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ナニ…… 何してたんだろうなー?

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「やぁ、初めまして、葵から話は聞いているよ」

「初めまして! 吉備桃太です、よろしくお願いします!」

「…………」

「…………」

 き、気まずい!!

 少し引きつった笑顔でベッドの上で身体を起こしている男性が葵の父親の鬼島虎雄さん。
 そしてベッドの横にあるイスに顔を赤くしてうつ向いて座っている女性が葵の母親である鬼島朱凛さんだと紹介された。

 葵はそんな二人の前に腰に手を当て立ち、何やら怒っていた。

「まったく! 病室で何してますの!? あんなのを見せられる娘の気持ちも考えて下さいまし!」

「だ、だって、パパが元気だったんですもの……」

「一応病み上がりですのよ!? 何かあったらどうするつもり……」

「まあまあ、葵、ママをそんなに怒らないでくれ、毎日ずっと弱っていく姿を見せてしまっていたパパが悪いんだ、ママも嬉しくてちょっとはしゃいでしまっ……」

「お父様は黙ってて下さい」

「あ、はい」

 修羅場みたいになっているけど、ナニ…… 何してたんだろうなー?

「お母様の気持ちも凄く分かりますわ、アレがあんなになっていたらアレですもの、でも今日だけは我慢して欲しかったですわ」

「葵…… アレの良さを理解するなんて、大人になりましたわね、ママは誇らしいです……」

「誤魔化さないで下さいまし!」

「ご、ごめんなさい……」

 病気で痩せてしまったのか少し頬が痩けてはいるがイケメンな日本人の父親に、葵より明るい金髪に綺麗な顔立ち、そして葵以上のダイナマイトなスイカを持っている母親…… そんな二人の間に生まれた葵か、そりゃスタイル抜群で美人だよなぁ、なんて別の事を考えながら親子喧嘩を見守っていると

「ほ、ほら葵! 桃太くんの事を紹介してくれないかな?」

「あっ! そうでしたわ、すみません桃太様ぁ……」

 そう言ってわざとらしいくらい甘えるように抱き着いてくる葵。
 俺をほったらかしにして悪いと思ったのか、ただ抱き着きたいだけなのか。
 
「桃太様はわたくしの運命のお相手ですわ! 絶対に離れませんから、認めて下さいまし!」

 おい、そんな言い方で大丈夫なのか? 一応俺の事をちゃんと説明……

「あははっ、そうかそうか! 葵の事をよろしくね、桃太くん」

「えっ? は、はい! 絶対に幸せにしますから…… えっ? えっ?」

「やっぱり親子だ…… ねぇ、ママ?」

 認めてもらえたらしい…… けど『やっぱり親子』? 虎雄さんがそう言いながら朱凛さんに話しかけたけど、更に顔を赤くしてうつ向いてしまった。

「わ、わたくしはそんな…… 虎雄さんと結ばれたのだって婚約してからですし…… あ、葵とは違いますわ!」

「でも婚約する時にお互いの両親の前で僕の唇を奪って……『虎雄さんはこれでわたくしのもの、わたくしは虎雄さんのものだから絶対離れませんわ!』なんて……」

「やぁっ! 葵達の前でその話は止めて下さいまし! 虎雄さん、イジワルですわぁ…… もうっ」

「……うぷっ! ……ははっ、ごめんよ」

 止めてと言いながらダイナマイトスイカを顔に押し付け口封じ……  その後見つめ合いながら手をニギニギしたりイチャイチャ……

「もう! 子供の前で恥ずかしくありませんの?」

 いや、葵だってさっきから俺の手を握りながら大玉スイカを押し付けてるよ? 

「わたくし達はいいんですの!」

「それならわたくし達だっていいですわよね? 虎雄さん」

 お見舞いに来たんだよね? お互いのイチャイチャをお見舞いするって意味だったのか?

「二人とも落ち着いて、桃太くんも困っているだろう」

 爽やかなイケメンスマイルで窘める虎雄さんだが、その手の先は朱凛さんに捕まれダイナマイトに添えられている…… 説得力がない!

「そうですわね、桃太様、落ち着いて下さいまし」

 そう言って俺の手を掴み大玉に添えさせる葵…… 俺が落ち着かなきゃならないのか?

 何か想像していたよりもふざけ…… いや、愉快な人達だな。
 鬼島グループという大企業の家族だから
もっとお堅い人達なのかと思っていた。

「お堅いだなんて! 柔らかいですわよ!」

「そうですわ、柔らかいですわよね? 虎雄さん」

 うん…… 手の先にあるものは柔らかいよ? でもそう言う話じゃない。

 朱凛さんも娘に謎の対抗心を燃やしてるし、虎雄さんも困ったように笑いながらも手を離さないし…… とにかく聞いていた話より家族の仲は良さそうで安心した。


「それで話は変わるけど、桃太くんは団子屋の息子さんだよね? じゃあいずれは店を継ぐつもりかい?」

「はい、そのつもりです、今両親が旅行中なので代わりに店主として修行していますし、高校を卒業したらそのまま店で本格的に働いていこうと思ってます」

「うーん、そうか…… 葵には鬼島グループを継いでもらいたいし、桃太くんにも大切な店がある…… 二人の関係を認めてあげたいけど、そうなると桃太くんの立場が少々面倒な事になるね」

 やっぱりそう言う話になるよな……
 葵は一人娘、会社を継ぐとなると葵のパートナーとして選ばれた男性は婿養子になる必要がある、とか言われるような気はしていた。

 ちなみにこんな真面目な話をしているのに、虎雄さんの手はまだスイカに添えられている。
 じゃあお前はって? 聞かなくても分かるだろ。

「んっ…… 虎雄さんも婿養子として鬼島家に来てもらいました、だから桃太さんも鬼島家に婿養子として迎え入れますわぁ」

「あっ…… お母様、桃太様は大切なお店がありますから婿養子にはさせませんわぁ…… んふっ」

「でもぉっ、それでは鬼島グループの後継ぎがぁっ! あぁん、虎雄さん、どうしたらいいんですのぉ」

「はぁん、だ、大丈夫ですわお母様、わたくし結婚はせず、そのまま鬼島グループを守っていきますからぁ」

「な、何を言ってますの!? っ、そ、それでは桃太さんと縁を切るつもり…… はぁっ、んっ」

「いいえ、絶対に桃太様とは別れませんわ…… でも鬼島家も吉備家も守っていかなければならない、そこでわたくしが考えたたった一つの解決策、それは……」

「そ、そんな都合の良い話、あるわけない……」

「鬼島家の跡を継ぐ子をわたくしがバンバン産みますわーー!!」

 な、何言ってんだーー!!

 葵、ご両親の前で『結婚しないけどバンバン子作りします』って言ってるようなもんだぞ!? そんなの認められるわけ……

「その手がありましたわーー!! さすがわたくしの娘! 次の世代まで考えての行動ですのね! 虎雄さん、鬼島グループの未来は明るいですわー! おーっほっほっ!」

 ……それでいいのかよ!!

 ちらりと虎雄さんの方を見ると、何だか申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。

「桃太くん、すまないね…… 仕事以外だと二人ともちょっと抜けているというか…… ポンコツなんだよ」

 ポ、ポンコツ!? 奥さんと娘に対してポンコツって……

「それにしても葵も大胆な事を考えるね…… 結婚した当初の朱凛とそっくりだよ、葵が産まれるまでは大変だったなぁ……」

 何故か遠い目をして窓の外を眺める虎雄さん。
 昔は色々苦労したんだろうな…… 朱凛さんに。

「こうなったら善は急げですわ! お父様、またお見舞いに来ますわ! さぁ帰りますわよ、桃太様」

 ちょっと、腕を引っ張らないで!

「あ、あの! また葵と来ますんで、お大事に! 今日はありがとうござ……」

「何してますの! 時間が勿体ないですわよ! お父様、お母様、それではまた、ごきげんよう」

「あははっ、またね桃太くん、葵の事よろしく……」

「桃太さんごきげんよう、葵の事は任せましたわ…… さて、虎雄さん? わたくし達も負けてられませんわよ! さあ、金棒を……」

「……へっ? ちょっとまた!?」

 
 病室を出る間際に何やら聞こえてたが…… うん、仲良し夫婦だね。
 
 そして無事? 葵の両親への挨拶は済んだのだが……

「鈴鹿、午後の予定は全てキャンセルですわ! 桃太様の家に向かって下さいまし!」

「は、はい、お嬢様……」

「まずは千和さんに連絡…… 美鳥さんは帰宅途中ですわね、輝衣さんは家に居るはずですわ……」

 病院の駐車場で待機していた葵の車に乗り込むと、葵はすぐにスマホで何やらメッセージを送っていた。

「なあ、葵?」

「……おだんごパーティー ……生おだんご ……おだんごを元気に食べる薬」

 ブツブツと独り言を呟いているが『おだんご』の言葉ばかりが聞こえてくる。

「おーい、葵ちゃん?」

「……生は太っちゃうから今はダメ? ……『生おだんご大盤振る舞い計画第二弾が進行中』ですって? ……ふむふむ、そうですか」

 怖い! 何その計画!? えっ? 君達いつも裏でそんな話をしているの?

「ふふっ、焦りは禁物ってことですわね…… でも今すぐおだんごは食べたいですから…… 鈴鹿!」

「何でしょうか」

「今日はそのまま桃太様の家で過ごすので明日の朝…… 昼過ぎに迎えに来て下さいまし」

「かしこまりまし……」

 鈴鹿さんの返事の途中でまた前後の座席を仕切るカーテンを閉めちゃったよ。

「ふふっ、桃太様ぁ……」

 な、何をする! またマッサージか!?

「ええ、家に着く前におだんごの下ごしらえをしておくよう千和さんに言われましたので…… ふふっ、失礼しますわ……」
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