29 / 61
あまり良い印象ではないな
しおりを挟む
新商品のフルーツ団子も好評で、特にHATOKOのSNSを見て来店した若い女性には人気があり、用意していたフルーツ団子はあっという間に完売してしまった。
そしてフルーツ団子を買ってくれたお客さんがそれを更にSNSに上げてくれて、次の日には更に若いお客さんが増えていて、吉備団子店の知名度もかなり上がったと思う。
定番の団子の売れ行きも好調だし、仕事は忙しいけど毎日とても充実していて、私生活でも三人とより絆が強くなったと感じている。
「桃太ぁっ! あぁ、んっ、お、美味しかったぁぁ……」
「も、桃太、さぁん…… もっとぉ、おだんご食べたいですぅ」
「はぁっ、はぁっ…… えへへっ、お腹いっぱいだよぉ……」
お夜食作りも大変だが、三人が喜んで食べてくれるからついつい張り切って作ってしまいがち。
次の日が定休日だったりすると、動けないくらい食べ過ぎてそのまま寝てしまう事もあるくらいだ。
ただ、四人で色々とするには少々狭い部屋だからそろそろ部屋のリフォームか、思い切って増築でもしたいなぁ。
親父達が帰って来たら相談してみようかな?
そんなある日……
「いらっしゃいませ!」
「ここが『吉備団子店』ですわよね…… 店主はいらっしゃいますか?」
高級そうな紺色のリクルートスーツでピシッと決めた女性が、ガタイのいいサングラスをかけた男性二人を引き連れて来店してきた。
女性は背中にかかるくらいの毛先を巻いた綺麗な金髪に、外国人なのか青い瞳に高い鼻、少しキツく感じるタイプの顔立ちの美人だ。
しかも千和並みのメロンがスーツを押し上げていて…… 目のやり場に困る。
「て、店主は不在で、今は自分が店主代行をしておりまして…… どういったご用件でしょうか?」
「ふーん、ずいぶんと若いですわね、まあいいですわ…… わたくし鬼島《きじま》グループ副社長で飲食部門担当の、鬼島葵《きじまあおい》と申しますわ、単刀直入に言いますが『鬼島グループ』の傘下に入って、この店をチェーン展開してみませんか?」
……えっ? 『吉備団子店』をチェーン店にしないかって事か?
「いや…… 急にそんな事を言われても困るんですが……」
「最近評判が良いみたいですし、あなたのお店も鬼島グループの傘下に入れば今よりももっと売上も見込めますわ、それにわたくしの会社でもっと良い場所に出店出来るよう出資して差し上げますから、その方があなたにもメリットがあるし、何よりこんな田舎の古くさい店で営業しなくても済みますわ」
…………
「あ、あの! 俺はこの店……」
「すぐに決断するのは難しいでしょうから、良ければこちらに連絡頂けますか?」
この店のオーナーでもないし権限はないからと言おうと思ったら、鬼島さんはこっちの話も聞かずに名刺を置いて帰ってしまった。
それにしてもいきなり現れて、少ししか喋ってないが上から目線だし、この地域を馬鹿にするような言い方をしていたのがどうしても気になる…… あまり良い印象ではないな。
◇
「お嬢様、少し印象が悪くなってしまったのでは?」
「はぁっ、あんな小汚ない店、一秒でも早く出たくて簡潔に伝え過ぎましたわ…… でも鬼島グループの名前くらい調べればすぐに出てくるでしょうし、利益を望めると分かればすぐに尻尾を振ってお願いしてくるに決まってますわ! おーっほっほっ!」
「お嬢様、また強引なやり方でねじ伏せて…… 最終的にはいつものように乗っ取る形になりそうだな」
「こればかりは仕方がないさ、お嬢様も次期社長となる事が決まっているから少々焦っているんだろう」
「あの団子屋も鬼島グループを敵に回す訳にはいかないだろうから、お嬢様の提案を受け入れるのも時間の問題だろうな」
「お嬢様は頑固だからな…… これと言ったらなかなか曲げないし、拒めば…… あの若い店主もかわいそうに」
「でもお嬢様の商売に対する嗅覚みたいなものは確かだから、きっとすぐに人気店になって店主も喜ぶだろう…… 自分の思い通りには出来なくなるがな」
◇
「鬼島グループって、不動産から飲食店まで幅広く事業をしている大きな会社みたいですよ、私の出演していたテレビ番組のスポンサーにもなってましたし」
「そうなのか…… ただ、あの副社長とか名乗った人、あまり良い印象じゃなかったんだよなぁ」
「『こんな田舎』とか言ってたの聞こえたぞ、ここが田舎ならあたしの実家なんてどうなるんだよ、ここは都会じゃないか!」
いや、怒る所が違うような…… 輝衣にしてみたら都会かもしれないけど、どちらかというと田舎だとは思うぞ?
「もしチェーン店にしたら、ここはどうなっちゃうんだろうね?」
「結構強引なやり方で鬼島グループに吸収合併させられた会社が沢山あると噂されているみたいですし、大丈夫でしょうか?」
そんな噂があるのは気になるが、いくらなんでも無理矢理従わせるような事は行なわないだろう、それに俺の中で答えは決まっている。
家族みんなで必死に頑張って残してきた店で、そしていずれ俺が継ぐ店だ。
大金持ちになりたいわけじゃない、チェーン店じゃなくていい、この場所で吉備団子店の手作りの団子を喜んで買ってくれるお客さんのために営業していきたいんだ。
とりあえず俺一人に決定権はないから親父達が帰って来るまで返答はしなくて大丈夫だろう。
「ありがたい話だけど断るよ、きっと親父達も同じ考えだろうし」
やる気はないが、それでもこの団子屋を継いで守ってきた親父だ、やる気はないけど。
「桃くんが決めた事なら私は賛成だよ」
「あたしだって! へへっ、今まで通りみんなで頑張ろうぜ!」
「そうですね、お義父様やお義母様が帰ってきてから決めたって大丈夫ですし」
親父達が帰ってくるまであと一ヶ月くらいだ。
今は俺が一人前になる事だけを考えて頑張って団子作りに専念しよう!
「えへへっ、桃くん……」
「あっ! ズルいですよ千和ちゃん!」
「二人ともすぐに桃太とベタベタしたがるな、あたしもベタベタさせろ!」
ああ! また始まった…… こらっ、おだんごを取り出そうとするな! んぐっ、だからといってリンゴを無理矢理口の中に入れようとして……
「じゃあ大福、食べますか? それとも桃が良いですか?」
「桃くんはスイカが好きだもんねー? えへへっ、はい、召し上がれ」
「はぅっ! ……へへっ、ちい、残念だったな、今はリンゴに夢中…… んっ、なんだよ!」
「んっ、でもスイカも食べたいみたいだよ?」
「も、桃…… 剥かれちゃいましたぁ……」
今日もみんなで楽しいお夜食の時間が始まっちゃいそうだな。
◇
「失礼しますお嬢様、新店舗と新たな従業員の確保が出来ました」
「あら、仕事が早いわね…… で? あの団子屋から連絡は?」
「いえ…… あれから一切連絡はありません」
「あの団子屋…… はぁっ、仕方ありませんわね、予定通り進めなさい」
「かしこまりました」
◇
「桃くん……」
「これでは……」
「どうするんだよ……」
「三人とも家の中で休んでてくれ」
どういう事だよ、これ……
ここ最近、調子の良かった『吉備団子店』の経営。
だが、『吉備団子店』が存続の危機に陥いる事態が起こった。
そしてフルーツ団子を買ってくれたお客さんがそれを更にSNSに上げてくれて、次の日には更に若いお客さんが増えていて、吉備団子店の知名度もかなり上がったと思う。
定番の団子の売れ行きも好調だし、仕事は忙しいけど毎日とても充実していて、私生活でも三人とより絆が強くなったと感じている。
「桃太ぁっ! あぁ、んっ、お、美味しかったぁぁ……」
「も、桃太、さぁん…… もっとぉ、おだんご食べたいですぅ」
「はぁっ、はぁっ…… えへへっ、お腹いっぱいだよぉ……」
お夜食作りも大変だが、三人が喜んで食べてくれるからついつい張り切って作ってしまいがち。
次の日が定休日だったりすると、動けないくらい食べ過ぎてそのまま寝てしまう事もあるくらいだ。
ただ、四人で色々とするには少々狭い部屋だからそろそろ部屋のリフォームか、思い切って増築でもしたいなぁ。
親父達が帰って来たら相談してみようかな?
そんなある日……
「いらっしゃいませ!」
「ここが『吉備団子店』ですわよね…… 店主はいらっしゃいますか?」
高級そうな紺色のリクルートスーツでピシッと決めた女性が、ガタイのいいサングラスをかけた男性二人を引き連れて来店してきた。
女性は背中にかかるくらいの毛先を巻いた綺麗な金髪に、外国人なのか青い瞳に高い鼻、少しキツく感じるタイプの顔立ちの美人だ。
しかも千和並みのメロンがスーツを押し上げていて…… 目のやり場に困る。
「て、店主は不在で、今は自分が店主代行をしておりまして…… どういったご用件でしょうか?」
「ふーん、ずいぶんと若いですわね、まあいいですわ…… わたくし鬼島《きじま》グループ副社長で飲食部門担当の、鬼島葵《きじまあおい》と申しますわ、単刀直入に言いますが『鬼島グループ』の傘下に入って、この店をチェーン展開してみませんか?」
……えっ? 『吉備団子店』をチェーン店にしないかって事か?
「いや…… 急にそんな事を言われても困るんですが……」
「最近評判が良いみたいですし、あなたのお店も鬼島グループの傘下に入れば今よりももっと売上も見込めますわ、それにわたくしの会社でもっと良い場所に出店出来るよう出資して差し上げますから、その方があなたにもメリットがあるし、何よりこんな田舎の古くさい店で営業しなくても済みますわ」
…………
「あ、あの! 俺はこの店……」
「すぐに決断するのは難しいでしょうから、良ければこちらに連絡頂けますか?」
この店のオーナーでもないし権限はないからと言おうと思ったら、鬼島さんはこっちの話も聞かずに名刺を置いて帰ってしまった。
それにしてもいきなり現れて、少ししか喋ってないが上から目線だし、この地域を馬鹿にするような言い方をしていたのがどうしても気になる…… あまり良い印象ではないな。
◇
「お嬢様、少し印象が悪くなってしまったのでは?」
「はぁっ、あんな小汚ない店、一秒でも早く出たくて簡潔に伝え過ぎましたわ…… でも鬼島グループの名前くらい調べればすぐに出てくるでしょうし、利益を望めると分かればすぐに尻尾を振ってお願いしてくるに決まってますわ! おーっほっほっ!」
「お嬢様、また強引なやり方でねじ伏せて…… 最終的にはいつものように乗っ取る形になりそうだな」
「こればかりは仕方がないさ、お嬢様も次期社長となる事が決まっているから少々焦っているんだろう」
「あの団子屋も鬼島グループを敵に回す訳にはいかないだろうから、お嬢様の提案を受け入れるのも時間の問題だろうな」
「お嬢様は頑固だからな…… これと言ったらなかなか曲げないし、拒めば…… あの若い店主もかわいそうに」
「でもお嬢様の商売に対する嗅覚みたいなものは確かだから、きっとすぐに人気店になって店主も喜ぶだろう…… 自分の思い通りには出来なくなるがな」
◇
「鬼島グループって、不動産から飲食店まで幅広く事業をしている大きな会社みたいですよ、私の出演していたテレビ番組のスポンサーにもなってましたし」
「そうなのか…… ただ、あの副社長とか名乗った人、あまり良い印象じゃなかったんだよなぁ」
「『こんな田舎』とか言ってたの聞こえたぞ、ここが田舎ならあたしの実家なんてどうなるんだよ、ここは都会じゃないか!」
いや、怒る所が違うような…… 輝衣にしてみたら都会かもしれないけど、どちらかというと田舎だとは思うぞ?
「もしチェーン店にしたら、ここはどうなっちゃうんだろうね?」
「結構強引なやり方で鬼島グループに吸収合併させられた会社が沢山あると噂されているみたいですし、大丈夫でしょうか?」
そんな噂があるのは気になるが、いくらなんでも無理矢理従わせるような事は行なわないだろう、それに俺の中で答えは決まっている。
家族みんなで必死に頑張って残してきた店で、そしていずれ俺が継ぐ店だ。
大金持ちになりたいわけじゃない、チェーン店じゃなくていい、この場所で吉備団子店の手作りの団子を喜んで買ってくれるお客さんのために営業していきたいんだ。
とりあえず俺一人に決定権はないから親父達が帰って来るまで返答はしなくて大丈夫だろう。
「ありがたい話だけど断るよ、きっと親父達も同じ考えだろうし」
やる気はないが、それでもこの団子屋を継いで守ってきた親父だ、やる気はないけど。
「桃くんが決めた事なら私は賛成だよ」
「あたしだって! へへっ、今まで通りみんなで頑張ろうぜ!」
「そうですね、お義父様やお義母様が帰ってきてから決めたって大丈夫ですし」
親父達が帰ってくるまであと一ヶ月くらいだ。
今は俺が一人前になる事だけを考えて頑張って団子作りに専念しよう!
「えへへっ、桃くん……」
「あっ! ズルいですよ千和ちゃん!」
「二人ともすぐに桃太とベタベタしたがるな、あたしもベタベタさせろ!」
ああ! また始まった…… こらっ、おだんごを取り出そうとするな! んぐっ、だからといってリンゴを無理矢理口の中に入れようとして……
「じゃあ大福、食べますか? それとも桃が良いですか?」
「桃くんはスイカが好きだもんねー? えへへっ、はい、召し上がれ」
「はぅっ! ……へへっ、ちい、残念だったな、今はリンゴに夢中…… んっ、なんだよ!」
「んっ、でもスイカも食べたいみたいだよ?」
「も、桃…… 剥かれちゃいましたぁ……」
今日もみんなで楽しいお夜食の時間が始まっちゃいそうだな。
◇
「失礼しますお嬢様、新店舗と新たな従業員の確保が出来ました」
「あら、仕事が早いわね…… で? あの団子屋から連絡は?」
「いえ…… あれから一切連絡はありません」
「あの団子屋…… はぁっ、仕方ありませんわね、予定通り進めなさい」
「かしこまりました」
◇
「桃くん……」
「これでは……」
「どうするんだよ……」
「三人とも家の中で休んでてくれ」
どういう事だよ、これ……
ここ最近、調子の良かった『吉備団子店』の経営。
だが、『吉備団子店』が存続の危機に陥いる事態が起こった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ダメな君のそばには私
蓮水千夜
恋愛
ダメ男より私と付き合えばいいじゃない!
友人はダメ男ばかり引き寄せるダメ男ホイホイだった!?
職場の同僚で友人の陽奈と一緒にカフェに来ていた雪乃は、恋愛経験ゼロなのに何故か恋愛相談を持ちかけられて──!?
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる