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最終話 いらっしゃいませ!

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 夜の海、空は雲が少なく星が綺麗に見える。
 少し肌寒さもあるが、木の枝を集めて火をつけた焚き火の近くにいると丁度良い暖かさだ。

「えへへーっ、見て見てー! 綺麗だよぉー」

「へへへっ! こっちも火をつけてみようぜ!」

「はぁぁ、終わっちゃいましたぁ…… 次はどれにしましょうか」

「おーっほっほっ! わたくしはこのド派手なやつにしますわー!」

 別荘を探索したら偶然見つけた花火、どうせならバーベキューのあとにやろうと準備しておいたのだが、みんな楽しそうに花火を持ってはしゃいでいる。

 どうして花火なんてあったのかは分からないが、真新しい物ばかりだったので葵がこの島に備品を用意させた人達の誰かが気を利かせて花火も用意していたんだろうな。

 俺は残った食材を焼いてちびちび食べつつ、線香花火をして遊んでいる。

 パチパチと火花を散らす丸い団子みたいで昔から好きなんだよな、線香花火。

「桃太様、花火のチョイスが渋いですわね」

「そうか? 派手なやつも楽しいけどな」

「『火花を散らすお団子』ですか、桃太様は本当にお団子が好きなんですのね」

 団子が好き…… というか、あるのが当たり前で、俺にとってはなくてはならないものだからな…… 

「ふふふっ、素敵ですわね……」

 ……あっ、そうだ。
 タイミングがなくて渡しそびれてたけど今が丁度良いな。

「葵、はいこれ、プレゼント」

「えっ!? わ、わたくしにですか? 皆さんのは……」

「いや、これは葵にだけ、開けてみれば分かると思うけど」

 そして俺はポケットにしまっていた、可愛らしい紙でラッピングしてもらった物を葵に手渡した。
 葵には安物に見えてしまってあまりお気に召さないかもしれないけど、葵だけに渡さないわけにはいかないからな。

「開けていいんですの? では…… あっ、これは……」

「本当はもっと早く渡そうと思ってたんだけど、卒業とか親父達の事があったからさ…… 受け取ってくれるか?」

「これ…… 皆さんがお揃いで付けている…… みたらし団子みたいなアクセサリーの付いたブレスレット…… わたくしにも?」

 一応琥珀らしいけど、やっぱりみたらし団子に見えるよな。
 みんなお揃いでと買った時には、まだ葵とは知り合ってなかったから。

 だから葵の分は無くて、でも俺達がお揃いで付けているブレスレットを葵はチラチラと気にして見ていたのを知っているから、一人でまたあのアクセサリーショップに行って葵の分も買ってきたんだ。
 ただ、色々とタイミングが悪くて遅くなってしまってゴメンな。

「ああ、これでみんなお揃いだな、ははっ、葵はこんな安物付けたくないかもしれないが、とりあえず貰って……」

「安物なんかじゃありませんわ!! 値段じゃないんですの…… 桃太様と皆さんとお揃いで、わたくし達の絆の証…… うぅっ、この世のどんな高価な宝石より価値のあるものですわぁ…… うぅっ、ぐすっ、ありがとう、ございますわぁ…… 桃太様ぁぁっ!」

 わわっ! な、泣かないでくれよ、うぐっ! 勢い良く抱き着いてくるから、スイカが! スイカがぁっ!

「うぅっ、嬉しいですわ、桃太様、ありがとうございます、愛してますわぁっ、ぐすっ、うぅぅ……」

 むぐぐっ、あ、頭を抱き抱えたら…… スイカの谷から葵の良い匂いがするっ…… 

「えへへっ、あーっ、いけないんだぁー! 葵さんを泣かせてるー!」

「へへへっ、桃太ぁ、何を泣かせてるんだよー!」

「うふふっ、良かったですね、葵ちゃん」

「あぁーん、桃太様、桃太様ぁぁっ、好きですわぁ、愛してますわぁぁ!」

 ぐっ、そ、そんなに…… よ、喜んでくれて、良かったよ…… スイカの圧で、苦し…… 

 そして、泣きながら抱き着かれ、二つのスイカに窒息させられる所を三人に救出してもらったり、その後何度もお礼とキスをされたりと落ち着くまでしばらく時間がかかった。

「ふふっ、ふへへっ……」

 早速ブレスレットを手首に付けた葵は先ほどから何度も何度もブレスレットを眺めてはだらしない顔で笑っている。

「みんなお揃いだよ、ほら」

「ふへっ、皆さんとお揃い…… ふふっ、とーっても嬉しいですわぁ…… はぁっ、綺麗なみたらし団子ですわね…… まるで桃太様みたい……」

「へへへっ、桃太、みたらし団子だってよ」

「いや、俺のどこにみたらし団子要素があるんだよ」

「んー、どこでしょうか?」

 美鳥、真面目に考えるなよ…… 

「団子と言ったら『アレ』ですかね?」

「団子と言ったら『アレ』かぁ……」

 美鳥ちゃん? 輝衣ちゃん? どこを見てるのかなー? 

「桃くん、これでみんな桃くんのお嫁さんってことでいいんだよね?」

「「「お嫁さん……」」」

 あー…… その…… うん、まあ…… 

「ああ、これからも末永くよろしく、みんな」


 …………



 …………




 ……その後の事は言わなくても分かるだろ? そりゃあもう『お嫁さん』だからな。




 ……うん、みんなでめちゃくちゃ盛り上がったよ。





 ◇




「はぁぁ…… 楽しかったぁ……」

「ああ、鬼ヶ島が小さくなっていきます……」

「二週間、あっという間だったなぁ……」

「ふふっ、いつかまた来ましょうね」

 長いようで短かった『鬼ヶ島』での二週間。
 迎えのヘリコプターに乗り込んだ俺達は、どんどん離れて小さくなる島をヘリコプターの窓から見つめていた。

 結局誰かに思い出として語れそうなのはバーベキューと花火くらいか、あとは…… おだんごを食べてばかりだったな。
 四人は生おだんごをたくさん食べて満足そうな顔をしているから…… 良い旅行になったのだろう。
 少なくとも俺達の中では大切な思い出になった。

「でも、無人島だから親父達やみんなの家族にお土産とか買って帰れなかったなぁ」

 鬼ヶ島っていうくらいだから金銀財宝でも持ち帰れば笑い話になりそうなもんだけどな、ははっ、仕方ないか。

「大丈夫だよ桃くん、みんなちゃんとお宝を持ち帰ったから」

 えぇっ!? いつの間に…… っていうか、そんな物どこにあったんだ? 探しているような素振りはしてなかったような。

「はい、お宝は手に入れました」

「へへへっ、あたしもちゃんと持ち帰ったぞ」

「ええ、素晴らしいお宝ですわ」

 四人とも!? 声をかけてくれれば俺も持って帰ったのに…… 

「大丈夫、桃くんの分はちゃんとあるから、っていうか半分は桃くんのお宝なのかな? ねっ、みんな?」

 半分は俺の? 一体どんなお宝なんだ…… あっ。

 どんなお宝なのか気になって四人をそれぞれ見てみると……

 四人ともお腹をさすりながら笑顔で俺を見つめていた。

 ……そういうことね。














 ◇


 あるところに、一軒のお団子屋さんがありました。

 そのお団子屋のお兄さんは、お客さんのために美味しいお団子を毎日毎日作っていました。

「いらっしゃいませ!」

 そんな毎日頑張っているお団子屋のお兄さんには、支えてくれる四人のお嫁さんが居て

 忠犬のようにお兄さんのために尽くすお姉さんが

「えへへっ、お団子、いかがですか?」

 いつもお兄さんと周りを明るく照らすお姉さんが

「おすすめ? みたらしかな、へへっ」

 お兄さんのお団子を広めるため優雅に羽ばたくお姉さんが

『お団子食べるなら、吉備団子店!』

 番人のように大切なお店を陰から守るお姉さんが

「おーっほっほっ! 店のセキュリティは万全ですわ!」

 仲睦まじく暮らしていました。

「お団子一つ下さーい!」

 お兄さんと四人のお嫁さんの頑張りにより、お団子屋さんは大人気になり、

 そして……


「「「「パパー、ママー!!」」」」


 どんぶらこ、どんぶらこ、としていたら大家族になり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

「ありがとうございました! また買いに来て下さいね!」



 

 めでたしめでたし。
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