、一貫してファンタジーの類は嫌いだった。そこではたいてい、邪悪で知性のない、倒すべき敵役として竜は描かれていたから。
もしくは、使役し、利用する道具として。
彼らは自由であるべきだった。彼らは自由ではなかった。
だからこそエド自身もまた、自由ではなかった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説


国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

皇帝の立役者
白鳩 唯斗
BL
実の弟に毒を盛られた。
「全てあなた達が悪いんですよ」
ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。
その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。
目を開けると、数年前に回帰していた。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話
あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話
基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想
からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる