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桃くん、食べさせるのが上手 (千和 過去)
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あぁ…… また食べ過ぎて起き上がれないよぉ。
……桃くん、食べさせるのが上手。
お風呂でおだんごをおねだりをして、お風呂上がりに桃くんのお部屋でお夜食を食べて…… はぁ、満たされて幸せ。
となりで眠る桃くんのほっぺたをツンツンしつつ、満腹感に浸りながら色々と思い出していた。
桃くんと私は家がお向かいで、物心つく頃から一緒に遊んでいた、いわゆる幼馴染。
引っ込み思案だった私をいつも引っ張ってくれる、とても明るい優しくて頼もしい素敵な男の子。
私はそんな桃くんの事が昔からずっと大好きだった。
でも桃くんは小学生になった頃から、私なんかよりも団子作りに夢中になっていた。
学校が終わればほとんど遊びに行かずに真っ直ぐ自宅に帰り、桃くんのおじさんおばさん、そしてあの頃はまだ健在だったおばあさんに付きっきりで団子作りを教わったりとお店の手伝いをしていて、私は凄く寂しかった。
それでも桃くんのそばにいたかった私は、団子作りを見学させて欲しいとお願いして、桃くんがいる時は毎日のように調理場に入れてもらっていた。
桃くんのおばあさんが用意してくれた椅子に座り黙々と働く桃くんを目で追う、その時の椅子は今でも調理場に置いてある、思い出の詰まった大切な私専用の一脚の椅子。
そのうち桃くんの働く姿だけではなく、団子が出来上がっていく様子や途中おじさんがおばさんと仲良くし過ぎで怒られたりしている様子も見ていたら面白くて、ついつい長い時間居座ってしまっていたなぁ。
今思えば、あの時色々と見学させてもらったおかげで桃くんのお手伝いを出来ているので見ていて良かったなと思う。
桃くんの家族は皆仲良し…… あの時の私はとても羨ましいと感じていた。
私のお父さんとお母さんは多分仲良くない。
いつもお母さんだけが喋っていて、お父さんは無口、もしかしたらお母さんがうるさいから無視しているのかも…… なんて不安を抱えながら過ごしていた小学生時代を思い出すと少し胸が苦しくなる。
そんな不安がピークに達したのが中学生の頃。
深夜にトイレに起きた時に両親の部屋からお母さんの悲鳴が聞こえた。
一瞬何が起きているのか分からなかったが、恐くなった私は一歩も動けずその場で聞き耳を立てていた。
無口なはずのお父さんがお母さんを罵るような事を言いながら『パチンパチン』と肌を叩いているような音、それに対しお母さんが謝りながら悲鳴を上げていた。
『イヤ』『もうやめて』『壊れちゃう』『ごめんなさい』、悲鳴と共にお母さんが許しを乞うような事を言っているのに止まらない叩く音。
無口なお父さんがあんな酷い事をお母さんに言うなんて信じられなかった。
両親が不仲なのを目の当たりにした私は急いで部屋に戻り、布団にくるまって耳を塞ぎながら涙を流した。
そして朝、恐る恐るリビングに行くと、深夜の出来事など何も無かったかのようにリビングに両親が揃っていた。
お父さんはいつも通りテレビのニュースを見て、お母さんが朝ごはんを作りながら話しかけているが一人で喋っているような様子。
それもいつも通りなのだが、空元気なのか分からないけど、お母さんの口数がいつもより多いのがより不気味に感じたのを今でも覚えている。
そして私はその日から家に帰るのが辛くなって、我慢出来ずに桃くんに助けを求めてしまった。
今まで感じていた両親への不安を桃くんに話して、少しでも楽になりたかった。
そんな私の話を聞いてくれた桃くんは、今にも泣きそうな私を抱き締めて
『俺はずっと千和の味方だ、寂しかったり辛かったらいつでも頼ってくれ』と言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、桃くんに抱き締められながらわんわん泣いた。
この出来事があって、私は桃くんの事がもっともっと好きになった。
はぁ…… あの頃からかな? 私の心を救ってくれた桃くんになら、私のすべてを捧げていいと思うようになったのは。
その日からちょくちょく桃くんの家に逃げるようにお泊まりさせてもらうようになって、そして……
桃くんだって男の子だもんね、うん…… 私だって興味が無かった訳じゃないし、桃くんだったらいいかなぁって。
桃くんのおだんごを初めて試食……
味はあまり美味しく感じなかったけど…… お腹は満たされた。
でも不思議とまた食べたくなる味で、お泊まりの時はこっそりと二人でおだんごを食べるのが定番になってしまった。
今では生地作りから上手になって、美味しくて癖になる味になり、ついつい私からおだんごをおねだりしてばっかりだけど、すぐに作ってくれる桃くんにはいつも感謝している。
そして悩みであったはずの両親の事でも私自身に心の変化が訪れた。
実は仲良しなのでは? そう思うようになったのは桃くんのおだんごを食べてから。
悲鳴は悲鳴でも『嬉しい悲鳴』…… だったんだね? 私だって……
って事は、お父さんのあれも……
時々お母さんの悲鳴が『犬の遠吠え』みたいだったもんね、『犬』と言えば『犬』なのかな? 女性だし。
お父さんがお母さんに言っていたのはあながち間違いでは無さそう。
お母さんも実は言われて喜んで…… イヤっ! 何で桃くんとおだんごを食べている時の事を思い出しているの、私!? はぁん…… また食べたくなってきたぁ……
私の頭の中で『おだんご=喧嘩していた両親』というのがよぎってから、注意深く、時にはこっそりと両親の様子を観察してみた。
するとある事が分かった。
お母さんが一人で喋っているように見えて、実はお父さんが小さく相槌を打っている事。
私が見てない時にはお父さんがお母さんに甘えている事。
そして私が桃くんの家にお泊まりしに行く日は必ずといっていいほど……
お泊まりの日に忘れ物をしたのを思い出して、夜遅かったけど家に一旦帰ったら…… 聞こえちゃった。
結論として、お父さんはただの恥ずかしがり屋で、娘の私の前ですらお母さんと仲良くしているのを見られるが恥ずかしかっただけみたい。
はぁ、悩んでいたのが馬鹿みたい。
でもその悩みのおかげで桃くんとの関係が深まったから結果的には良かったけど。
両親に対しての悩みは解決したが、私にはまた新たな悩みが出来てしまった。
桃くんのおだんごが癖になってしまったのと、桃くんのおだんご作りのペース。
桃くんったら私一人じゃ食べきれないくらい作っちゃうから……
出来ることならすべて私一人で食べてあげたいけど、どうしても食べられない日もあるし…… うーん、いつもお腹いっぱい満たされて幸せだけど、桃くんが満足できないなら誰かにお裾分けしてあげたいくらい、それは桃くん次第だけど。
だから私は桃くんとは恋人にならない。
本当は桃くんもおだんごも一人占めしたい、でも長い目で見ると、いずれ一人では持たなくなる日が来ると思う。
どうしても私だけに食べさせたいと言ってくれるなら天にも昇るくらいに嬉しいんだけど、桃くんはまだ高校生で団子屋の修行中、だからこれからまだおだんごを食べさせてあげたい人が現れる可能性がある。
だから恋人にはならない。
でもだからといって桃くんのそばから離れるつもりもない、絶対に。
いつも一緒に居てくれて、不安だった私救ってくれた桃くんには、私のすべてを捧げ、これからも尽くしていきたい。
でも、尽くし過ぎて重い女と思われないようにしないと……
うぅん、私ももうそろそろ寝よ…… ふふっ、桃くん……
寝顔を見つめるのをやめ、布団に潜り込むと身体を寄せた。
桃くんの体温を直に感じながら眠るのはとても幸せ……
目を閉じると、ほどよい疲労感と桃くんのぬくもりで、私はすぐに眠りについた。
おやすみ桃くん…… 大好き……
……んんっ、あれ? 何だろ?
あっ! ちょっと…… もう!
桃くんったら……
ううん、イヤ、じゃないよ……
うん…… いいよ……
どうぞ……
召し上がれ…… ふふっ
……桃くん、食べさせるのが上手。
お風呂でおだんごをおねだりをして、お風呂上がりに桃くんのお部屋でお夜食を食べて…… はぁ、満たされて幸せ。
となりで眠る桃くんのほっぺたをツンツンしつつ、満腹感に浸りながら色々と思い出していた。
桃くんと私は家がお向かいで、物心つく頃から一緒に遊んでいた、いわゆる幼馴染。
引っ込み思案だった私をいつも引っ張ってくれる、とても明るい優しくて頼もしい素敵な男の子。
私はそんな桃くんの事が昔からずっと大好きだった。
でも桃くんは小学生になった頃から、私なんかよりも団子作りに夢中になっていた。
学校が終わればほとんど遊びに行かずに真っ直ぐ自宅に帰り、桃くんのおじさんおばさん、そしてあの頃はまだ健在だったおばあさんに付きっきりで団子作りを教わったりとお店の手伝いをしていて、私は凄く寂しかった。
それでも桃くんのそばにいたかった私は、団子作りを見学させて欲しいとお願いして、桃くんがいる時は毎日のように調理場に入れてもらっていた。
桃くんのおばあさんが用意してくれた椅子に座り黙々と働く桃くんを目で追う、その時の椅子は今でも調理場に置いてある、思い出の詰まった大切な私専用の一脚の椅子。
そのうち桃くんの働く姿だけではなく、団子が出来上がっていく様子や途中おじさんがおばさんと仲良くし過ぎで怒られたりしている様子も見ていたら面白くて、ついつい長い時間居座ってしまっていたなぁ。
今思えば、あの時色々と見学させてもらったおかげで桃くんのお手伝いを出来ているので見ていて良かったなと思う。
桃くんの家族は皆仲良し…… あの時の私はとても羨ましいと感じていた。
私のお父さんとお母さんは多分仲良くない。
いつもお母さんだけが喋っていて、お父さんは無口、もしかしたらお母さんがうるさいから無視しているのかも…… なんて不安を抱えながら過ごしていた小学生時代を思い出すと少し胸が苦しくなる。
そんな不安がピークに達したのが中学生の頃。
深夜にトイレに起きた時に両親の部屋からお母さんの悲鳴が聞こえた。
一瞬何が起きているのか分からなかったが、恐くなった私は一歩も動けずその場で聞き耳を立てていた。
無口なはずのお父さんがお母さんを罵るような事を言いながら『パチンパチン』と肌を叩いているような音、それに対しお母さんが謝りながら悲鳴を上げていた。
『イヤ』『もうやめて』『壊れちゃう』『ごめんなさい』、悲鳴と共にお母さんが許しを乞うような事を言っているのに止まらない叩く音。
無口なお父さんがあんな酷い事をお母さんに言うなんて信じられなかった。
両親が不仲なのを目の当たりにした私は急いで部屋に戻り、布団にくるまって耳を塞ぎながら涙を流した。
そして朝、恐る恐るリビングに行くと、深夜の出来事など何も無かったかのようにリビングに両親が揃っていた。
お父さんはいつも通りテレビのニュースを見て、お母さんが朝ごはんを作りながら話しかけているが一人で喋っているような様子。
それもいつも通りなのだが、空元気なのか分からないけど、お母さんの口数がいつもより多いのがより不気味に感じたのを今でも覚えている。
そして私はその日から家に帰るのが辛くなって、我慢出来ずに桃くんに助けを求めてしまった。
今まで感じていた両親への不安を桃くんに話して、少しでも楽になりたかった。
そんな私の話を聞いてくれた桃くんは、今にも泣きそうな私を抱き締めて
『俺はずっと千和の味方だ、寂しかったり辛かったらいつでも頼ってくれ』と言ってくれた。
その言葉が嬉しくて、桃くんに抱き締められながらわんわん泣いた。
この出来事があって、私は桃くんの事がもっともっと好きになった。
はぁ…… あの頃からかな? 私の心を救ってくれた桃くんになら、私のすべてを捧げていいと思うようになったのは。
その日からちょくちょく桃くんの家に逃げるようにお泊まりさせてもらうようになって、そして……
桃くんだって男の子だもんね、うん…… 私だって興味が無かった訳じゃないし、桃くんだったらいいかなぁって。
桃くんのおだんごを初めて試食……
味はあまり美味しく感じなかったけど…… お腹は満たされた。
でも不思議とまた食べたくなる味で、お泊まりの時はこっそりと二人でおだんごを食べるのが定番になってしまった。
今では生地作りから上手になって、美味しくて癖になる味になり、ついつい私からおだんごをおねだりしてばっかりだけど、すぐに作ってくれる桃くんにはいつも感謝している。
そして悩みであったはずの両親の事でも私自身に心の変化が訪れた。
実は仲良しなのでは? そう思うようになったのは桃くんのおだんごを食べてから。
悲鳴は悲鳴でも『嬉しい悲鳴』…… だったんだね? 私だって……
って事は、お父さんのあれも……
時々お母さんの悲鳴が『犬の遠吠え』みたいだったもんね、『犬』と言えば『犬』なのかな? 女性だし。
お父さんがお母さんに言っていたのはあながち間違いでは無さそう。
お母さんも実は言われて喜んで…… イヤっ! 何で桃くんとおだんごを食べている時の事を思い出しているの、私!? はぁん…… また食べたくなってきたぁ……
私の頭の中で『おだんご=喧嘩していた両親』というのがよぎってから、注意深く、時にはこっそりと両親の様子を観察してみた。
するとある事が分かった。
お母さんが一人で喋っているように見えて、実はお父さんが小さく相槌を打っている事。
私が見てない時にはお父さんがお母さんに甘えている事。
そして私が桃くんの家にお泊まりしに行く日は必ずといっていいほど……
お泊まりの日に忘れ物をしたのを思い出して、夜遅かったけど家に一旦帰ったら…… 聞こえちゃった。
結論として、お父さんはただの恥ずかしがり屋で、娘の私の前ですらお母さんと仲良くしているのを見られるが恥ずかしかっただけみたい。
はぁ、悩んでいたのが馬鹿みたい。
でもその悩みのおかげで桃くんとの関係が深まったから結果的には良かったけど。
両親に対しての悩みは解決したが、私にはまた新たな悩みが出来てしまった。
桃くんのおだんごが癖になってしまったのと、桃くんのおだんご作りのペース。
桃くんったら私一人じゃ食べきれないくらい作っちゃうから……
出来ることならすべて私一人で食べてあげたいけど、どうしても食べられない日もあるし…… うーん、いつもお腹いっぱい満たされて幸せだけど、桃くんが満足できないなら誰かにお裾分けしてあげたいくらい、それは桃くん次第だけど。
だから私は桃くんとは恋人にならない。
本当は桃くんもおだんごも一人占めしたい、でも長い目で見ると、いずれ一人では持たなくなる日が来ると思う。
どうしても私だけに食べさせたいと言ってくれるなら天にも昇るくらいに嬉しいんだけど、桃くんはまだ高校生で団子屋の修行中、だからこれからまだおだんごを食べさせてあげたい人が現れる可能性がある。
だから恋人にはならない。
でもだからといって桃くんのそばから離れるつもりもない、絶対に。
いつも一緒に居てくれて、不安だった私救ってくれた桃くんには、私のすべてを捧げ、これからも尽くしていきたい。
でも、尽くし過ぎて重い女と思われないようにしないと……
うぅん、私ももうそろそろ寝よ…… ふふっ、桃くん……
寝顔を見つめるのをやめ、布団に潜り込むと身体を寄せた。
桃くんの体温を直に感じながら眠るのはとても幸せ……
目を閉じると、ほどよい疲労感と桃くんのぬくもりで、私はすぐに眠りについた。
おやすみ桃くん…… 大好き……
……んんっ、あれ? 何だろ?
あっ! ちょっと…… もう!
桃くんったら……
ううん、イヤ、じゃないよ……
うん…… いいよ……
どうぞ……
召し上がれ…… ふふっ
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