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食べやすい位置にあったけど

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「んっ……」

 ……あれ? これ、食べられてる?

「桃、太ぁ……」

 俺の上に乗って寝ていたのは輝衣…… そして声の主も輝衣…… 

「……っ!! ……へ、へっ、ごちそうさまっ、朝からこっそり食べるおだんごは美味いな……」

「輝衣…… 朝から何を……」

「起きたらおだんごが口元をツンツンしていたから…… へへっ、食べちゃった」

 食べちゃったって…… たしかに食べやすい位置にあったけど。

「……んーっ、おはよう桃太 あっ、おだんごいなくなっちゃった…… 残念」

 食べ終わった後も抱き着いていた輝衣だったが、お腹が満たされたからか、少し伸びをしてようやく俺の上から退けてくれた。

 ただ輝衣がつまみ食いをしたということは…… 千和と葵はまだ抱き合って寝ているから大丈夫そうだな。
 それにしてもスイカとスイカがぶつかって苦しくないんだろうか? と思いながらふと反対側を見ると……

「…………」

 ジーっと目を開けて俺の顔を見ている美鳥と目が合った。

「…………」

 無言で見つめられると怖いんだけど! 美鳥の目が何かを訴えている……

「……た、食べる?」

「はい!」

 無言の圧というか、目で『輝衣だけズルい!』っていうのやめて、素直に食べたいって言ってくれよ……

「うふふっ、では…… おだんご、いただきますね……」

 はい、どうぞ召し上がれ…… んっ?

「「…………」」

 寝ていたはずの千和と葵が抱き合いながら見ている!! ……分かった! 分かったからそのジト目は止めて!

 
 ◇


「ふぅ…… ごちそうさまでしたぁ……」

「んっ、えへっ、葵さん、食べられるように一緒に準備しよ?」

「そうですわね…… 桃太様、スイカのサンドイッチはいかがですか? ふふっ」

 朝からおだんご…… しかも生で食べるなんて贅沢です。

 そして今は順番待ちをしていた千和ちゃんと葵ちゃんが食べる準備中…… スイカを四つも使ったサンドイッチなんて桃太さんも贅沢ですね。

「へへっ、おはよう、みい」

「おはようございます、輝衣ちゃん」

 先に食べ終えていた輝衣ちゃんが私に抱き着きながら挨拶をしてきました。

 まるで姉妹のような私達は、スキンシップも多めでこうして女の子同士で抱き合うのも当たり前のようにしています。

「んーっ、お腹いっぱいで最高の気分だよ」

 そうですね、しかも生おだんごですから……

「……太っちゃうな」

 はい、太っちゃいますね。

「これでみんな太ったら…… 本当の家族になれるな」

 …………そうですね。

「みんな一緒、みいももう絶対ひとりぼっちにならない…… へへっ、桃太に感謝だな」

 輝衣ちゃん…… ありがとうございます。

 優しい妹達、ちょっとポンコツな姉、そして素敵なご主人様…… お父さん、お母さん、私にもこんな素晴らしい家族が出来ました…… そしてこれから更に…… うふふっ。

 そして私はいっぱいになったお腹を撫でながら、姉妹達がおだんごを食べる様子を見守っていた。


 ◇


 朝からおだんご祭り…… 昨日の疲れを若干引きずっていたので、ゆっくりと咀嚼出来るように心がけ食べさせていた。
 そのせいかベッドから起き上がると、もう昼はとっくに過ぎていた。

「はぁぁ…… ジェットバス、最高……」

「足を伸ばしながらみんなの顔が見えるのっていいね」

「五人でも余裕入れるんですね」

「ふふっ、気持ち良いですわ……」

 腹も減っているが、色々と汚れていたので先に風呂に入ることにした俺達。
 ベッドからそのまま直行したのだが、垂れてきただのなんだのキャッキャと笑いながら風呂場まで歩いていた四人を思い出し、何とも言えない気分になった。

「今日は何をしますか?」

「うーん…… 昨日は海で遊んだしなぁ」

「のんびりもしたし……」

「ふふふっ、そう思って昨日は紹介しませんでしたが、この別荘にはまだ案内していない部屋があるんですのよ? 今日はそこに案内しますわ」

 まだあるの? ……でもそうだよな、こんな広い別荘がリビングと風呂と寝室だけのはずがない。
 ちょっと楽しみだな、何があるんだろう。

 
 風呂から上がると、身体を拭いた四人はすぐにキッチンへと向かい、遅くなった昼食の準備を始めた。

 ……身体を拭いて『すぐに』だぞ? 

 エプロンをして、冷蔵庫から値段が高そうな霜降りの肉を取り出した。
 肉はそのまま厚く切ってステーキに、ブロッコリーなどの野菜を茹でて皿に添え、レンジでチンしたご飯を皿に盛り付けて完成…… とにかく時短で、満腹になりしかも元気の出そうな食事だな。

「へへっ、これだけ動いたらやっぱり肉を食べたくなるよな!」

「お肉の匂いで更にお腹ペコペコになってきたよぉ」

「たっぷり食べて頑張らないといけませんもの、ふふっ」

「うふふっ、ではいただきましょうか」

 ……うわっ、こんな肉食べたことない、口の中に入れた瞬間、溶けるって本当だったんだな。

 でも…… フルーツ丸出しで肉を食べる女の子達って…… どうなの?
 俺は別にいいんだけど、いや、五人しかいないからこそ出来るんだよな?

「んっ! 美味いっ、美味いっ……」

「もう、輝衣ちゃん、口の周りが肉の脂でベタベタになってますよ?」

「あんっ! ソースがスイカに垂れちゃったぁ…… 誰も見てないし舐めちゃお」

「ふふっ、自分でスイカを持ち上げて舐めるなんて器用ですわね」

 食事中…… 食事中だぞ、俺。
 ただ、みんなで食事しているだけ、なのに何でこんなに……

「あら? 桃太様、デザートのおだんごはまだ早いですわよ? ふふっ」

 隣に座っていた葵に見られ、恥ずかしい思いをしながらテーブルの上の料理だけを見るよう食事を続けた。


「さて、早速案内をしますわ」

 別荘にある他の施設とは一体…… 
 目の前でどんぶらこしそうな大きな桃が揺れるのを見つつ、葵の後を付いていくと……

「ここは娯楽部屋になりますわ!」

 そこはビリヤードとダーツが出来る場所で、それぞれの台や設備などが一つずつ設置されていた。

 若干薄暗い照明の部屋、部屋の中でどこでも休憩できるよう一人用ソファーがバラバラに五台、ビリヤード台とダーツの出来る場所に三人がけのソファーが一台ずつ置かれている。

 奥の方にはバーカウンターがあり、お酒を飲む人だったらお酒を飲みながら遊べるようにしたんだろうな。

「そしてこの部屋の隣がトレーニングルームになりますわ」

 娯楽部屋の隣はスポーツジムのような器具が揃えられ、大きな鏡も設置されている。

「ここは『今は』使わないかもしれないですわね、ただ皆さん…… 太った後の体型を戻したり……」

「そ、そうだね、太ると体重が戻らないとか聞くもんね……」

「体型が崩れると言いますもんね……」

「その時は使わせてもらおう……」

 トレーニングかぁ…… んっ? あそこの隅にあるのは?

「あぁっ、あのマッサージチェアは良いですわよ! プルプル震えて…… 凝りが解れますわ! わたくしも肩が凝って……」

「私も肩が凝るんだよねぇ、後で使わせてもらうね!」

「肩…… 凝り……」

「おーい、みい? どうした?」

 ……うん、確かに凝りそうな二人だ、重いもんな。

「あとはお客様用の客室と、娯楽部屋にあるのとは別のバーもありますけど、今回のわたくし達にはあまり関係ないと思って鍵を閉めてますわ」

 元々鬼島グループの別荘だから、お客さんを招待して盛大なパーティーとかやってたんだろうな。

「お祖父様が健在の時はよく使われていた別荘ですけど、家族旅行でたまに来るくらいでしたので…… お父様が病気になってからはさっぱり来ていませんでしたわ」

 そうか…… でも葵のお父さんも奇跡的に回復してきてもうすぐ退院って話だから、今度は両親と来たら……

「嫌ですわよ、あの二人と来たら…… きっとお母様に電話の件を含めて復讐されますわ! それでしたら皆さんのご家族も連れてわたくし達も一緒に…… ふふっ、伸び伸び遊ばせてあげるのも良いかもしれませんわね」

 ……お腹をさすりながら笑っている、きっと両親達の事ではなさそうだから、今は答えない方が良いな。

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