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おだんご、ねぇ……

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 親父達が旅行に行って一ヶ月、忙しい日々が続いているが、慣れてくれば楽しくなってくるもんだな。

「桃くん? おーい、聞いてるー?」

「聞こえないふりをしてるんじゃないですか?」

「おい! あたし達の話を聞けよ」

 団子の売れ行きも好調だし、味や食感もばあちゃんの団子に近くなってきた。

「そろそろおだんご、食べたいんだけど……」

「昨日は千和ちゃんが最初に食べたから、今日は私からですね」

「じゃあ、あたし二番目ー!」

「えへへっ、じゃあ私が最後かぁ」

 おだんご、ねぇ…… 

 輝衣がバイトに来るようになって、俺がおだんごを作らなければいけない量が更に多くなったような気がする。

 それはいいんだけど、美鳥に加え、輝衣までもが俺の家に泊まりに来るようになって色々と大変なんだ。

 特に大変なのは寝る場所。
 せっかくのお泊まりだからとみんな一緒に寝たがるから……
 俺の部屋は狭いんだから四人並んで寝るとぎゅうぎゅう詰めになるんだよ。

 しかも三人とも寝相が悪いのか、気付けば俺の方に寄ってくるから寝不足気味だし。

 だからといってリビングで寝るのは…… 近所迷惑にならないかと少し心配になるからやめている。

「桃太さん…… 味見しますね」

「桃太…… いいだろ?」

「桃くん…… おだんご、私達にちょうだい……」

 ……うん、明日考えよう。


 ◇


「おまたせしました、みたらしとあんこが五本ずつになります」

「千和ちゃん、今日も頑張ってるねぇ、看板娘が板についてきたんじゃないかい?」

「うふふっ、ありがとうございます」

「でも、ライバルが現れて大変だねぇ」

「そんな事ないですよ、みんな仲良しですから…… ねっ、桃くん?」

「あ、あぁ……」

「あらまぁ…… 桃太ちゃんもやるわねぇ」

 常連のおばちゃんにまでからかわれるくらい、俺達の事は近所で噂になっているみたいだ。

 なぜ分かるかというと『吉備さんちの桃太ちゃんと三色団子娘』なんて話題を近所のおばちゃん達が道端で笑いながら話しているのを聞いてしまったから。

 親父と母さんがあんな風だから、息子の俺もそうだと思われてるなら心外だな。
 俺は親父達とは違うんだ! ……多分。

「あんっ…… 桃くんったら…… うふふっ」

「あっ、ごめん……」

 おっと、気が付けば無意識に手が千和のメロンにいた。

「別に良いんだけどね、私はいつでも…… ねぇ、桃くん……」

 顔を少し赤らめて俺をジッと見つめている、どうやらメロンタッチで千和のやる気スイッチが入ってしまったみたいだ。

「ふふっ、桃くん? んー……」

 ……分かったよ。



「ただいまー…… って、何してるんだよ」

「んんっ…… ぷはぁ、あっ、きーちゃんおかえり!」

「おかえり、じゃないよ…… ちいも桃太も、キスするなら家の中でやれ」

「えぇ? ちょっとキスしてただけでしょ?」

「ちょっとじゃないだろ…… ほら、終わり終わり! もしもお客さん来たらビックリするだろ? 早く離れろ」

 危ない、少しだけのつもりが千和が積極的でついつい…… 

「ところでその抱えてる段ボールは何なんだ?」

「ああ? あー、これ実家から送られて来た果物だよ、早く食べないと駄目なやつもあるから持って来た、みんなで食べよーぜ」

「うわっ、こんなにたくさん…… ありがとう、輝衣の両親にもお礼を言っておいてくれ」

「うん、そういえば親が『桃太を紹介しろ』ってうるさいんだよなぁ」

「えっ、俺を?」

「ああ、最近仲良くしている男の子がいるって言ったら、おっ母…… じゃなくてお母さんが騒いじゃって、あははっ! 『仲良くするのはいいけど、ちゃんとしなさいよ?』だってさ…… ちゃんとしてるのにな?」

 何をちゃんとするんだ…… まあ、ちゃんとしてるけど。

「うふふっ」

 千和は笑っているが、こっそりちゃんとしないようにする時があるから危ないんだよ。

 とにかく、今度お礼の電話をするから、心配しないで欲しい。

「そっか、お母さんもきっと喜ぶよ、ところでみいは…… あっ、仕事だったっけ? じゃあ家の中に置いてくるか」

 いや、重いだろうから俺が運んどくよ。
 っていうか、言ってくれれば俺が輝衣の家から運んだのに。

「仕事中だし悪いと思ってな、少し重かったけど地元でよく手伝いをして運び慣れてるから大丈夫…… いや、待てよ? ああ…… 失敗した、その手があったか」

「ダメだよきーちゃん、つまみ食いは」

「そういうちいだってつまみ食いみたいな事してるだろ?」

 おいおい、ケンカはダメだぞ……

「つまみ食いする時はキチンと連絡するって決めたでしょ?」

「ああ…… そういえばそうだった、つまみ食いする時は、な? 味見くらいはいいんだろ?」

「うん、お夜食に影響ないくらいだったらね?」

 一体何の話をしてるんだ!? 俺の知らないルールが三人の中で出来ているみたいだけど。

「あっ、桃くんは気にしないで? 大丈夫だから」

「そう、大丈夫だから」

 いや、だから何が大丈夫なんだよ…… 気になるだろ。


 気付けば輝衣もあっという間に千和と美鳥と仲良くなった。
 同じ釜の飯を食えば仲良くなると言うが、同じおだんご、でもいいのだろうか?

 暇があれば三人で買い物に行ったり遊びに行ったりと、まるで姉妹かのようにいつも楽しそうに喋っている。

 俺はというと、店があるからなかなか遊びには行けないが、そんな俺のためにと今度連休を作り、みんなで出かける予定になっている。

 何をするかは決まってないが、日頃の疲れを癒す慰安旅行みたいな感じにしたいと三人とも話していたな。

 俺はただ付いて行くだけになりそうだけど。
 だって話し合いしているのは主に三人、決定権も三人……

「んー、この時期だとどこの宿も高いね」

「でも、みいもいるしあまり目立つ所もいけないだろ? そうなれば値段よりも場所だろ」

「そうだね、えへへっ、みんなで旅行…… 楽しみだね!」

「ああ! みいもここ最近、楽しみでそわそわしてるもんな」

「そういうきーちゃんだって、奮発して新しい下着……」

「わぁぁっ! 内緒だって言っただろ!? ……ふぅ、桃太には聞こえてないみたいだな」

 ……聞こえてるけど聞こえてないフリしてるんだよ。
 だって下着も三人で買いに行ったんだろ? 『当日まで内緒だからね?』って、俺のいる前で話していたし。

 あとついでに、おだんご食べる相談もしてたよな? 俺のいる前で。
 
 今だって俺を挟んで座りながら内緒話のつもりの事を話しているんだからな。

「どうしたの桃くん? 難しい顔して」

「元気ないな? ほら! 手を貸せ…… んっ、へへっ」

「きーちゃん、大胆だねー、じゃあ私も…… えへへっ」

 元気がないんじゃなくて、ただ邪魔しないよう大人しくしてるだけなのに…… うん、柔らかなりんごとメロンだ。

「ただいま帰りました…… って、何やってるんですか? ズルいですよ?」

「あっ…… おかえり、美鳥さん」

「んっ…… みい、おかえり!」

「桃太さん?」

「あ、ああ、おかえり…… 美鳥、おいで?」

「うふふっ、はーい!」

 拗ねてしまいそうになっている美鳥を呼び寄せおかえりのハグをすると、途端にご機嫌になる。
 そしていつものように千和と輝衣ともハグをして……

「はい、私のも…… どうぞ」

 美鳥から大福も頂いて……




「うふふっ、旅行、楽しみですね!」

「ああ! 都会に来て初めての旅行だ……」 

「えへへっ、楽しみだね…… 桃くん」

「そうだな…… っ!」

 俺のでおだんごを食べながら微笑む千和、左右にはピッタリとくっつきながらおだんごを食べて満足した美鳥と輝衣。

 楽しみではあるが…… 旅行中、大丈夫か俺? と、少し不安になる。


「んっ…… 桃くんのおだんご…… 美味し、ふふっ……」
 
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